37 / 57
赤ずきん
04 何も知らない赤ずきんは
しおりを挟む
茜はまだ来ない。ぼんやりと窓の外を眺めていると、さっきの二人が昇降口から出ていくのが見えた。さっきまで少し遠かった二人の距離が、ゆっくりと近づいていく。
何を話しているのだろう。お互い幸せそうで、暖かい空気が流れているような──。
「……どっちからだろ」
ぽつりと独り言を呟いた。あの様子を見る限り、智からだろうか。
──じゃあ、金子は“成功者”ってことか。うらやましい。
やっぱりそう思わずにはいられない。成功の秘訣を聞いておけばよかった。そう思いながら二人を眺めている。と。
「ぬぁっ!」
思わず声をあげた。どんどん距離を縮めていると思えば、智が、千花の手をぎこちなく握ったではないか。その、初々しくも幸せそうなこと。
これ以上見ていたら気がどうにかなりそうだ。慎太郎は黙って窓に背を向けた。──その時だった。
「すみませぇん! 週番やってて遅れちゃって!」
慌てたような声と共に、扉が開いた。
──!?
完全に気を抜いていた。息を切らして教室にやって来た茜は、室内を見渡してから首をかしげた。
「……あれ? 大上くん、ここで委員会やってなかった?」
尋ねられてドキリとした。そうだ、そう言って呼び出してもらったんだったか。今更ながら騙したことを思い出し、なんといっていいのか分からなかった。
「あ……あの、江頭」
「なぁに?」
「い……委員会あるって、その、う、嘘なんだ。俺が、その、江頭に、用……あって。えと……ごめん」
しどろもどろになりながら、慎太郎は言った。騙したこと、怒るだろうか。恐る恐る茜を見ると、ふにゃっと笑った。
「なんだ、よかったー!」
「え?」
「委員会、遅刻したかと思ったから。なかったのかぁ、よかったー!」
えへへと笑う茜に、慎太郎は唖然とした。あぁ──やっぱり、この子はいい子で……かわいい。
なんて思っている場合じゃない。告白だ。告白をするのだ。
「あのっ……」
「にしても久しぶりだねー? クラス変わってからあんまり話せなくなったもんね?」
そうだった。茜は自由奔放で、いつもいつも、茜のペースに巻き込んでくれて、それが心地よくもあって。
──でもそれじゃ。
「……だな」
「どぉ? クラス楽しい? うちはね、みんな仲良くて楽しいよー!」
「……そか。よかったな」
──駄目なんだ。
「そっちのクラス、学祭なにやるか決まってる?」
「いや……まだ」
「うちのクラスね、男装・女装喫茶やりたいねって案が出たんだけどね、うらちゃん……あ、生徒会長の鬼村くんね? が、めちゃくちゃ嫌がって、なしになっちゃったんだぁ。なんでだろうね?」
「……へぇ」
──けども。
「だから、普通に喫茶店になりそう──」
「江頭!」
「へ?」
慎太郎は、ギッと茜を睨み付けた。顔のせいかすごい迫力だが、茜は気にもせず、まあるい瞳で慎太郎を見つめ返した。
「俺がしたいのは、そんな話じゃなくて……」
言いかけて、また茜が口を挟む。
「あっ、そうだよね! あたしに用事があったんだよね? ごめんね、久しぶりで、つい。何かな? 用事って」
慎太郎はぐ、と喉を鳴らした。改めて機会を設けられると、なんとも言い出しづらい。茜は慎太郎の気持ちなど露知らず、自然と上目使いになった瞳でじいっと慎太郎を見つめた。慎太郎の顔が、みるみる赤く染まる。
「……大上くん? どうしてそんなに赤い顔してるの?」
心底不思議そうな顔で、茜は尋ねた。
「それはっ……夕陽が射してるから、」
「何でそんなに汗かいてるの?」
とっさに答える慎太郎に、間髪いれずに茜は尋ねる。
「それはっ……俺が暑がりだからで、」
「何でさっきから後退りするの?」
無意識に距離をとっていた慎太郎に、茜はじりじりとにじりよる。背中が窓について、逃げられなくなった。いや、逃げるつもりはないはず、だけれども。
「き……気のせいだ!」
