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Ⅰ章 生きることが許されますように

4 リリアでの生活①※<SIDE:タクマ>

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 十三区の基地を案内してもらった。出会う獣人みんな顔を赤らめて僕を見るから恥ずかしかった。ルーカス様に隠れるように歩いた。基地はすごく広い建物で、ほんの一部しか見て回れなかった。

午後に行った建物周囲の自然の森が壮大で感動した。建物周囲の森も基地の管轄らしい。僕は家族旅行をしたことがない。小学校では嫌われ者だったから宿泊行事や学校キャンプで自然を楽しむことが出来なかった。だから、こんなにゆっくり木々を見上げたことはなかった。

緑の葉が重なり、キラキラ光が落ちてくる。光の雨だ。草や木の匂い。初めて僕は自由になれた、と実感した。

ここが死後の世界でも何でもいい。ここに居たい。

 木々をあちこち見て回る僕をルーカス様とサムさんトムさんが静かに見守っている。一人じゃないことにも安心する。上を見て歩いたら、転びそうになった。すかさずルーカス様に抱きとめられる。嬉しくて顔を見て笑ってしまう。

僕が笑うとルーカス様もニコっと笑う。心がホワっとあったかい。夢みたいな優しくて幸せな世界だ。自然と顔がニコニコしてしまう。しばらく楽しむと息が切れて木の根元に座り込んだ。

「楽しいかい?」
僕は必死で森を歩いたのに、三人とも全然汗もかいていない。汗だくの僕をニコニコ見下ろしている。

「楽しい? これ、そうかもしれません。きっと、楽しい気持ちです。顔が、勝手に緩むしワクワクする気持ち。こんなの初めて」
三人が顔を見合わせている。
「自然って、気持ちいいですね。僕が知っている風や木々と全然違う。これぞ生きている自然って気がします。そう、パワーがある感じ。森林浴に行く人の気持ちが分かりました」

気持ちよくて、そのまま木に寄りかかり足を伸ばす。適度なウォーキングでいい疲労感。ルーカス様が冷えた果実水をくれる。喉を潤して、地面に寝転がる。

気持ちがいい。地面に映る葉の影と光がきらめく。見ていると眠くなった。横に殿下が座り、頭を撫でてくれる。幸せだ。見上げて綺麗な髪だなと思った。上から注ぐ光のキラキラに金髪が反射して輝いている。神様みたい。ふふっと笑いが漏れた。

「明日は、軽食をもって来ようか。明るい開けた場所でゆっくりしようよ」
「はい。楽しみです」
心がじんわり温かくなる。幸せな時間なのに、涙が流れる。痛くもないのに、なんで僕は泣いているのか自分で分からなかった。優しい風に、そっと目を閉じた。
 

 「えっと、森の中がキラキラしたんです。木の葉っぱが風で動くでしょ。その動きで、光の宝石が降ってきたみたいに。すごいですよね」
「そうでしたか。宝石が降り注ぐなんて美しいですね。楽しく過ごせてよろしかったですね」

「はい。楽しくなるって気持ち、初めてで。こんなに気分が高まったの、本当に初めてなんです。こう、胸がドキドキして、息が上がっても、苦しくないドキドキなんです。土が、冷たくて、汗かいていたから身体がスッと冷えて、木や草の匂いがして、……最高でした」
楽しかったことを話したくて、お茶を運んできてくれた犬耳のお姉さんに話しかけている。

さっき僕が尻尾を褒めて迷惑かけてしまったお姉さん。獣人は皆とても優しくて僕の言葉に耳を傾けて聞いてくれる。それが嬉しくて(僕はこんなにお喋りだったかな?)と思うほど言葉が出てくる。

「タクマ、それくらいで。サラの仕事が止まってしまう」
ルーカス様が優しく諭してくれる。途端に猛烈に恥ずかしくなる。
「あ、すみません!」
「とんでもございません。素敵な散歩のご様子をお聞きでき嬉しく思っております」

「サラ、良ければタクマの世話係専属にならないか? 少し考えておいて」
お姉さんは顔を赤くして、「喜んで」と答えてくれた。

 それから数日を基地で過ごした。僕が記憶喪失になったとして周囲に知らせてもらった。僕には犬獣人のサラさんがお世話係としてついてくれた。ほとんどの時間をルーカス様と過ごしている。

 基地周辺には住人が集まっている。接触はしていないけれど恥ずかしくてルーカス殿下に隠れる日々。敷地内には立ち入らず遠目に双眼鏡で見ている獣人もいる。

新聞では神の使いが沿岸十三区域に出現したと報じられている。森林散歩中の僕の写真付き。

『森に天使が出現した! リリアで現在唯一の神の御使い! 愛らしい黒髪のタクマ様』

そう見出しに書かれているらしく、顔から火が出る思いをした。リリア語が読めなくて良かった。

僕はこの国に来て会話には困らなかったけれど、読み書きはチンプンカンプンだった。新聞は一面僕のカラー写真。ルーカス様はご機嫌で新聞を読み聞かせてくれたが、僕は恥ずかしくて逃げたしたかった。



