○○な副会長。

天乃 彗

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04 いけ!校内見回り大作戦!

04

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 葵くんがついてくるのが聞こえるけど、気にせずにずんずん歩いていく。もう、最悪だ。葵くんと二人きりで見回りなんて。杏奈がいるから大丈夫だと思ってたのに。

「先輩」

 声が聞こえるけど、無視。私はそんな軽々しく声をかけられる覚えなんかないのだ。

「先輩」
「……」
「先輩ってば」
「きゃっ!」

 いつの間にか目の前に立っていた葵くんとぶつかりそうになる。足の長さの差か! 私はますます自分の低身長が恨めしくなる。

「腕章、忘れてますよ。自分で作っといて何してるんですか」
「……っ」

 私は、奪い取るようにそれを受け取って腕につけた。葵くんは不思議そうな顔をして私を見下ろす。

「何怒ってるんですか? 俺何かしましたっけ?」
「なっ……!」

 今の葵くんの言葉が信じられない。私はあんぐりと口をあけて葵くんを見た。

“何怒ってるんですか?”!? 
“俺何かしましたっけ?”!? 

 色々しまくりでしょうが! 特に、昨日の……! 私は考える途中で怒りに震えそうになって、考えるのをやめた。

「……怒ってないです。喋りかけてこないで!」

 ふいと顔を背けて、また歩き出す。必死に早歩きをしてるのに、葵くんは涼しい顔で横に並んだ。本当に、ムカつくったら! 

「怒ってるじゃないですか。そうやって態度に出すの、大人げないですよ」
「……っ」

 大人げない、なんて言われて、返す言葉が見つからない。私は何も言えず、ただただ無視をし続けた。葵くんは何も言わなくなり、私のあとをついてくるだけになった。
 教室を一つずつ回ってみる。残っている生徒には、「怪しい人を見なかったか、心当たりはないか」を聞いていった。しかし返事は同じで、みんなそんな話は聞いたことないそうだ。

──収穫なしか……。

 そう思いながら、校内で最後の教室の扉を開ける。教室を覗いてみると、誰もいなかった。

「空き教室か……」

 そう呟いた瞬間、後ろからとんと背中を押され、バランスを崩して教室に入り込んだ。

──!? 

 不審者!? そう思ったけど、振り返った先にいたのは仏頂面で私を見下ろす葵くんだった。葵くんはこちらを見たまま教室の扉をカラカラと閉めた。元々教室のカーテンがしまっていたせいで、室内が一気に暗くなる。

「考えたんですけど」
「何っ!?」
「もしかして先輩、昨日の豊胸体操のこと怒ってます?」

 私は、思わず動きを止めた。

──い、今さら!? 

 私はまた怒りに震えそうになるのを必死にこらえた。怒るに決まってるじゃない! チビとか小さいなら、言われ慣れてるからある程度我慢できる。諦めもついている。でもっ……あんなふうに、遠回しに「胸が小さい」なんて言われたら! (しかも、同性にならともかく、異性に、だ)
 隣に杏奈がいる分、気にせずにはいられなかった第二のコンプレックスを、あんな軽々しく! 怒らないわけがないじゃない! 
 私が黙ったからか、葵くんは長い溜め息をついた。

「あんなことで怒らないでくださいよ。重いジョークじゃないですか」
「う……うるさいうるさいうるさいっ!」

 私は涙目になりながら葵くんに訴える。

「葵くんは冗談だったかもしれないけど、私はっ……!」
「あー、分かりました。謝ります。すみません」
「……っ、」

 意外にあっさり謝られて、私は面食らった。葵くんが何を考えてるのかがさっぱりわからない。……でも、謝ってくれたし、これ以上引きずるのもあれかも、しれない。

「……反省、してるなら、べつにいい……」
「はい、反省してます。だからこっち見てください」

 そう言われて、ようやく今日初めて葵くんの顔をちゃんと見る。その瞬間、見上げるばかりだった葵くんの顔が真正面に見えた。

「あっ、葵くん!?」

 そう、葵くんは軽々と私の体を持ち上げたのだ。まるで犬猫を扱うようなその態度に、私は抵抗する。そのまま葵くんは、私を机の上に座らせた。葵くんとの身長差が幾分なくなる。何のつもりだろう。

「先輩、反省ついでに、いいこと教えてあげますよ」
「……な、何」

 そう言うと、葵くんはニヤリと笑った。その瞬間、私はハッとする。これは──セクハラスマイル! 慌てて机から降りようとする私の手首を、葵くんは掴んだ。
 逃げられない。葵くんは妖艶な笑みを浮かべながら、私の耳に唇を近づけた。

「何、逃げようとしてるんですか。駄目ですよ」
「……っ!」

 耳元で囁かれて、ゾクゾクする。顔が、熱い。思わず首をすくめると、葵くんはクスリと笑った。
 葵くんは、空いている方の手で私のことを押し倒した。ますます逃げられなくなって、私は足をじたばたとさせる。私の抵抗などお構いなしで、また葵くんは耳元で囁く。

「先輩」
「離し……!」
「胸って、揉まれると大きくなるらしいですよ? 手伝いましょうか?」
「なっ……!」

 葵くんは私のネクタイに手を伸ばし、スルリ、とそれを緩めた。第一ボタンに手をかけたところで、

「にゃああああああああああ!?」

私は葵くんに思いきり平手打ちをしていたのだった。


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