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兎系男女警報
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「タマー、帰ろうよー」
あたしは遠くから、タマに声をかけた。タマはというと、公園の茂みをガサガサと漁っている。
「るっせー。一日一回はボスに挨拶しねーと駄目なんだよ」
「ばっかじゃないの……あんなブサネコに」
ここ最近、タマはこの辺を取り仕切ってる(らしい)ボス猫に夢中なのだ。図体だけやたらでかくて、ぶっさいくで、頬のところに傷があって、尻尾が曲がった茶トラ。見た目からして強者なのがわかるその猫は、やっぱりこの辺のボスなんだそうだ。タマはそいつを「ボス」と呼んで慕っている。そして餌をたらふく与えている。
「ボスー」
「いい加減にしてよ……あたし、帰──っくしょい! へっくしょい!」
鼻がむずむずする。目と肌が痒い。これは間違いなく。
「近くにいるうううう! いやぁぁぁ!!」
「あっおい……ボス! ちわっす!」
あたしが叫ぶと同時にボスは顔を出したらしい。嬉しそうなタマの声が聞こえたけど、あたしは身の安全のために駆け出した。……もう知らん! あんなやつ放って帰る!
あたしが走りながら腕時計に目をやると──。
「わっ!」
「!?」
誰かにぶつかった。あたしはとっさに受け身をとったけど、相手は尻餅をついてしまっている。
「きゃぁぁごめんなさい! お怪我ないですか!」
「僕は大丈──いてて」
立ち上がろうとしたその男の人は、そっと手首を押さえた。
「てっ……! 手首痛めたんですか!? ごめんなさいっ! あたし……」
「いいんだ、僕が不注意だったからで」
「そんなこと……!」
あたしが慌ててしゃがみこむと、その男の人はにこり、と笑った。……かっこいい、というか。どちらかというとかわいい系で。雰囲気はおとなしげって言うか、儚げって言うか。色素が薄いのか、肌なんか白くて。髪の毛も染めた感じの色じゃない、きれいな茶色。横にぴょっこりと跳ねた髪の毛は、まるで……。
「お兄さん、兎みたいですね?」
「あはは、よく言われる」
お兄さんは痛めてない方の手であたしの手をつかんで立ち上がった。かわいい系、だけど、歳上だよね? 背も高いし。
「名前もね、宇佐美っていうんだ。宇佐美真兎。真に兎で、マト」
「へぇ……ぴったりですね」
すっごい草食っぽい感じだし。そうは言えないから静かに頷いた。
「君は?」
「あっ、あたしは……逢坂です。逢坂菜月」
あたしはぺこりとお辞儀をする。マトさんはすこし考えたあと、にっこりと笑った。
「じゃあ、菜月ちゃん。ちょっとお願いがあるんだけど」
「はい?」
「この荷物、片手じゃ辛いから、運ぶの手伝ってくれないかな?」
そう言ってマトさんが指差したのは、地面の上の大量の荷物。段ボールに入ってたらしいそれは、無惨にも散らばっていた。
「ぎゃああ! すみません!」
「べつにいいんだけど。ごめんね」
「こちらこそすみません! どこまでもお運びします!!」
あたしが荷物を拾い上げて、段ボールを持ち上げてマトさんを見ると、優しく微笑んでくれた。「ありがとう、優しいね」と言いながら頭を撫でられ、なんだか胸がこそばゆくなった。
* * *
ボスが満腹になって何処かへ行ってしまうと、タマは漸く立ち上がった。すると、菜月の姿が見えないことに気がついた。
──あいつ、どこいきやがった。
舌打ちをして、歩き出そうとすると、タマの目の前に誰かが立ちはだかった。
「あのぅ……」
「あ?」
見ない顔だ。タマは思いきりその女を睨み付けた。身長の低い女だ。身体全体の色素が薄いのか、肌も髪の色も薄く。しかし、量はある髪の毛をボブにしている。そして目を引くのは、一昔前に流行った、バンダナに針金が入ったタイプのウサ耳カチューシャ。身長をごまかすためなのか、ピンとたてられたそのカチューシャは正にウサギの耳のようだった。
タマは、その女を見下ろしながら、
──でっけぇ乳……。
そんなことを思った。身長に似合わない彼女の胸は、小さなサイズのTシャツでは少し窮屈そうだった。
「だれだ、おめぇ」
「あっ……あたし、ユウって言います」
「あっそ。オレ様は急いでんだ、どけ」
気にせず歩き出そうとすると、彼女──ユウは動き出さず、むにゅ、と柔らかい感触が伝わる。
「……」
「タマさんですよね? 猫、好きな」
悲しきかな、猫、という単語に反応してしまう。
「あはっ、やっぱり」
「なっ……なんだよ。猫にゃんがなんだってんだよ」
「これ、見てください!」
ユウは携帯を取り出したかと思うと、画面をタマに向けた。
──……!!
