『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月

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Ⅰ③

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 オメガは発情期間の特別休暇が合法的に認められている。『オメガ休暇』と呼ばれるものだ。

 壱兎も入学時にオメガ休暇の申請はしている。実際に休暇を使ったのは前回の発情期が初めてだったけれど。

 多分次も来るだろう発情期を考えて、何度目か分からないため息をつく。どう乗り切ったら良いのか分からず不安だけが心を占める。大学に通学する壱兎の足が重い。

「おはよう、壱兎」
 軽快な低い声が聞こえ、下を向いていた壱兎は声の主を見上げた。そこには穏やかな微笑みを浮かべた友人の相川弘夢アイカワ ヒロムがいた。近くに来るとフワリとアルファの香りが匂う。

 弘夢から視線を外して壱兎は歩き出した。大学校舎まであと十分程度だ。トボトボ歩きから早足に切り替えた。

「おはよ。弘夢、一限あるのか?」
「ないよ。うちの学部、今日は三限から」
 微笑みながら応える弘夢を見て舌打ちをしたくなった。

(じゃ、なんでこの早い時間に登校しているんだよ)
  そんなイラつきを飲みこんで、歩く事に集中しようと気持ちを切り替える。

  一緒に大学まで行く約束などしていないのに弘夢は自然と隣を歩いてきた。隣に視線を向ければ、直ぐに弘夢と目線が合った。
 その瞬間、弘夢の目尻が嬉しそうに下がった。
 つい、弘夢の表情に見入ってしまった。同時に惹かれてしまう弘夢の匂いを感じて、胸がドキっとする。

 壱兎はそんな自分の変化にとまどい弘夢から目線を外した。そして、弘夢の存在に敏感になっている自分に嫌気がさした。まるで壱兎がオメガとして反応しているようで辛くなる。

(傍に来るな!)
 そんな思いが頭に湧いた。


「三限まで暇だから壱兎の受ける講義、俺も聴講しようかな」
「は? 学生ホールにでも居ればいいだろ? てゆーか弘夢の学部の友達といれば?」
「壱兎といてもいいでしょ?」

 壱兎と共に弘夢は講義の教室まで入ってきた。大教室は広いのに壱兎の横に座る。緊張する。
 横を見ないようにしても弘夢がこちらを見ている視線を感じる。意識したくなくても意識してしまい汗が滲む。

(この心臓を高鳴らせる匂いが横に居て僕は大丈夫だろうか? 発情期は早まったりしないよな?)
 不安が多すぎて壱兎は唾を嚥下した。

 見えないようにカバンの中の緊急発情抑制剤を手で握り締めた。
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