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Ⅰ ファッティ体形男子
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凛太朗は注意を払って酒井を見守っていた。昼休みまでは何事もなく過ぎた。心配し過ぎたのだと安堵した昼休みにソレが起きた。
「おい、酒井。お前、パン多すぎだろ。だっからメタボおっさん体形なんだよ」
「ぶはっ! メタボおっさんってウケる。ファッティのがいいだろ!」
「ファッティって! ヤバすぎ!」
「ファッティ酒井か!」
面白おかしく笑う声が凛太朗に届いた。クラスの陽キャたちが酒井のもとに集まっている。彼らはこれまで酒井のことなど構っていなかったのに。
「つーか、購買パン、いくつ買ってんの?」
からかい目的なのは明らかだ。
クラスの中に彼らを止めてくれる人は居ないだろうか。凛太朗は願いを込めて教室を見回した。しかし、皆興味津々に酒井たちを見るだけだ。酒井の周囲で断続的に笑いが起きている。
凛太朗は意を決して席を立った。こんな雰囲気の中に入り込むのは苦手だ。でも、凛太朗は学級委員だから何とかしなくてはいけない。緊張にドキドキ鳴る心臓と、どうにかしようと思う責任感で頭がグラグラした。
「あ、あの!」
明るい声を上げている人たちの背中から精一杯の声を掛けた。
「は? 誰?」
「風見じゃん。何?」
明らかに怪訝な声が聞こえる。凛太朗は怖くて彼らの顔を見られなかった。下を向いて自分の声が震えないように祈っていた。耳の奥でドクドクと激しい音がする。
「あの、もう、そのくらいで、その……」
緊張しすぎて上手く喋れない。
「は? マジ何なん?」
「俺らはさぁ、酒井のために言ってるワケ。風見はコイツがビョーキになってもいいってのかよ? 俺らは親切にしてやってんの」
「学級委員なら俺らの優しさを分かれっての!」
矢継ぎ早に言葉が降り注ぎ、凛太朗は足が震えた。とても言い返すことなど出来なかった。
その時、静かな低い声が響いた。
「俺、病気になるのが嫌だから、風見君に何とかしてもらう」
聞えた言葉の意味が分からず、酒井の周囲にいる皆が一斉に首を傾げた。
「え? 酒井、何言ってんの?」
陽キャの一人が『心底意味わからない』という顔で酒井を見た。
「俺のデブを皆が気にするなら、俺は風見君に何とかしてもらうから、いい」
ハッキリとした声に周囲が圧倒されたのが分かった。
取り囲んでいた数人が嫌そうな顔をする。
「へぇ。じゃ、風見にダイエットコーチでもしてもらえよ。面白れぇじゃん。風見、責任もって酒井を痩せさせろよぉ」
「アホだろ、こいつら」
興が醒めたのか文句を言いながら彼らが離れていった。
それを見送って凛太朗は深呼吸をした。怖かった。まだ足がガクガクしている。
「はい。座ったほうが落ち着くと思うけど」
いつのまにか酒井が凛太朗に椅子を用意していた。
近くに立たれると酒井の大きさがよく分かる。覆いかぶさって来られたら凛太朗は一瞬で潰されるだろう。それほどに体格差がある。
さきほどメタボと言っていた陽キャの表現が似合うよな、と考えてしまう。
緊張の糸が切れて凛太朗は勧められた椅子に座った。
「はぁ、怖かった……」
つい口から言葉が零れた。
「風見君は、変わってる」
一息ついてから正面に座った酒井の顔を見た。存在感が薄くて酒井の顔をしっかり見たことは無かったが、ぽっちゃりした頬が印象的だ。厚い髪の毛が目元を隠している。
「酒井君は嫌じゃなかったのかよ?」