タマは目を見開く。そこには、なんとも可愛らしい子猫のが5、6匹、お互いにじゃれあっている姿が。
──……アメショ!!
猫はみんな可愛いが、そのなかでも王道の可愛さを持つ、アメリカンショートヘア。タマはその嫌味のない可愛らしさが大好きなのである。ユウは、タマの目が泳いだのを見逃さなかった。
「うちにいる子たちなんですけどぉ」
「うちにっ!?」
「でも、引き取り手がいなくて」
「んだと!?」
ユウは携帯をポケットにしまいながら言った。こんな天使たちが、路頭に迷っている? ありえない。
「タマさんは猫好きだって聞いたから、猫好きの知り合いいるかなぁ、なんて思って」
「あ!? たりめーだこら! こんな天使の引き取り手なんて一日で見つけてやる! どこだ案内しろ! 待ってろ天使!!」
肩を掴んでガタガタと揺らす。ユウはその勢いに驚きながらも、にこりと笑った。
「わっかりましたぁ♪」
その笑顔の裏にあること。その画像が、適当にネットで拾ってきた画像であること。かわいい猫を目の前にしたタマには、そんなことに気づく余裕など、なかった。
* * *
あたしは遠くから、タマに声をかけた。タマはというと、公園の茂みをガサガサと漁っている。
「るっせー。一日一回はボスに挨拶しねーと駄目なんだよ」
「ばっかじゃないの……あんなブサネコに」
ここ最近、タマはこの辺を取り仕切ってる(らしい)ボス猫に夢中なのだ。図体だけやたらでかくて、ぶっさいくで、頬のところに傷があって、尻尾が曲がった茶トラ。見た目からして強者なのがわかるその猫は、やっぱりこの辺のボスなんだそうだ。タマはそいつを「ボス」と呼んで慕っている。そして餌をたらふく与えている。
「ボスー」
「いい加減にしてよ……あたし、帰──っくしょい! へっくしょい!」
鼻がむずむずする。目と肌が痒い。これは間違いなく。
「近くにいるうううう! いやぁぁぁ!!」
「あっおい……ボス! ちわっす!」
あたしが叫ぶと同時にボスは顔を出したらしい。嬉しそうなタマの声が聞こえたけど、あたしは身の安全のために駆け出した。……もう知らん! あんなやつ放って帰る!
