○○な副会長。

天乃 彗

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06 ネクタイと卒業式

04

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「日向先輩、この書類確認を──」
「それなら杏奈ちゃんでも大丈夫よ。日向ちゃんは送辞の練習もあるから後にしてあげて」

 葵くんに、先輩がぴしゃりと言い放った。あの日から、先輩は極力葵くんから私を遠ざけようとしていた。思い当たる理由といえば、髪を引っ張られたことなんだけど。先輩が気遣ってくれるのは嬉しい。女の子扱いしてくれるのも先輩くらいだし、葵くんの毒牙にかからないのも悪くない。でも、私はもうあの日のことを気にしていないのに(あの日涼介くんが言ったように、あれは日常茶飯事なんだし)、先輩は気にしなくてもいいと思うんだけど……。
 おずおずと葵くんを見上げる。葵くんは書類を私に差し出したまま、動かない。その顔は明らかに不機嫌そうな色をしている。ひ、人殺せそう……。先輩がそういうふうな素振りを見せるたび、葵くんはそういう色を濃くしていたんだけど。そろそろ真っ黒だ。

「お言葉ですけど、月島先輩」
「何?」

 あぁっ、また先輩に向かって毒が飛ぶ! 身構えたけれど、葵くんの口から出たのは、ちょっとだけ予想外な言葉だった。

「今の会長は日向先輩なんです。俺があなたに指図される筋合いはありませんし、決めるのは日向先輩です」
「……あら」
「それに、卒業生がここにいると卒業式の計画も立てられないですし、俺としては早急に荷物まとめておかえりいただきたいんですけど」

──え。

 私は目をパチクリさせて葵くんを見た。葵くんの顔色は相変わらず不機嫌だった。
 毒は毒だったし、先輩に対する悪意たっぷりだったけど。今、葵くん、会長は私だって言い切った。普段から私の未熟さを揶揄して毒を吐くくせに、きっぱりはっきり、完璧な会長だった紗夜先輩に。
 てっきり葵くんは、私のことを会長として認めてくれていないんだと思っていた。というか、あんなに悪口言われたり、呆れ顔でサポートされてたら、誰だってそう思う。他のメンバーだって、紗夜先輩がここに通うようになってから、先輩を頼ってアドバイスを求めたり、指示を聞いたりしているというのに。葵くんは言外に、「現会長の私の指示を受ける」と言ったのだ。
 会長としてまだまだ未熟だって自覚はあるし、こんなことを思ったらバチが当たるかもしれないけど。葵くんが、紗夜先輩じゃなくて私を頼ってくれたことが──ちょっとだけ、嬉しい。そうだ。今の会長は私なんだから、私が指示して、私が決めないと。

 顔を上げると、葵くんが顎をくいっとあげた。それが、「決めるのは日向先輩」の答えを求めている仕草だとわかって、私は慌てて言葉を探した。

「……その書類、後で確認するから、待ってて」
「はい」
「紗夜先輩、あと一回、送辞の練習付き合ってください」
「ええ、もちろんよ」
「そしたら、あの、申し訳ないんですけど、その後、在校生で卒業式の計画を立てるので、今日はおかえりいただいてもいいですか……?」
「え……」

 卒業生がいると話し合いが進まないのも事実だ。卒業生の皆さんに満足してもらえるような式にしたい。もちろん、先輩も例外じゃない。そのためには卒業生には秘密に動いて、とびきりのサプライズを用意しないと。

「と、言うわけで先輩、もう一回……」

 そう言いかけて先輩を見ると、先輩は俯いてしまっていた。どうしたのだろう、と顔を覗き込もうとすると、先輩は足元に置いてあったカバンを掴んで立ち上がった。

「ごめんなさい、気が利かなくて。今日は帰るわ」
「えっ、あの、先輩……」

 私の制止も聞かず、先輩は教室を出て行ってしまった。追い出すみたいになっちゃって、先輩を傷つけたかもしれない。私は慌てて立ち上がって、先輩の後を追う。邪魔って意味じゃなくて、先輩にも、卒業式、思い出に残るものにしてほしいから。だから。

「先輩、あの! 違くて! 先輩がいてすごく助かってますし! そういうつもりで言ったんじゃ……」

 先輩の背中に声をかけると、先輩の足はぴたりと止まった。それから、ぽつりと呟いて、こちらに振り向いた。

「……わかってるの、日向ちゃんの言いたいことは。それにわたし、最初から今日は早めに切り上げるつもりだったし。だから気にしないで」
「じゃあなんで、そんな顔……」

 先輩は、いつもニコニコしていて。辛い顔なんて誰にも見せなくて。なのに今、先輩な無理して笑ってるのがわかるくらい、悲しそうな顔をしている。私の言葉が原因なら、今すぐに謝って、笑ってほしい。
 先輩はふるふると首を振ってみせた。
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