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わらしべ長者
04 伝言から雑用へ
しおりを挟むノートを両手で持ちながら、階段を上る。もう、一人ずつに配ってなんかいられない。教卓の上にでも置いておけば、きっと誰かが気付いてくれるだろう。そしたら、急いで購買へ行こう。この際、売れ残りでも何でもいい。空腹を満たせれば、何でも。
にしても、ついていない、と思う。まさかあそこで佐々木先生に出くわしてしまうとは。起こってしまったことをくやんでも仕方がないが、千花は深くため息を吐いた。
「まだ残ってるかなぁ……購買……」
独り言を呟くと同時に、腹の虫が鳴った。誰にも聞かれていないとわかっているが、恥ずかしくなって俯いた。
──急ごう。
両手でノートを持っている分、走ることは出来ない。早歩きで教室に向かおうとしたときだった。反対側から、女子生徒何人かがはしゃぐ声が聞こえた。自分には関係ないとそのまま歩いていたが、その女子生徒たちは廊下で追い掛けっこを始めた。
「ちょ、待ってよっ!」
「こっちくんなってぇ」
「ひっどぉ! このっ」
自分たちしか見えてないようで──女子生徒たちは千花の存在に気付くことなく駆け出した。千花は慌てて廊下の端に避ける。
「あっ……!」
その瞬間、バランスを崩して、ノートを廊下にぶちまけてしまった。
──何、このお決まりの展開……。
もう言葉も出なかった。今日はきっと運が悪い日なのだ。とにかく今は、お昼を食べそこなうという最悪の事態を避けることだけを考えなければ。だから、直ちにこのノートを拾い集めよう。
てきぱきと。何も考えずに──。
「……大丈夫? 若草さん」
不意に、上から声がした。名前を呼ばれて、反射的に顔を上げる。
「え……金子、くん?」
そこに立っていたのは、同じクラスの男子──金子智だった。長めの茶色い髪は、ふわふわにパーマがかけられている。そのパーマが似合う大人っぽい目鼻立ちは、秘かにクラスの女子にも人気である。彼はいつも何人かの男子と一緒にいて、女子と会話することなどほとんどない。そんな彼が、自分の名前を覚えていたことに驚きを隠せなかった。
それだけではない。彼が、千花が秘かに思いを寄せていた相手だということが上乗せされて、千花の頭は真っ白になった。
──かっかっかっかっ金子くんが、どどどどどどうして……!
混乱のあまり手が震えた。智は自分の近くのノートを拾い集め、千花にそっと手渡した。
「……はい」
「あ……ありがとうございます……」
だんだん声が小さくなってしまう。おまけになぜか敬語になってしまった。いつも遠くから見ていただけで、まともに会話などしたことがない。どんな顔で、何を言えばいいのか。心臓がおかしくなってしまいそうで、すぐにここから逃げ出したかった。
千花はノートを受け取って、残りのノートを拾い上げた。
「~~~~っ! わ、私、急ぐからっ……じゃあ!」
智の顔も見れないまま、千花は駆け出した。取り残された智は呆然と千花を眺めていたが、しばらくして、千花と反対方向に歩きだしたのだった。
* * *
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