酒井はからかわれた時、まったく動じていなかった。今だってそうだ。凛太朗は興奮がなかなか冷めないのに、酒井は声が乱れることも無く平静だった。それを思うと凛太朗が勇気を出す必要は無かったのではないかと思える。
「嫌かどうか、よく分からない、かも。何か言ってんなぁと思ったけど。俺の体形を心配してもらうなら、あいつらより風見君の方が良いと思っただけ」
「酒井君って心臓が強いな」
「君はいらないよ。酒井か俊って呼んで。これから俺のダイエットコーチしてくれるんだろ?」
酒井の言葉に凛太朗は心底驚いた。あれはその場しのぎの言葉ではなかったのか。
「さっきの、冗談じゃないの?」
恐る恐る聞くと、酒井は相変わらずの落ち着いた様子でコクリと頷いた。
「あいつらが煩いから、凛太朗にお願いする」
「おい、さっそく名前呼びだし。ま、良いけど。あのさ、酒井。悪いけど、僕はダイエットは知らないんだ」
凛太朗は名前で呼ばれたけれど、少し照れてしまって酒井の事を下の名前では呼べなかった。せめて君を外してみたが、これで良かったのだろうか。凛太朗はそっと酒井の反応をみた。
酒井の丸い頬が満足そうにニコリとあがった。
「俺も知らない。痩せようとか思ったことないし。でも真面目に病気は困るしなぁ」
本当に困っているのか分からない表情の酒井を見つめた。
確かに今朝のプリントには、糖尿病は全身に影響のある病気で、心臓病や失明が起きるなどと書いてあった。凛太朗だって目の前の酒井がそうなったら辛い。
それに痩せないと先ほどの彼らが、またからかうかもしれない。
「じゃ、一緒にダイエットについて調べよう。それで出来そうなことから考えてみようよ」
「うん。凛太朗、ありがとう」
御礼の言葉を伝えてくる酒井の頬がやや染まっていた。
「まず、図書室にでも行ってみるか」
声を掛ければ嬉しそうに酒井が頷いた。
「じゃ、今日の放課後にどう?」
「オッケ。って、酒井は放課後用事ないの? 部活入ってない?」
「まぁ、うん。俺は帰宅部」
「僕と同じだ」
共通点が見つかって二人で微笑み合った。酒井は結構良いヤツかもしれない。一緒に頑張ってあげようかな、と思えた。
「おい、酒井。お前、パン多すぎだろ。だっからメタボおっさん体形なんだよ」
「ぶはっ! メタボおっさんってウケる。ファッティのがいいだろ!」
「ファッティって! ヤバすぎ!」
「ファッティ酒井か!」
面白おかしく笑う声が凛太朗に届いた。クラスの陽キャたちが酒井のもとに集まっている。彼らはこれまで酒井のことなど構っていなかったのに。
「つーか、購買パン、いくつ買ってんの?」
からかい目的なのは明らかだ。
クラスの中に彼らを止めてくれる人は居ないだろうか。凛太朗は願いを込めて教室を見回した。しかし、皆興味津々に酒井たちを見るだけだ。酒井の周囲で断続的に笑いが起きている。
凛太朗は意を決して席を立った。こんな雰囲気の中に入り込むのは苦手だ。でも、凛太朗は学級委員だから何とかしなくてはいけない。緊張にドキドキ鳴る心臓と、どうにかしようと思う責任感で頭がグラグラした。
「あ、あの!」
明るい声を上げている人たちの背中から精一杯の声を掛けた。
「は? 誰?」
「風見じゃん。何?」
明らかに怪訝な声が聞こえる。凛太朗は怖くて彼らの顔を見られなかった。下を向いて自分の声が震えないように祈っていた。耳の奥でドクドクと激しい音がする。
「あの、もう、そのくらいで、その……」
緊張しすぎて上手く喋れない。
「は? マジ何なん?」
「俺らはさぁ、酒井のために言ってるワケ。風見はコイツがビョーキになってもいいってのかよ? 俺らは親切にしてやってんの」
「学級委員なら俺らの優しさを分かれっての!」
矢継ぎ早に言葉が降り注ぎ、凛太朗は足が震えた。とても言い返すことなど出来なかった。
