『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月

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Ⅱ①

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 壱兎は男性オメガだ。一見ベータに思われがちな外見をしている。現在、身長は百七十五センチある。筋肉量こそ少ないがベータに擬態できることは助かっている。

 これでも幼い頃は人形の様な可愛い男子として『オメガ君』などと呼ばれていた。周りからオメガだと言われ続けていた壱兎の第二次性別検査結果は、やはりオメガだった。

 壱兎は可愛いとチヤホヤされて嫌な気はしなかったから、オメガであることも『ま、いっか』と受け入れていた。

 中学生になると壱兎はクラスで浮く存在になった。
 中性的な存在のため男子のバカ騒ぎする輪には入れてもらえなくなった。女子からは可愛いけれど女ではない存在として輪に入れてもらえない。

 無視されているわけではないけれど孤独を感じた。オメガは異端なのだと悟り始めていた。

 中学三年のある日、男子から急に聞かれた。
「なぁ、壱兎ってオメガじゃんか。そのさぁ、エッチの時ってさぁ、男役と女役、どっちがいいんだ?」
 楽しそうに猥談の一つとして聞いてくる同級生に衝撃を受けた。

 これまで壱兎は、オメガは可愛いという現実だけで生きて来た。実際に性的な意味での自分の立ち位置など考えたことが無かった。

 顔面蒼白になり震える壱兎に同級生が囁く。
「ほら、オメガって女の気持ち良さも分かるんだろ?」

 壱兎は自分の顔が真っ赤になるのが分かった。そんなの、答えられない。身体を固くして拒否の姿勢をとった。
 そんな壱兎を四人の男子が囲む。放課後の教室。他の生徒が帰っていき壱兎たちだけが残っている。

 怖くなり壱兎はカバンを握りしめた。

「やべ、顔真っ赤じゃん。女みてぇ。てか、オメガか。お前、猥談くらいで動揺すんなよ。オメガなら発情期は犯されなきゃ生きていけないエロ生物だろ?」
「おっまえ、言い過ぎ~~! ウケる! 『オメガとは エロ以外には 価値は無し』みたいな!」
「俳句かよ!」
 ぎゃははは、と笑いが起きる。

「つーか、オメガって身体、どうなってんの?」
「な、壱兎。ちょい見せて」
「ほら、壱兎のためでもあるって。将来アルファに尽くすためにエロに慣れなきゃ、だろ?」

 急に肩を掴まれて、恐怖に壱兎の心臓がバクバク鳴り響く。手が震える。

「い、いやだ。やだ! 離せ!」
 精一杯抵抗してみるものの、直ぐに上着とシャツがはぎ取られた。

「うお! いい! 壱兎、お前の胸、可愛すぎる! やべぇよ」
「俺も、これは、やべぇ。オメガってこんな色っぽいのかよ。男と思えねぇ。すげぇ。綺麗すぎ……」

 四人の視線が怖くて壱兎は泣いた。四人から逃げようと必死で走った。

 面白がって彼らは笑いながら捕まえようとしてきた。怖かった。同級生男子との力の差を感じた。顔を青くして逃げる壱兎を楽しそうに追いかけまわす彼らが怪物に思えた。

「よっしゃ! 捕まえた!」
 一人が壱兎の腕をつかんだ。

「やだぁ! 助けて! 誰か!」
 椅子を蹴って音をガンガン立てた。その時、教室のドアがガラリと開いた。

「なんだ? まだ残っていたのか? って、おい! 何している!」
 教室に入って来たのは担任の先生だった。助かった。

 だけど、壱兎が襲われていたのは一目瞭然だった。
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