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05 好きになる
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言わば、人質なのだ。
親の借金の肩代わりをしてもらう代わりに、一人娘を嫁がせる。相手が私を気に入ったから援助してくれるとかなんとか聞かされたけれど、そんな両親の言葉なんて入ってこなかった。娘の気持ちなんて考えもせず、両手放しで喜んでるくせに。
相手は、18歳も上の冴えない男だ。金だけは余るほど持ち合わせている、顔も性格もパッとしない男。あの男が私の旦那になるのだと、考えれば考えるほど嫌だ。なんとかして、この話をなかったことにしたい。
でも、私も人の子だ。両親のあんな嬉しそうな顔を見てしまったら、この話を蹴ることなんてできない。私には、最初から選択肢なんてないのだ。受け入れなければいけない。この話と、あの人を。本当は、すごく嫌だけど──仕方ないのよ。仕方ないけど、頑張ってあの人にいいところを見出して、好きになって、幸せな結婚をしなきゃいけないの。それが両親のためなんだから。
溜息をつきながら、店のドアを開ける。お裁縫をする時の糸を切らしてしまったから、その買い出し。
「いらっしゃいませー! って、あれれ?」
やけに小さな子の声が耳に届いた。ここのご主人、こんなに小さなお子さんがいたかしら……? そう思って顔を上げて──ギョッとした。
「ここ、どこっ……!?」
私は、いつものお店に入ったはずだった。小さなお店だけどお裁縫の道具ならなんでも揃う、ご主人と奥さんだけで切り盛りしているお店。入ると、これでもかと言わんばかりに布のロールがたくさんあって。
でも、ここのお店の棚に並んでいるのは、小瓶、小瓶、小瓶。布なんてどこにもない。驚きのあまり固まっていると、さっき声を発したであろう子供は私よりもっと驚いた顔で私のことを見ていた。
「お、お客様? でも、あれ? 僕、導いてな……ええと、シーザさぁん!!」
その子供はドタバタと奥に走ってしまう。ここがどこなのか尋ねる前に行ってしまった。ややあって、奥から大人の男の人がやって来て、また驚いた。見慣れたご主人じゃない男の人だった。
「煩いよ、コロット。あぁ、いらっしゃいませ、お客様」
「ここ、どこですかっ……!?」
自分で状況が掴めないなら、その場にいる人に聞くしかない。私は慌ててその男の人──シーザさんと呼ばれていた──に尋ねた。
「僕、この人のこと導いてないのに、入って来ちゃったんですよぉ! どうしてですか!?」
同じく状況が掴めていない様子の男の子──コロットくん、かしら──は、シーザさんのズボンの裾をぎゅっと握りしめながら慌てている。導くとか、なんの話だろう。入って来ちゃった、なんて言い方、非常に不愉快だ。私だって、入って来たくて入って来たわけではない。
「たまにあるんだよ。『頑張り』を必要とする人が、自分で異世界の扉を開けてしまうことが」
「あの……さっきから意味が」
「あ、これは失礼しました。申し遅れましたが、私はここ、『頑張り屋』の店主をしております、シーザです。こちらは助手のコロット」
「……『頑張り屋』、って……?」
さっきから、聞きなれない単語のオンパレードで、私の頭は混乱しきっている。対するシーザさんは、聞き返されるのなんて日常茶飯事なのか、ムッとする様子もなく私に答えてくれる。
「頑張らないといけないのに、勇気が出ない、踏ん切りがつかない。そんな人のために、そのあと少しの『もうひと頑張り』を売っているのがこの店です」
「……もうひと頑張り……」
頑張らないといけないのに、踏ん切りがつかない──そんなのまさに、あの人のことだ。
「あなたも、ここの扉を開いた以上、何か事情があるのでしょう」
「!!」
「もしよろしかったら、お話をお聞かせ願えますか? お茶でもしながらゆっくりと」
シーザさんがコロットくんに目配せをすると、コロットくんは奥の部屋に駆けて行った。それをやれやれという風に見送った後、シーザさんはカウンター横のソファーに私を案内したのだった。