「じゃあ大上くん、何であたしを呼んだりしたの?」
──それは。
「お前にっ……、好きだって言うためだよっ!」
あぁ、言った。言ってしまった。言ってしまった以上、きっと前のような関係には戻れない。
もうどうにでもなれと、慎太郎は、目の前の茜を強く強く抱き締めた。体の小さな茜は、大きな慎太郎の腕の中にすっぽりと収まってしまった。──まるで、狼に食べられた、赤ずきんのように。
* * *
何を話しているのだろう。お互い幸せそうで、暖かい空気が流れているような──。
「……どっちからだろ」
ぽつりと独り言を呟いた。あの様子を見る限り、智からだろうか。
──じゃあ、金子は“成功者”ってことか。うらやましい。
やっぱりそう思わずにはいられない。成功の秘訣を聞いておけばよかった。そう思いながら二人を眺めている。と。
「ぬぁっ!」
思わず声をあげた。どんどん距離を縮めていると思えば、智が、千花の手をぎこちなく握ったではないか。その、初々しくも幸せそうなこと。
これ以上見ていたら気がどうにかなりそうだ。慎太郎は黙って窓に背を向けた。──その時だった。
「すみませぇん! 週番やってて遅れちゃって!」
慌てたような声と共に、扉が開いた。
──!?
完全に気を抜いていた。息を切らして教室にやって来た茜は、室内を見渡してから首をかしげた。
「……あれ? 大上くん、ここで委員会やってなかった?」
尋ねられてドキリとした。そうだ、そう言って呼び出してもらったんだったか。今更ながら騙したことを思い出し、なんといっていいのか分からなかった。
「あ……あの、江頭」
「なぁに?」
「い……委員会あるって、その、う、嘘なんだ。俺が、その、江頭に、用……あって。えと……ごめん」
しどろもどろになりながら、慎太郎は言った。騙したこと、怒るだろうか。恐る恐る茜を見ると、ふにゃっと笑った。
「なんだ、よかったー!」
「え?」
「委員会、遅刻したかと思ったから。なかったのかぁ、よかったー!」
えへへと笑う茜に、慎太郎は唖然とした。あぁ──やっぱり、この子はいい子で……かわいい。
なんて思っている場合じゃない。告白だ。告白をするのだ。
「あのっ……」
「にしても久しぶりだねー? クラス変わってからあんまり話せなくなったもんね?」
そうだった。茜は自由奔放で、いつもいつも、茜のペースに巻き込んでくれて、それが心地よくもあって。
──でもそれじゃ。
「……だな」
「どぉ? クラス楽しい? うちはね、みんな仲良くて楽しいよー!」
「……そか。よかったな」
──駄目なんだ。
「そっちのクラス、学祭なにやるか決まってる?」
「いや……まだ」
「うちのクラスね、男装・女装喫茶やりたいねって案が出たんだけどね、うらちゃん……あ、生徒会長の鬼村くんね? が、めちゃくちゃ嫌がって、なしになっちゃったんだぁ。なんでだろうね?」
「……へぇ」
──けども。
「だから、普通に喫茶店になりそう──」
「江頭!」
「へ?」
慎太郎は、ギッと茜を睨み付けた。顔のせいかすごい迫力だが、茜は気にもせず、まあるい瞳で慎太郎を見つめ返した。
「俺がしたいのは、そんな話じゃなくて……」
言いかけて、また茜が口を挟む。
「あっ、そうだよね! あたしに用事があったんだよね? ごめんね、久しぶりで、つい。何かな? 用事って」
慎太郎はぐ、と喉を鳴らした。改めて機会を設けられると、なんとも言い出しづらい。茜は慎太郎の気持ちなど露知らず、自然と上目使いになった瞳でじいっと慎太郎を見つめた。慎太郎の顔が、みるみる赤く染まる。
「……大上くん? どうしてそんなに赤い顔してるの?」
心底不思議そうな顔で、茜は尋ねた。
「それはっ……夕陽が射してるから、」
「何でそんなに汗かいてるの?」
とっさに答える慎太郎に、間髪いれずに茜は尋ねる。
「それはっ……俺が暑がりだからで、」
「何でさっきから後退りするの?」
