顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!

小池 月

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Ⅷ 寄り添って

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蓮の会見から二年が経った。

ルカは発情期の度に蓮と過ごし、すでに恋人のような関係だと感じている。でも互いにケジメのために恋人未満を貫いている。蓮は昨年度の助演男優賞をもらったが『主演で賞を取っていないから、まだダメだ』と言っている。ルカは蓮が満足するまで待とうと思っている。ま、炊きつけたのはルカなワケだし。

 ルカの仕事は順調で『ジェントルアルファ』と女性向けファッション雑誌『スィートアルファ』の専属モデルを継続中。有難いことに読者人気一位を維持している。CMは三社と契約中。自分でもよく頑張っていると思う。

蓮が番として発情期を過ごしてくれているからフェロモン相殺治療は中止した。抑制剤を内服せずに過ごせるため体調が安定している。これも仕事が順調な要因の一つになっている。

「ルカ君、時計メーカーの広告用撮影が今週に早まりそうだよ。あのメーカーは自然の風景での撮影を好むから。紅葉の具合らしい」

田村さんに声をかけられる。

「はい。分かりました。そう言えば田村さん、そろそろ奥さんの出産ですよね?」
「そうなんだよ。もう、毎日ドキドキしているよ」

田村さんは昨年結婚した。一つ年下のベータ女性の奥さん。いつも支えてくれる田村さんの幸せはルカにとっても嬉しい。育児のことや心構えなど楽しく聞かせてもらった。


 「いったん休憩で~~す」
撮影スタッフの声で小休憩に入る。撮影日が前倒しになった時計メーカーの広告。都会から少し離れた温泉街。紅葉と温泉街の中で撮影。昭和レトロな雰囲気が良いなぁと思う。温かいお茶をもらった時。

「ルカ君! ゴメン! 妻に陣痛が来たって!」
田村さんが慌てて転びそうになっている。

「え! すぐに帰った方がいいですよ」
「そうだけど、そうしたいけれど。ルカ君の帰りが困るから。どうしよう。会社にも連絡するよ」
あたふたと電話をする田村さん。ルカは時計メーカーの人に近くの駅まで乗せてもらえれば帰れる。

「田村さん、俺一人で帰れます」
「いや、そんなことはさせられないよ。ルカ君はうちのトップモデルだからね。会社から一人ここに向かってくれる。帰りは迎えに来た人に送ってもらってね。僕は出産休暇をとらせてもらうから。男性育休ってやつだよ」

「わかりました。奥さんに頑張ってくださいって伝えてください。赤ちゃんの写真送ってくださいね」
「うん。ありがとう。じゃ、お先にごめんね」

バタバタと帰る田村さんを見送った。田村さんがパパか。嬉しくて蓮に『田村さんの奥さんが陣痛始まったって。田村さん早退したよ』とメールする。すぐに『それは喜ばしいな。出産祝いを考えなくてはいけないな』と返事が来る。携帯電話を見つめながら(赤ちゃん可愛いだろうな)と頬が緩む。

休憩後の撮影は順調に進んだ。
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