あたしが走りながら腕時計に目をやると──。
「わっ!」
「!?」
誰かにぶつかった。あたしはとっさに受け身をとったけど、相手は尻餅をついてしまっている。
「きゃぁぁごめんなさい! お怪我ないですか!」
「僕は大丈──いてて」
立ち上がろうとしたその男の人は、そっと手首を押さえた。
「てっ……! 手首痛めたんですか!? ごめんなさいっ! あたし……」
「いいんだ、僕が不注意だったからで」
「そんなこと……!」
あたしが慌ててしゃがみこむと、その男の人はにこり、と笑った。……かっこいい、というか。どちらかというとかわいい系で。雰囲気はおとなしげって言うか、儚げって言うか。色素が薄いのか、肌なんか白くて。髪の毛も染めた感じの色じゃない、きれいな茶色。横にぴょっこりと跳ねた髪の毛は、まるで……。
「お兄さん、兎みたいですね?」
「あはは、よく言われる」
お兄さんは痛めてない方の手であたしの手をつかんで立ち上がった。かわいい系、だけど、歳上だよね? 背も高いし。
「名前もね、宇佐美っていうんだ。宇佐美真兎。真に兎で、マト」
「へぇ……ぴったりですね」
すっごい草食っぽい感じだし。そうは言えないから静かに頷いた。
「君は?」
「あっ、あたしは……逢坂です。逢坂菜月」
あたしはぺこりとお辞儀をする。マトさんはすこし考えたあと、にっこりと笑った。
「じゃあ、菜月ちゃん。ちょっとお願いがあるんだけど」
「はい?」
「この荷物、片手じゃ辛いから、運ぶの手伝ってくれないかな?」
そう言ってマトさんが指差したのは、地面の上の大量の荷物。段ボールに入ってたらしいそれは、無惨にも散らばっていた。
「ぎゃああ! すみません!」
「べつにいいんだけど。ごめんね」
「こちらこそすみません! どこまでもお運びします!!」
あたしが荷物を拾い上げて、段ボールを持ち上げてマトさんを見ると、優しく微笑んでくれた。「ありがとう、優しいね」と言いながら頭を撫でられ、なんだか胸がこそばゆくなった。
* * *
ボスが満腹になって何処かへ行ってしまうと、タマは漸く立ち上がった。すると、菜月の姿が見えないことに気がついた。
──あいつ、どこいきやがった。
舌打ちをして、歩き出そうとすると、タマの目の前に誰かが立ちはだかった。
「あのぅ……」
「あ?」
見ない顔だ。タマは思いきりその女を睨み付けた。身長の低い女だ。身体全体の色素が薄いのか、肌も髪の色も薄く。しかし、量はある髪の毛をボブにしている。そして目を引くのは、一昔前に流行った、バンダナに針金が入ったタイプのウサ耳カチューシャ。身長をごまかすためなのか、ピンとたてられたそのカチューシャは正にウサギの耳のようだった。
タマは、その女を見下ろしながら、
──でっけぇ乳……。
そんなことを思った。身長に似合わない彼女の胸は、小さなサイズのTシャツでは少し窮屈そうだった。
「だれだ、おめぇ」
「あっ……あたし、ユウって言います」
「あっそ。オレ様は急いでんだ、どけ」
気にせず歩き出そうとすると、彼女──ユウは動き出さず、むにゅ、と柔らかい感触が伝わる。
「……」
「タマさんですよね? 猫、好きな」
悲しきかな、猫、という単語に反応してしまう。
「あはっ、やっぱり」
「なっ……なんだよ。猫にゃんがなんだってんだよ」
「これ、見てください!」
ユウは携帯を取り出したかと思うと、画面をタマに向けた。
──……!!
タマは目を見開く。そこには、なんとも可愛らしい子猫のが5、6匹、お互いにじゃれあっている姿が。
──……アメショ!!
猫はみんな可愛いが、そのなかでも王道の可愛さを持つ、アメリカンショートヘア。タマはその嫌味のない可愛らしさが大好きなのである。ユウは、タマの目が泳いだのを見逃さなかった。
「うちにいる子たちなんですけどぉ」
「うちにっ!?」
「でも、引き取り手がいなくて」
「んだと!?」
ユウは携帯をポケットにしまいながら言った。こんな天使たちが、路頭に迷っている? ありえない。
「タマさんは猫好きだって聞いたから、猫好きの知り合いいるかなぁ、なんて思って」
「あ!? たりめーだこら! こんな天使の引き取り手なんて一日で見つけてやる! どこだ案内しろ! 待ってろ天使!!」
肩を掴んでガタガタと揺らす。ユウはその勢いに驚きながらも、にこりと笑った。
「わっかりましたぁ♪」
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