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06 ネクタイと卒業式
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「あ、じゃあ葵くんが言ったことですか? ええと、あれも、たぶん、仕事を早く進めたかっただけで、悪気があったわけじゃないと思うし……あの、本人にもきつく言っときますし、だから……」
「……やっぱり日向ちゃんは、彼の肩を持つの?」
「え?」
肩を持つ? 私が? 葵くんの? ぽかんとしていると、先輩はもう少し言葉をつなげる。
「わたし、日向ちゃんのためを思って、あんな野蛮な人と仕事してたら日向ちゃんに良くないと思って、日向ちゃんから彼を遠ざけていたんだけど。迷惑だった?」
「迷惑、なんて……」
助かったことも多いけど、葵くんの機嫌悪くなるし、さっきみたいに仕事がスムーズにいかない時もたまにあって、悪いとこもあって。でもそれを、私のためを思ってしてくれた先輩に言うのは気が引けた。
それに。
「先輩がそういう風に私のこと守ってくれるのはとても嬉しいです。でも、あの、先輩は、葵くんのこと誤解しているところも多いと思うんです」
確かにあの瞬間だけを切り取ったら、口が悪くて先輩にも暴力を振るう野蛮な後輩だけど。
これは私にしかわからないけど、髪を引っ張られたのも、相当手加減されていた。口だって悪いけど、仕事だって完璧にこなすし、それに、隅々まで気が渡って、いつだって私のことサポートしてくれた。先輩は葵くんのそういう面が見えてないから、誤解しているんだ。
「あぁ見えても、仕事できるし、優しいところだってあるし、それに──」
「……もういいわ、日向ちゃん」
「えっ、せんぱ……」
先輩はふいっと私に背を向けて歩き出してしまう。「もういい」って、どうして?
「わたし、もう明日から来ないから」
「そんな! どうして……」
「“今の会長は日向ちゃん”、なんでしょう。もともとわたしの出る幕じゃないんだし」
先輩は私のことを見てはくれない。俯いたまま、背を向けたまま。
「あの子と協力して、頑張れば。“仕事ができて優しい”彼となら平気でしょう?」
「そんな言い方、先輩らしくないっ……!」
いつでも相談に乗るって言ってくれた先輩は、いつも笑顔で天使みたいな先輩は、どこへ行ってしまったの。そんな風に突き放すみたいな言い方、一緒に仕事してたころだって、絶対したことがなかったのに。先輩は、私の言葉には答えてくれなかった。ぎゅっとカバンを握りしめると、駆け出してしまった。
「先輩!」
先輩は呼び止めても、帰ってこなかった。追いかける勇気はなかった。あんな言い方をされたのが、ショックだった。
──戻ろう。
先輩が、どうしてあんな言い方をしたのかはわからない。でもきっと私に原因があるんだろう。でも心当たりは見当たらなくて、胸がぎゅっと締め付けられる。でも今は、頑張って卒業式をやり遂げなくちゃ。先輩が、去年やったみたいに……ううん、それ以上に、頑張って。
「遅くなってごめんね! じゃあ計画考えようか!」
「あ、日向おかえり。先輩どうだった? 大丈夫だった?」
杏奈が珍しく心配そうに尋ねてくる。本当を言うと、大丈夫ではなかった。でも今それを言っても、他のメンバーに申し訳ないし、言わない。
「うん、本当にごめんねって言ってたから、こちらこそって謝ってきたよ!」
「先輩らしいな」
「それでね、本当は今日言おうと思ってたらしいんだけど、明日からはちょっと忙しくなっちゃうみたいでこっちに来れないみたい」
「えっ、そうなんですかぁー?」
「うん。だから私たちだけで、卒業式を良いものに作り上げていこう!」
嘘はついてしまったけど、この方がいいはずだ。先輩はきっと悪くないんだし。
「あ、それでね! 卒業式、こんなのはどうかなって考えたんだけど──」
会長として。そして、一人の在校生として。
先輩たちに、この学校に通っていてよかったって思ってほしい。
そのためにはどうすればいいかって考えて、ひねり出した案だったけど、みんなにどう思われるかと不安だった。でも、私の案を聞いたみんなは、思った以上に前向きだった。
「大変だけど、楽しそうですー!」
「協力を仰ぐとしたら、映像部、写真部とかですかね?」
「必要であれば、先生たちにも協力してもらいましょう! そのほうがたくさん集まりそうだし……」
「プロジェクター自体は去年の要領で進めるとして、問題は……」
「だったら映像をスライドショーにして……」
良いものにしたいっていう気持ちは、みんな同じだ。だったら、それに向かって、突き進んでいくしかない。