無意識に距離をとっていた慎太郎に、茜はじりじりとにじりよる。背中が窓について、逃げられなくなった。いや、逃げるつもりはないはず、だけれども。
「き……気のせいだ!」
「じゃあ大上くん、何であたしを呼んだりしたの?」
──それは。
「お前にっ……、好きだって言うためだよっ!」
あぁ、言った。言ってしまった。言ってしまった以上、きっと前のような関係には戻れない。
もうどうにでもなれと、慎太郎は、目の前の茜を強く強く抱き締めた。体の小さな茜は、大きな慎太郎の腕の中にすっぽりと収まってしまった。──まるで、狼に食べられた、赤ずきんのように。
* * *
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
モテ男とデキ女の奥手な恋
松丹子
恋愛
来るもの拒まず去るもの追わずなモテ男、神崎政人。
学歴、仕事共に、エリート過ぎることに悩む同期、橘彩乃。
ただの同期として接していた二人は、ある日を境に接近していくが、互いに近づく勇気がないまま、関係をこじらせていく。
そんなじれじれな話です。
*学歴についての偏った見解が出てきますので、ご了承の上ご覧ください。(1/23追記)
*エセ関西弁とエセ博多弁が出てきます。
*拙著『神崎くんは残念なイケメン』の登場人物が出てきますが、単体で読めます。
ただし、こちらの方が後の話になるため、前著のネタバレを含みます。
*作品に出てくる団体は実在の団体と関係ありません。
関連作品(どれも政人が出ます。時系列順。カッコ内主役)
『期待外れな吉田さん、自由人な前田くん』(隼人友人、サリー)
『初恋旅行に出かけます』(山口ヒカル)
『物狂ほしや色と情』(名取葉子)
『さくやこの』(江原あきら)
『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!』(阿久津)
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
同居人の一輝くんは、ちょっぴり不器用でちょっぴり危険⁉
朝陽七彩
恋愛
突然。
同居することになった。
幼なじみの一輝くんと。
一輝くんは大人しくて子羊みたいな子。
……だったはず。
なのに。
「結菜ちゃん、一緒に寝よ」
えっ⁉
「結菜ちゃん、こっちにおいで」
そんなの恥ずかしいよっ。
「結菜ちゃんのこと、どうしようもなく、
ほしくてほしくてたまらない」
そんなにドキドキさせないでっ‼
今までの子羊のような一輝くん。
そうではなく。
オオカミになってしまっているっ⁉
。・.・*.・*・*.・。*・.・*・*.・*
如月結菜(きさらぎ ゆな)
高校三年生
恋愛に鈍感
椎名一輝(しいな いつき)
高校一年生
本当は恋愛に慣れていない
。・.・*.・*・*.・。*・.・*・*.・*
オオカミになっている。
そのときの一輝くんは。
「一緒にお風呂に入ったら教えてあげる」
一緒にっ⁉
そんなの恥ずかしいよっ。
恥ずかしくなる。
そんな言葉をサラッと言ったり。
それに。
少しイジワル。
だけど。
一輝くんは。
不器用なところもある。
そして一生懸命。
優しいところもたくさんある。
そんな一輝くんが。
「僕は結菜ちゃんのこと誰にも渡したくない」
「そんなに可愛いと理性が破壊寸前になる」
なんて言うから。
余計に恥ずかしくなるし緊張してしまう。
子羊の部分とオオカミの部分。
それらにはギャップがある。
だから戸惑ってしまう。
それだけではない。
そのギャップが。
ドキドキさせる。
虜にさせる。
それは一輝くんの魅力。
そんな一輝くんの魅力。
それに溺れてしまう。
もう一輝くんの魅力から……?
♡何が起こるかわからない⁉♡
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる