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05 好きになる
06
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ヘレナが帰った後、カウンターの下からコロットがひょこりと顔を出した。その顔はどこか不満げで、何か物言いたそうだった。
「どうしたんだい、コロット」
「……僕、やっぱり納得いきません。『誰かを好きになる頑張り』なんて……。『頑張り』はもちろん素敵だし大切だけど、『頑張って』人を好きになるなんて、変です! 正直僕、シーザさんをちょびっとだけ見損なっちゃいましたよ!」
「ああ、それで拗ねてたのかい」
拗ねてる、という言い回しがいかにも子供扱いで、コロットはまた唇を尖らせた。お客様のどんな要望にも応えるのはプロとして当然のことだ。しかし、それにしたって、今回の『頑張り』は、納得がいかない。『頑張り』に匹敵するのは『誰かを想う気持ち』だと、シーザは自分に説いてくれた。だからこそ、シーザに憧れ、彼を目指すコロットにとって、今回の一件はショックだった。『誰かを想う気持ち』を、『頑張り』でどうにかするなんて。
「そんな風にして好きになられた相手の人だって、可哀想です!」
「なら、安心するといい。彼女に渡したのはただの水だよ」
「ふーん、そーですかーただの水……って、ええ!? ど、どうして──」
言いかけたところで、店のドアが開いた。立っていたのは中年の男だった。身につけているものは高級そうだが、人畜無害という言葉がよく似合う、人の良さそうな──悪く言えば冴えない男だ。コロットはまた、自分が導いてないのに来店してしまったお客に動揺したが、どうやらシーザはこの男を知っているらしい。そして、相手の男も。
「シーザさん! 先日はどうもありがとうございました」
「コンラッドさん、ようこそいらっしゃいました」
──コンラッド?
聞いたことあるような無いような名前に、コロットは首をかしげる。
「今までの分も合わせて小瓶を返しに来ました。ええと、『相手の両親に結婚を申し出る頑張り』、『彼女を食事に誘う頑張り』、『彼女をデートに誘う頑張り』、『告白する頑張り』……これで全部だったかな?」
「ええ、そうですね。確かに回収させていただきました」
──コンラッド、コンラッド、コンラッド……。
──あ!
「このお店のおかげで、彼女と向き合うことができました。感謝します」
「私たちは、あなたに少しだけ力を貸しただけですよ」
「その少しが大きいのです。でも、次こそは……彼女へのプロポーズは、その“少し”も、自分の力で踏み出せるように頑張ります」
シーザは、差し出された右手をぎゅっと握り返した。その手の力はしっかりとしていて、シーザは少しだけ嬉しく思う。
力強い足取りで店を後にしたコンラッドを見送って、ぽかんと口を開けっ放しにしているコロットに向き直った。
「で、ええと。“どうして”だっけ? それは彼が常連さんだからさ。だった、のが正しいかな」
「なんで、そんなこと?」
「彼の『誰かを想う気持ち』を、無下にはしたくなかったからね。彼女にあげたのはただの水だから、彼への好意は正真正銘、彼女の気持ちだ。……騙してただの水を渡すなんて、見損なったかい?」
コロットはあんぐりとしたまま、ふるふると首を横に振った。自分の憧れの人は、自分が考えていたより一枚も、二枚も上手だった。とにかく、人の気持ちを無下にするようなことをシーザがしていなくて良かったと心から思う。
「やっぱりシーザさんは、世界一です!!」
「はいはい」
「僕、早く一人前になって、シーザさんみたいになれるよう頑張ります!」
シーザははしゃぐコロットの頭を、やれやれと言った風に撫でた。すると、コロットはピタリと動きを止め、シーザのことをおずおずと見つめる。
「……ヘレナさんも、いつか彼のために、何かを頑張ろうと思うときが来るでしょうか?」
自分の気持ちと、重ねたのだろうか。シーザのために頑張りたいと思う、その気持ちと。祈るようなその瞳に、シーザは思わず笑みをこぼした。
