おとぎ日和

天乃 彗

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赤ずきん

03 決戦の前に

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 夕日が射す教室の、窓際に佇み外を見つめる一人の男子。シチュエーションは青春の1ページのようだが、彼からは甘酸っぱい要素はひとつも見いだせなかった。何故なら、彼はどす黒いオーラを振り撒きながら、深く深く眉間にシワを寄せて、激しく貧乏ゆすりをしていたからだ。

「……おい」

 ようやく、慎太郎は声を出した。低く響く声に、声をかけられた女子はびくり、と肩を震わせる。

「なっ……なななななな何でしょうっ……!」

 明らかに怯えた声で返事をした、慎太郎と同じクラスの女子──若草千花。彼女は箒を片手に縮こまった。
 だいたい、事情は分かる。彼女は頼まれると断れない性格らしく、いつでも、誰かしらに掃除役を押し付けられ、放課後残って掃除をしている。それは承知しているし、毎度毎度ご苦労なことだ、とも思う。
 しかし、問いたださずにはいられない。

「何、してんだ」
「そっ……掃除を!」
「何で、今日に限って」
「へ?」

 慎太郎の事情なんて知る余地もない千花は、きょとんと首をかしげた。慎太郎は、イライラが押さえきれずに、ボサボサの髪をかきむしる。

「……っだー! もう! 後はやっとくからさっさと帰れよ! 頼むから!」
「ひっ! はい! すみませんすみませんごめんなさい!」

 今にも噛みついてきそうな勢いの慎太郎に、半泣き状態で謝る千花。千花は全く悪くはないのだが、今の慎太郎には他人を気遣う余裕はない。千花は慌てて荷物をまとめると、扉まで駆けていった。そのとき、ちょうどよく扉が開いた。

「わっ! どうしたの? そんなに慌てて。掃除、終わった?」
「かっ……金子、くん」

 そこに立っていたのは、またしても同じクラスの金子智だった。智はぶつかってきた千花を支えながら、顔を見てぎょっとしたようだった。

「え? ちょ、ま、何で泣きそう?」
「ちが、何でもっ……」
「……大上?」

 訝しげな顔をした智と目があった。よく考えたら、なんとまぁ言い逃れが出来ない状況だろう。実際泣かせたのは慎太郎だが、今はそんなことでもめている場合ではないのだ。言い訳を必死に考えているところで、千花が智を制した。

「ほんとに違うからっ! 私が勝手に驚いただけで……大上くんは何も悪くないの!」

 智は少し納得いかないような顔をしていたが、しばらくして慎太郎を睨むのをやめた。

「……で、大上はこんなとこで何してんの?」
「用事があんだよ」

 そっけなく返事をしたところで、ふと、気がつく。

──あれ。さっき金子、若草を待ってた風な言い方しなかったか? 

 クラスで仲のいい素振りを見せないこの二人が、何で今一緒にいるのだろう。すると智は、当たり前のように千花の鞄を持った。

「……なぁ。お前ら、まさか」

 恐る恐る、二人を指差した。二人は目を合わせたあと、千花は恥ずかしそうにうつむき、智は照れ笑いを浮かべた。
 その様子でもう分かる。そのまさかだ。
 智は質問には答えず、「また明日な」とだけ言って教室を出た。千花もそのあとを追って教室をあとにする。残された慎太郎は、ただ唖然として二人が去っていった入り口を眺めていた。

「……まじかよ」

 慎太郎はうなだれながらしゃがみこむ。慎太郎が、今何よりもほしいもの。それを手にした二人を目の当たりにしてしまって、やりきれなくなった。うらやましいと思わざるを得ない。

──ちくしょう、俺だって。俺だって。

 強がってみるも、成功する保証はない戦いに、長い長いため息をついた。


 * * *


「金子、くん」
「ん?」
「何してたのかな……大上くん」
「あー……俺、なんとなくわかる気がする」
「え? な、なに?」
「──決戦、かな。わかるわー、気持ち」
「……? ごめん、全然わかんないや……」


 * * *
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