○○な副会長。

天乃 彗

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03 目安箱パニック!?

01

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 皆さんの学校には、目安箱ってありますか? 私たちの学校、青碧学園にはあります。生徒会室前に、ひっそりと佇んでいます。あまり活躍することはないその箱ですが、今回は、その目安箱にまつわる話なのです。


 * * *


「きゃああっ」

 私は思わず、驚いて声をあげた。なんてことのない、放課後の生徒会活動だった。
 毎週水曜日に、生徒会室前にある目安箱を開けることになっている。でもいつも紙なんて入っていない。入っているのはゴミだったり、用紙に描いた落書きだったり。生徒のありのままの意見を反映するっていう役目を放棄したかのごとく、存在だけのものだったんだけれど。
 目の前の光景が信じられない。鍵を回して扉を開けた瞬間、雪崩のごとく、紙が落ちてきたのだ。何枚も、何枚も! 
 私はそれらをかき集めて、生徒会室に飛び込んだ。

「これっ見て! 紙の山!!」
「ん? ……うわっすごい量」

 こちらを振り返った杏奈が嫌そうに呟く。喜ばしいことじゃないか。私は興奮が冷めなくて、書記の優子ちゃんと優平くんに話しかけた。

「これってさ! 生徒会だより効果だよね!? 効果あったってことだよね!!」
「そうですかね。それならよかったです」

 そう。実は、この間発行した生徒会だよりに、目安箱について書いた。あんまりにも目安箱が役目を果たしてないから、「どんな些細なことでもOK! あなたの気持ちを教えてください」と。そしたら、結果はこの通り。

「なんだ! やっぱりみんな場所知らないだけだったんだねっ」
「またイタズラじゃねーの?」

 涼介くんがあくびをしながら言った。私はそれをキッと睨み付ける。

「見てみないとわからないでしょ!」

 そう言い放つと、葵くんと目が合った。何やらじっと私を見ている。私は訝しげに葵くんを見返した。

「……何?」
「俺はだいたいつきますけどね、予想」
「え?」

 そう言うと、葵くんはむすっとした表情でそっぽを向いた。言ってる意味がわからない。そういえば、葵くんは、生徒会だよりの文面を決めているときも、同じようにむすっとして何も言わなかったような──。

「えっとー、じゃあ、開けてみますー?」

 マイマイが、すっと紙の束に手を伸ばし、畳まれた紙を広げた。

「えっとー、“好きです、岡本葵くん。付き合ってください”」
「──!?」

 全員が、小さく息を飲んだ。そのまま葵くんへと視線を向ける。葵くんが、ピクリと反応してこちらを見た。私は慌てて他の紙を手に取る。それにあわせて、他の役員も投書に手を伸ばした。

「“岡本くん、彼女とかいるんですか?”」
「“岡本くん、結婚して!”」
「“岡本くんの好きなタイプを教えてください”」

 一枚一枚確認してみる。それらの用紙には、すべてに“岡本くん”という文字。
 な、何よこれー!? 私はわなわなと震えそうになるのを堪えながら、次々と紙に目を通す。葵くんは、それを聞きながらずっと無表情だった。
 次の紙を手にとって、読もうとしたところで、私は眉を潜めた。

「なっ……!?」

 私は慌てて紙をぐしゃっと丸める。これは、これは見られてはいけない。しかし、私の気遣いも虚しく、私の行動に気づいた杏奈が言った。

「どした?」
「やっ……何でもな」

 慌てて紙を隠そうとしたけど、それより早く杏奈が紙を手にした。

「へー……“杉田杏奈、岡本くんと同じ副会長だからって調子乗んな”だって。女ってこわーい」

 だから隠したのに! 私は唖然としながら杏奈を見つめるけど、杏奈は少しも気にしていない様子で──むしろ少し楽しそうに言った。

「他にもあるなら見せてよ?」

 するとマイマイがおずおずと紙を差し出す。

「あのー、こっちにも杏奈先輩の悪口書いてますー」
「こっちも」

 杏奈の悪口の投書もぞくぞくと出てきた。内容は、妬み嫉みが露になったもの。汚い言葉もたくさん使われていた。杏奈はそれを見ながらケタケタと笑っていたけど。杏奈さん、逆に怖いんですけど……。

「あのー、疑問なんですけどー、なんで他にも女子役員がいるのにー、杏奈先輩ばっかり書かれてるんですかねー?」
「あぁ、ほら、あたし、美人だから。よくあるのよ」
「つまり、私たちは眼中にないってことですね……」

 杏奈の苦労話はよく聞かされている。そのときは、美人って大変なんだなぁなんて呑気に聞いてたけど。これには──胸が痛んだ。
 結局、割合は、葵くん関係が7割、杏奈関係が3割。まともな投書なんか、ひとつもなかった。

「だから言ったじゃないですか、予想はつくって」
「お? まさか岡本くんも慣れっこだったり?」
「ええ、まぁ」

 そう言って、葵くんは投書(というかラブレター)の一枚を手に取った。一応はラブレターだし、葵くんは渦中の人だし、じっくり眺めるのかなぁ。
 なんて私の予想は、すぐに裏切られた。葵くんは──なんとその紙をビリビリと破き始めたではないか。

「ちょおおお!? 葵くん!?」

 これには一同驚きを隠せず、思わず立ち上がる。葵くんは眉ひとつ動かさずに、二枚、三枚と次々に破いていく。何何何何してんのー!! 

「ストップ! 葵くんストップ!」
「指図される筋合いはありません」

 一向に手を止めない葵くんの手首を掴んだ。葵くんは、氷みたいに冷たい目で私を見下ろす。
 怖い。でも、負けるもんか。女の子の気持ちをそんな風に無下に扱うなんて、許せないもん! 私はキッと葵くんを睨み返した。

「なんでそんなことするの!? こんな形だけど、女の子たちだって真剣に──」
「真剣なわけありません、こんなの」
「こんなの……って、」
「相手にするだけ無駄なんです」
「無駄、って!」
「とにかく、しばらく放っといて様子を見ましょう。2、3週間もすればやむでしょうから」
「駄目だよ! ちゃんと返事くらいは──」
「皆さんも、異論はないですよね?」

 葵くんは私の言い分を無視して、生徒会室をギロリと見回した。あまりの迫力に、みんな無言で頷くしかなかった。私もそれ以上は何も言えずに、ただただ葵くんが投書を破り捨てていくのを見ていることしかできなかった。


 * * *

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