「それは彼の、『頑張り』次第さ」
少し意地悪なシーザの答えに、コロットもつられて笑ったのだった。
「どうしたんだい、コロット」
「……僕、やっぱり納得いきません。『誰かを好きになる頑張り』なんて……。『頑張り』はもちろん素敵だし大切だけど、『頑張って』人を好きになるなんて、変です! 正直僕、シーザさんをちょびっとだけ見損なっちゃいましたよ!」
「ああ、それで拗ねてたのかい」
拗ねてる、という言い回しがいかにも子供扱いで、コロットはまた唇を尖らせた。お客様のどんな要望にも応えるのはプロとして当然のことだ。しかし、それにしたって、今回の『頑張り』は、納得がいかない。『頑張り』に匹敵するのは『誰かを想う気持ち』だと、シーザは自分に説いてくれた。だからこそ、シーザに憧れ、彼を目指すコロットにとって、今回の一件はショックだった。『誰かを想う気持ち』を、『頑張り』でどうにかするなんて。
「そんな風にして好きになられた相手の人だって、可哀想です!」
「なら、安心するといい。彼女に渡したのはただの水だよ」
「ふーん、そーですかーただの水……って、ええ!? ど、どうして──」
言いかけたところで、店のドアが開いた。立っていたのは中年の男だった。身につけているものは高級そうだが、人畜無害という言葉がよく似合う、人の良さそうな──悪く言えば冴えない男だ。コロットはまた、自分が導いてないのに来店してしまったお客に動揺したが、どうやらシーザはこの男を知っているらしい。そして、相手の男も。
「シーザさん! 先日はどうもありがとうございました」
「コンラッドさん、ようこそいらっしゃいました」
──コンラッド?
聞いたことあるような無いような名前に、コロットは首をかしげる。
「今までの分も合わせて小瓶を返しに来ました。ええと、『相手の両親に結婚を申し出る頑張り』、『彼女を食事に誘う頑張り』、『彼女をデートに誘う頑張り』、『告白する頑張り』……これで全部だったかな?」
「ええ、そうですね。確かに回収させていただきました」
──コンラッド、コンラッド、コンラッド……。
──あ!
「このお店のおかげで、彼女と向き合うことができました。感謝します」
「私たちは、あなたに少しだけ力を貸しただけですよ」
「その少しが大きいのです。でも、次こそは……彼女へのプロポーズは、その“少し”も、自分の力で踏み出せるように頑張ります」
シーザは、差し出された右手をぎゅっと握り返した。その手の力はしっかりとしていて、シーザは少しだけ嬉しく思う。
力強い足取りで店を後にしたコンラッドを見送って、ぽかんと口を開けっ放しにしているコロットに向き直った。
「で、ええと。“どうして”だっけ? それは彼が常連さんだからさ。だった、のが正しいかな」
「なんで、そんなこと?」
「彼の『誰かを想う気持ち』を、無下にはしたくなかったからね。彼女にあげたのはただの水だから、彼への好意は正真正銘、彼女の気持ちだ。……騙してただの水を渡すなんて、見損なったかい?」
コロットはあんぐりとしたまま、ふるふると首を横に振った。自分の憧れの人は、自分が考えていたより一枚も、二枚も上手だった。とにかく、人の気持ちを無下にするようなことをシーザがしていなくて良かったと心から思う。
「やっぱりシーザさんは、世界一です!!」
「はいはい」
「僕、早く一人前になって、シーザさんみたいになれるよう頑張ります!」
シーザははしゃぐコロットの頭を、やれやれと言った風に撫でた。すると、コロットはピタリと動きを止め、シーザのことをおずおずと見つめる。
「……ヘレナさんも、いつか彼のために、何かを頑張ろうと思うときが来るでしょうか?」
自分の気持ちと、重ねたのだろうか。シーザのために頑張りたいと思う、その気持ちと。祈るようなその瞳に、シーザは思わず笑みをこぼした。
「それは彼の、『頑張り』次第さ」
少し意地悪なシーザの答えに、コロットもつられて笑ったのだった。
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