* * *
親の借金の肩代わりをしてもらう代わりに、一人娘を嫁がせる。相手が私を気に入ったから援助してくれるとかなんとか聞かされたけれど、そんな両親の言葉なんて入ってこなかった。娘の気持ちなんて考えもせず、両手放しで喜んでるくせに。
相手は、18歳も上の冴えない男だ。金だけは余るほど持ち合わせている、顔も性格もパッとしない男。あの男が私の旦那になるのだと、考えれば考えるほど嫌だ。なんとかして、この話をなかったことにしたい。
でも、私も人の子だ。両親のあんな嬉しそうな顔を見てしまったら、この話を蹴ることなんてできない。私には、最初から選択肢なんてないのだ。受け入れなければいけない。この話と、あの人を。本当は、すごく嫌だけど──仕方ないのよ。仕方ないけど、頑張ってあの人にいいところを見出して、好きになって、幸せな結婚をしなきゃいけないの。それが両親のためなんだから。
溜息をつきながら、店のドアを開ける。お裁縫をする時の糸を切らしてしまったから、その買い出し。
「いらっしゃいませー! って、あれれ?」
やけに小さな子の声が耳に届いた。ここのご主人、こんなに小さなお子さんがいたかしら……? そう思って顔を上げて──ギョッとした。
「ここ、どこっ……!?」
私は、いつものお店に入ったはずだった。小さなお店だけどお裁縫の道具ならなんでも揃う、ご主人と奥さんだけで切り盛りしているお店。入ると、これでもかと言わんばかりに布のロールがたくさんあって。
でも、ここのお店の棚に並んでいるのは、小瓶、小瓶、小瓶。布なんてどこにもない。驚きのあまり固まっていると、さっき声を発したであろう子供は私よりもっと驚いた顔で私のことを見ていた。
「お、お客様? でも、あれ? 僕、導いてな……ええと、シーザさぁん!!」
その子供はドタバタと奥に走ってしまう。ここがどこなのか尋ねる前に行ってしまった。ややあって、奥から大人の男の人がやって来て、また驚いた。見慣れたご主人じゃない男の人だった。
「煩いよ、コロット。あぁ、いらっしゃいませ、お客様」
「ここ、どこですかっ……!?」
自分で状況が掴めないなら、その場にいる人に聞くしかない。私は慌ててその男の人──シーザさんと呼ばれていた──に尋ねた。
「僕、この人のこと導いてないのに、入って来ちゃったんですよぉ! どうしてですか!?」
同じく状況が掴めていない様子の男の子──コロットくん、かしら──は、シーザさんのズボンの裾をぎゅっと握りしめながら慌てている。導くとか、なんの話だろう。入って来ちゃった、なんて言い方、非常に不愉快だ。私だって、入って来たくて入って来たわけではない。
「たまにあるんだよ。『頑張り』を必要とする人が、自分で異世界の扉を開けてしまうことが」
「あの……さっきから意味が」
「あ、これは失礼しました。申し遅れましたが、私はここ、『頑張り屋』の店主をしております、シーザです。こちらは助手のコロット」
「……『頑張り屋』、って……?」
さっきから、聞きなれない単語のオンパレードで、私の頭は混乱しきっている。対するシーザさんは、聞き返されるのなんて日常茶飯事なのか、ムッとする様子もなく私に答えてくれる。
「頑張らないといけないのに、勇気が出ない、踏ん切りがつかない。そんな人のために、そのあと少しの『もうひと頑張り』を売っているのがこの店です」
「……もうひと頑張り……」
頑張らないといけないのに、踏ん切りがつかない──そんなのまさに、あの人のことだ。
「あなたも、ここの扉を開いた以上、何か事情があるのでしょう」
「!!」
「もしよろしかったら、お話をお聞かせ願えますか? お茶でもしながらゆっくりと」
シーザさんがコロットくんに目配せをすると、コロットくんは奥の部屋に駆けて行った。それをやれやれという風に見送った後、シーザさんはカウンター横のソファーに私を案内したのだった。
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