「みんな、頑張ろうね!」
卒業式まであとすこし。だからこの心のモヤモヤは、隅っこの方に追いやっておくべきなのだ。
* * *
「……やっぱり日向ちゃんは、彼の肩を持つの?」
「え?」
肩を持つ? 私が? 葵くんの? ぽかんとしていると、先輩はもう少し言葉をつなげる。
「わたし、日向ちゃんのためを思って、あんな野蛮な人と仕事してたら日向ちゃんに良くないと思って、日向ちゃんから彼を遠ざけていたんだけど。迷惑だった?」
「迷惑、なんて……」
助かったことも多いけど、葵くんの機嫌悪くなるし、さっきみたいに仕事がスムーズにいかない時もたまにあって、悪いとこもあって。でもそれを、私のためを思ってしてくれた先輩に言うのは気が引けた。
それに。
「先輩がそういう風に私のこと守ってくれるのはとても嬉しいです。でも、あの、先輩は、葵くんのこと誤解しているところも多いと思うんです」
確かにあの瞬間だけを切り取ったら、口が悪くて先輩にも暴力を振るう野蛮な後輩だけど。
これは私にしかわからないけど、髪を引っ張られたのも、相当手加減されていた。口だって悪いけど、仕事だって完璧にこなすし、それに、隅々まで気が渡って、いつだって私のことサポートしてくれた。先輩は葵くんのそういう面が見えてないから、誤解しているんだ。
「あぁ見えても、仕事できるし、優しいところだってあるし、それに──」
「……もういいわ、日向ちゃん」
「えっ、せんぱ……」
先輩はふいっと私に背を向けて歩き出してしまう。「もういい」って、どうして?
「わたし、もう明日から来ないから」
「そんな! どうして……」
「“今の会長は日向ちゃん”、なんでしょう。もともとわたしの出る幕じゃないんだし」
先輩は私のことを見てはくれない。俯いたまま、背を向けたまま。
「あの子と協力して、頑張れば。“仕事ができて優しい”彼となら平気でしょう?」
「そんな言い方、先輩らしくないっ……!」
いつでも相談に乗るって言ってくれた先輩は、いつも笑顔で天使みたいな先輩は、どこへ行ってしまったの。そんな風に突き放すみたいな言い方、一緒に仕事してたころだって、絶対したことがなかったのに。先輩は、私の言葉には答えてくれなかった。ぎゅっとカバンを握りしめると、駆け出してしまった。
「先輩!」
先輩は呼び止めても、帰ってこなかった。追いかける勇気はなかった。あんな言い方をされたのが、ショックだった。
──戻ろう。
先輩が、どうしてあんな言い方をしたのかはわからない。でもきっと私に原因があるんだろう。でも心当たりは見当たらなくて、胸がぎゅっと締め付けられる。でも今は、頑張って卒業式をやり遂げなくちゃ。先輩が、去年やったみたいに……ううん、それ以上に、頑張って。
「遅くなってごめんね! じゃあ計画考えようか!」
「あ、日向おかえり。先輩どうだった? 大丈夫だった?」
杏奈が珍しく心配そうに尋ねてくる。本当を言うと、大丈夫ではなかった。でも今それを言っても、他のメンバーに申し訳ないし、言わない。
「うん、本当にごめんねって言ってたから、こちらこそって謝ってきたよ!」
「先輩らしいな」
「それでね、本当は今日言おうと思ってたらしいんだけど、明日からはちょっと忙しくなっちゃうみたいでこっちに来れないみたい」
「えっ、そうなんですかぁー?」
「うん。だから私たちだけで、卒業式を良いものに作り上げていこう!」
嘘はついてしまったけど、この方がいいはずだ。先輩はきっと悪くないんだし。
「あ、それでね! 卒業式、こんなのはどうかなって考えたんだけど──」
会長として。そして、一人の在校生として。
先輩たちに、この学校に通っていてよかったって思ってほしい。
そのためにはどうすればいいかって考えて、ひねり出した案だったけど、みんなにどう思われるかと不安だった。でも、私の案を聞いたみんなは、思った以上に前向きだった。
「大変だけど、楽しそうですー!」
「協力を仰ぐとしたら、映像部、写真部とかですかね?」
「必要であれば、先生たちにも協力してもらいましょう! そのほうがたくさん集まりそうだし……」
「プロジェクター自体は去年の要領で進めるとして、問題は……」
「だったら映像をスライドショーにして……」
良いものにしたいっていう気持ちは、みんな同じだ。だったら、それに向かって、突き進んでいくしかない。
「みんな、頑張ろうね!」
卒業式まであとすこし。だからこの心のモヤモヤは、隅っこの方に追いやっておくべきなのだ。
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