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赤ずきん
05 狼くんと赤ずきん
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「で、シンタロ。どうだったわけ? 告白は」
目の前で購買のパンを頬張りながら、綾子は尋ねた。慎太郎はそれをギロリと睨む。
「……俺が聞きてぇよ……」
「え、何、失敗?」
「失敗じゃねぇ!……ちゃんと、言ったはずなんだ……」
思わず抱き締めてしまったことは言わない。というか言えない。早く説明しろと言わんばかりの綾子に、慎太郎はぽつりぽつりと話し始めた。
* * *
「……苦しいよ、大上くん……」
「えっ……あ、わ、わりぃ!」
慎太郎は慌てて両手を離した。茜は黙りこんだまま、また上目使いで慎太郎を見る。
「えと……ね。あたしも、好きだよ? 大上くんのこと、すごく」
「え!?」
──今何て!?
慎太郎は目をパチパチさせて茜を見た。
──夢か? いや、夢じゃない、夢じゃ……。
「だから、クラス変わっても友達でいてくれて嬉しいんだ! ありがとうね、大上くん!」
「──は?」
茜はにっこりと笑った。
──いや、ちょっと待ってくれ。
「あっ! もうこんな時間! あたし用事あるからそろそろいくね! じゃあ、またね!」
「え、あ、ちょっと──」
茜は言い終わると同時に、早足で教室を出ていってしまった。思い出されるのは、茜から出た「友達」の言葉。
──伝わってねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
慎太郎は、ただただがくりと膝を落とすしかなかった。こうして、大上慎太郎の決戦は、大きな誤解を与えたままで、幕を閉じたのだった。
* * *
「まぁ、あの子らしいっちゃあの子らしいかな」
「笑ってんじゃねーよ畜生!」
綾子は事の顛末を聞きながら、必死に笑いをこらえていた。必死な慎太郎を見るのは面白い。
「友達としては好きってことだろ? ……なら、俺は諦めねーぞ。いつかはぜってー……」
「あーはいはい。頑張れ頑張れ」
「笑いながら言うなよ腹立つな!」
綾子は小さく笑いながら、慎太郎を見る。実は、慎太郎から話を聞く前に、事の顛末は聞いていた。昨日の帰り、昇降口でばったり茜に会ったのだ。なんだか慌てた様子で、息を切らして。
“おばあちゃん……! なんかあたし、変!”
“な、何が!?”
“さっき、大上くんから好きって言われて、ぎゅーってされてから……なんか、心臓が変なの! 病気かなぁ?”
大真面目に言うもんだから、綾子は思わず吹き出した。
──お嬢さん、それは恋ってやつですよ。
言うのはなんだかもったいない気がしたから、黙っておいた。茜が自分で気づくのは何時だろう。綾子はそれが楽しみで、また笑った。
「あ、茜ちゃんだ」
「畜生。騙されねーぞ」
「いや違う違う。本当に」
「からかってんだろ!?」
「いや、だから……」
「大上くん……」
「だから騙され──のぁぁ! 江頭!?」
「だから言ってたじゃん」
「お、大上くん、あの、お昼、一緒に食べない?」
「え!? た、食べる!」
そんなやり取りをする二人を、まったく、初々しいなぁと思いながら、綾子は席を立つ。今度こそうまくやれよとエールを送った。
うっかり落ちてしまったのは、狼じゃなく赤ずきんのほうか。当人たちは気づいていないが、その頬の色は──ほのかに、赤。
了
目の前で購買のパンを頬張りながら、綾子は尋ねた。慎太郎はそれをギロリと睨む。
「……俺が聞きてぇよ……」
「え、何、失敗?」
「失敗じゃねぇ!……ちゃんと、言ったはずなんだ……」
思わず抱き締めてしまったことは言わない。というか言えない。早く説明しろと言わんばかりの綾子に、慎太郎はぽつりぽつりと話し始めた。
* * *
「……苦しいよ、大上くん……」
「えっ……あ、わ、わりぃ!」
慎太郎は慌てて両手を離した。茜は黙りこんだまま、また上目使いで慎太郎を見る。
「えと……ね。あたしも、好きだよ? 大上くんのこと、すごく」
「え!?」
──今何て!?
慎太郎は目をパチパチさせて茜を見た。
──夢か? いや、夢じゃない、夢じゃ……。
「だから、クラス変わっても友達でいてくれて嬉しいんだ! ありがとうね、大上くん!」
「──は?」
茜はにっこりと笑った。
──いや、ちょっと待ってくれ。
「あっ! もうこんな時間! あたし用事あるからそろそろいくね! じゃあ、またね!」
「え、あ、ちょっと──」
茜は言い終わると同時に、早足で教室を出ていってしまった。思い出されるのは、茜から出た「友達」の言葉。
──伝わってねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
慎太郎は、ただただがくりと膝を落とすしかなかった。こうして、大上慎太郎の決戦は、大きな誤解を与えたままで、幕を閉じたのだった。
* * *
「まぁ、あの子らしいっちゃあの子らしいかな」
「笑ってんじゃねーよ畜生!」
綾子は事の顛末を聞きながら、必死に笑いをこらえていた。必死な慎太郎を見るのは面白い。
「友達としては好きってことだろ? ……なら、俺は諦めねーぞ。いつかはぜってー……」
「あーはいはい。頑張れ頑張れ」
「笑いながら言うなよ腹立つな!」
綾子は小さく笑いながら、慎太郎を見る。実は、慎太郎から話を聞く前に、事の顛末は聞いていた。昨日の帰り、昇降口でばったり茜に会ったのだ。なんだか慌てた様子で、息を切らして。
“おばあちゃん……! なんかあたし、変!”
“な、何が!?”
“さっき、大上くんから好きって言われて、ぎゅーってされてから……なんか、心臓が変なの! 病気かなぁ?”
大真面目に言うもんだから、綾子は思わず吹き出した。
──お嬢さん、それは恋ってやつですよ。
言うのはなんだかもったいない気がしたから、黙っておいた。茜が自分で気づくのは何時だろう。綾子はそれが楽しみで、また笑った。
「あ、茜ちゃんだ」
「畜生。騙されねーぞ」
「いや違う違う。本当に」
「からかってんだろ!?」
「いや、だから……」
「大上くん……」
「だから騙され──のぁぁ! 江頭!?」
「だから言ってたじゃん」
「お、大上くん、あの、お昼、一緒に食べない?」
「え!? た、食べる!」
そんなやり取りをする二人を、まったく、初々しいなぁと思いながら、綾子は席を立つ。今度こそうまくやれよとエールを送った。
うっかり落ちてしまったのは、狼じゃなく赤ずきんのほうか。当人たちは気づいていないが、その頬の色は──ほのかに、赤。
了
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