その時、静かな低い声が響いた。
「俺、病気になるのが嫌だから、風見君に何とかしてもらう」
聞えた言葉の意味が分からず、酒井の周囲にいる皆が一斉に首を傾げた。
「え? 酒井、何言ってんの?」
陽キャの一人が『心底意味わからない』という顔で酒井を見た。
「俺のデブを皆が気にするなら、俺は風見君に何とかしてもらうから、いい」
ハッキリとした声に周囲が圧倒されたのが分かった。
取り囲んでいた数人が嫌そうな顔をする。
「へぇ。じゃ、風見にダイエットコーチでもしてもらえよ。面白れぇじゃん。風見、責任もって酒井を痩せさせろよぉ」
「アホだろ、こいつら」
興が醒めたのか文句を言いながら彼らが離れていった。
それを見送って凛太朗は深呼吸をした。怖かった。まだ足がガクガクしている。
「はい。座ったほうが落ち着くと思うけど」
いつのまにか酒井が凛太朗に椅子を用意していた。
近くに立たれると酒井の大きさがよく分かる。覆いかぶさって来られたら凛太朗は一瞬で潰されるだろう。それほどに体格差がある。
さきほどメタボと言っていた陽キャの表現が似合うよな、と考えてしまう。
緊張の糸が切れて凛太朗は勧められた椅子に座った。
「はぁ、怖かった……」
つい口から言葉が零れた。
「風見君は、変わってる」
一息ついてから正面に座った酒井の顔を見た。存在感が薄くて酒井の顔をしっかり見たことは無かったが、ぽっちゃりした頬が印象的だ。厚い髪の毛が目元を隠している。
「酒井君は嫌じゃなかったのかよ?」
酒井はからかわれた時、まったく動じていなかった。今だってそうだ。凛太朗は興奮がなかなか冷めないのに、酒井は声が乱れることも無く平静だった。それを思うと凛太朗が勇気を出す必要は無かったのではないかと思える。
「嫌かどうか、よく分からない、かも。何か言ってんなぁと思ったけど。俺の体形を心配してもらうなら、あいつらより風見君の方が良いと思っただけ」
「酒井君って心臓が強いな」
「君はいらないよ。酒井か俊って呼んで。これから俺のダイエットコーチしてくれるんだろ?」
酒井の言葉に凛太朗は心底驚いた。あれはその場しのぎの言葉ではなかったのか。
「さっきの、冗談じゃないの?」
恐る恐る聞くと、酒井は相変わらずの落ち着いた様子でコクリと頷いた。
「あいつらが煩いから、凛太朗にお願いする」
「おい、さっそく名前呼びだし。ま、良いけど。あのさ、酒井。悪いけど、僕はダイエットは知らないんだ」
凛太朗は名前で呼ばれたけれど、少し照れてしまって酒井の事を下の名前では呼べなかった。せめて君を外してみたが、これで良かったのだろうか。凛太朗はそっと酒井の反応をみた。
酒井の丸い頬が満足そうにニコリとあがった。
「俺も知らない。痩せようとか思ったことないし。でも真面目に病気は困るしなぁ」
本当に困っているのか分からない表情の酒井を見つめた。
確かに今朝のプリントには、糖尿病は全身に影響のある病気で、心臓病や失明が起きるなどと書いてあった。凛太朗だって目の前の酒井がそうなったら辛い。
それに痩せないと先ほどの彼らが、またからかうかもしれない。
「じゃ、一緒にダイエットについて調べよう。それで出来そうなことから考えてみようよ」
「うん。凛太朗、ありがとう」
御礼の言葉を伝えてくる酒井の頬がやや染まっていた。
「まず、図書室にでも行ってみるか」
声を掛ければ嬉しそうに酒井が頷いた。
「じゃ、今日の放課後にどう?」
「オッケ。って、酒井は放課後用事ないの? 部活入ってない?」
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