毎日の日課になっている基地建物付近の森探索。今日もルーカス様とサラさんと数名の護衛さんが一緒。
 「ほら、タクマ。少しジャンプしてごらん」
「え? コレは僕には無理、かもしれません」
大きな木の根を飛び越えるように言われている。だけど木のサイズが大きいから、僕の脚力じゃ飛び越えられず転ぶだろう。僕は運動音痴だし。どうしようかと足が止まる。

「いいから、ほら、支えるよ? それっ」
「わぁぁ!」
軽快な掛け声でルーカス様が僕を抱えるようにしてジャンプする。獣人の脚力、凄すぎる!僕を抱えて軽く二メートルは飛んだよ! あまりの驚きでルーカス様にしがみつく。数秒だけ空を飛んだかのような不思議な高揚感。空中で僕をお姫様抱っこしたルーカス様がストンと着地する。地面にそっと降ろされて、顔を覗き込まれる。

「怖かった?」
「……いえ。なんだかお腹がフワッてして笑いが込み上げる感じで、びっくりしました」
放心状態で素直に答える。心臓がドキドキしている。本当に驚いた。

「あはは。そうか。驚かせてすまなかった」
ワシワシと僕の頭を撫でまわしてご機嫌なルーカスさま。
「さ、少し先まで歩こう」
そう言われて手を引かれるが、どうしよう。腰が抜けている。

「えっと、ちょっと、待ってください……」
ぺたんと座り込んで動けない。

「え? もしかして腰が抜けた? ごめん、これは驚かした俺のせいだ」
「少し休めば、うわっ」
ルーカス様に抱き上げられる。すでに定位置になってきた腕の中。

運びやすいようにルーカス様の首に抱き着く。温かいルーカス様の体温と匂いに包まれる。密着すると僕の世界がルーカス様だけになったような安心感。高校生にもなって可笑しいかもしれないけれど、抱っこって大好きだ。

恥ずかしくてそんな事は口に出来ないけれど。そんな僕をリリアの国の獣人は誰も笑わない。それどころか温かい微笑みで見守ってくれる。僕がこうして甘えても、温かく許してもらえる。誰も助けてくれない孤独な毎日じゃない。

優しさに触れると必ず苦しいことが頭をよぎる。その度にルーカス様に縋り付く。僕は、この世界に居たい。どうかこれが夢ではありませんように。


 「うっ……、むぅっ」
大きなルーカス様のペニスを丁寧に嘗め回す。何回かしているうちにソレの大きさに少しずつ慣れてきた。そして今日も懸命にルーカス様に奉仕する。丁寧に、できるだけ僕が苦しいように。

「もう、いいよ。そんなに奥まで咥えたら苦しいよね? もう、十分気持ちよかったよ」

ゴフっとえずくとルーカス様が心配そうに僕を離そうとする。浴室の床にだらりと僕の涎が垂れる。

ルーカス様の悲しそうな顔を見て、なぜか心臓がズキリと痛む。つい大きく息を吸ってしまい、ゲホゲホとむせながらルーカス様の足に縋り付く。

「ダメです! ダメ。まだ、ルーカス様が、イってないです。お願いします! やらせてください!」

まだ全然萎えてないルーカス様のペニスをペロペロと嘗め回す。コレをしないと僕はこの世界から追い出されてしまう。そんな危機感に心が悲鳴を上げそうになる。僕からコレを奪わないで。必死に縋り付く僕をそっと撫でるルーカス様。

「分かったよ。タクマの思うようにしていいから」
あぁ、許してもらえた。変な安堵感が生まれる。

「今日は、挿れてみますか? 僕、何でもします。きっと、大丈夫です」
最近は入浴の前にトイレで中を綺麗にしている。いつでも奉仕できるように。不快な思いをさせないように。

「タクマ、俺はこれだけで十分気持ちいいんだよ。ありがとう」
毎回少し困った笑顔で答えるルーカス様。

本当に挿れなくていいのかな? こうして抜くだけで満足なのかな? ちょっとした混乱が付きまとう。


 衣食住が全て整っていて、優しさに溢れた生活。リリアでの守られた日常。こんなに満たされていて、いいのかな。僕の人生で、こんなに優しい顔に囲まれたことはなかった。

苦痛がないこと、自由に食べられること、僕に優しい言葉をかけてもらえること、抱き締めてくれる人がいる事。どんなに願っても手に入らないと諦めていたものが、ここにある。自由な時間。怖くない苦しくない生活。夢なら醒めなくていい。僕は、ここにずっと居たい。

リリアの獣人の獣耳と尻尾の愛らしさ。獣人の優しさ。でも、この優しさがとても怖くなる。急に足元が無くなってしまうような恐怖が付きまとう。幸せなのが怖いなんて、おかしい。だけど、僕がここに居られるように僕には苦痛が無くてはいけない。代償がなくては。

毎日、ルーカス様の性の処理をしている。でも、きっと足りない。この幸せに見合うだけの何かをしなくては。焦りが、不安が心の底から僕を浸食する。

 夜寝る時も、日中も出来るだけ一人になりたくない。誰かといないと、どこかから呼び戻されてしまいそうで怖い。だからルーカス様に出来るだけ甘えて過ごす。今日夢から醒めてしまっても後悔しないように。

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