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目覚ましのアラームが鳴り響く朝。俺はもそもそと布団から起きだした。
「……ねむ」
独り言を呟くも、返事はない。大学入学のために上京してきてしばらく経つけど、たまにふと淋しくなる。やっぱりもうちょっと狭い部屋借りればよかったななんて思ったり。
朝は抜きでいいやと思いながら、水道水で顔を洗う。寝起きの俺にはそれはひどく冷たく感じて、眠気が吹き飛んだ。大学からデビューしたコンタクトを付けて、一息。次に、鏡を見て寝癖をチェックする。寝癖はないが、髪が伸びてきた。生え際も黒くなってきてるし、そろそろ美容院でカットとカラーリングしなきゃだ。
のそのそと私服に着替えて、何気なくテレビの電源を入れた。朝の占いコーナーをやっている。あいにく俺は占いを信じるほうではない。なんか、バカらしくない? 当たるか分からないもの信じて一喜一憂するの。
《第一位! 山羊座のあなた! 素敵な出会いがあるかも! ラッキーカラーは赤色──》
一位だ。俺は思わず鼻で笑う。素敵な出会い? ないない。
俺はテレビの電源を消して立ち上がった。そろそろ行かなくちゃいけない時間だ。
教科書は大学に起きっぱなしだから、空っぽの鞄を持って家を出る。忘れ物、なし。
今日は2限英語だ、めんどくさいな、なんて考えながら、大学に向かう。
そんな感じの俺、朝霧晃太は平凡な大学生だ。ちなみに、悲しきかな彼女なし。
大学までの並木道をぼけっと歩く。今日は快晴で、雲一つない。こんな日はどこかに遊びに行きたいけど、単位との相談だ。大学までは徒歩10分。割と近いアパートを取れた。
ふと、今日の占いを思い出す。毎日大学と家の往復なのに、出会いなんてあるわけが──。
「わっ!」
背中に、衝撃。何かがぶつかってきたらしい。思わず前につんのめったが、バランスをとって転けることは防いだ。
痛ぇ……。ついてない。やっぱり一位なんて嘘じゃないか。俺は背中をさすりながら後ろを振り向いた。
──あ、らら?
俺は目を疑った。俺にぶつかった衝撃でそこで尻餅をついていたのは、なんとも俺好みの黒髪艶々ストレートの女の子だった。髪フェチの俺としては、かなりの高ポイントだ。
“素敵な出会いがあるかも”
テレビで流れていた甲高い女の声が頭をよぎった。
いやいや、漫画じゃあるまいし。俺は首をブンブンと振って、とりあえず彼女をどうにかせねばと手を差し出す。
「ご、ごめんね。大丈夫?」
彼女はゆっくりと顔を上げる。彼女と目が合って、俺は固まった。
──美少女……!
なんとその少女、髪が綺麗なだけでなく、顔もすごく綺麗だったのだ。切れ長の目は、どこかミステリアスな印象を受ける。小さい鼻に、ぷっくり艶々な唇。顔も体も小さいその子は、まさに美少女だった。
“素敵な出会いが”
“素敵な出会いが”
“素敵な出会いが”
同じ部分が壊れたラジカセみたいに繰り返されて、止まらなくなった。……これはもしかするともしかするんじゃないのか!?
彼女は無言でじっと俺を見つめたあと、俺の手を取った。触れられて、思わずドキッとしてしまう。彼女は俺の助けをうけて立ち上がって──立ち上がった後も、俺の手を離さなかった。それどころか……なんと俺の手を強く握り返してきたではないか!
「え? あ、あの……?」
動揺を隠せず、俺は彼女を伺う。彼女はそっと目を閉じて、動かない。何だ。何が起こってるんだ!?
ゆっくり目を開けて、彼女は俺を見た。何だか神秘的な視線に、俺はドキドキしっぱなしだ。彼女は、そこでやっと、今日初めて言葉を発した。俺には、理解できない発言を。
「見つけた……私の、旦那さま……!」
彼女は、瞳をキラキラと輝かせて、俺の手を強く強く、握った──。
「……は!?」
聞こえた言葉に耳を疑う。
今……“旦那さま”って? これからいい関係になるならあれだけど、俺らはまだ初対面だぞ? そもそも、見つけたってどういうことだ?
混乱する俺をよそに、彼女はするりと俺の腕に自身の腕を絡ませた。
「……早速、婚姻届けを出しに行きましょう……」
「えっちょっ、はぁぁぁぁあ!? 待って待って婚姻届けって!?」
「……男女が籍を入れる際に役所に届けるものだけど」
「それは知ってるよ!? 知ってるけど! 何で初対面の俺と! 君が! 急に結婚なの!?」
混乱のあまり声を荒げる俺に、彼女はさらに混乱するようなことを言った。
「初対面じゃ、ないわ……」
「え?」
「私は、あなたを知ってるわ。何度も何度も、夢に見たもの……」
夢に、俺が!? 俺は訳が分からなくて、彼女を見つめた。彼女は妖しくも美しい笑みを浮かべて、言葉を続ける。
「私には、見えるの……未来が」
「未来が見える? え?」
「私は神に愛された子……神から特別な力を授けられて」
「……はぁ」
「あなたを、見たわ。夢で、私と幸せな家庭を築いてた」
駄目だ、この子危ない子だ! 何だっけこういう子……“電波系”!?
関わらないほうがいいと直感した俺は、彼女の腕を振り払って走りだした。
「多分、人違いです!」
「……間違いないわ。朝霧晃太」
「!?」
思わず、足を止めた。名乗っていない。分かるはずがないんだ。
俺は恐る恐る振り向いた。
「朝霧晃太。19歳。1月13日生まれの山羊座のO型。身長176センチ、体重68キロ」
「……なん、で」
全部、合ってた。だからこそ怖くなって、俺は顔を青くする。彼女は両手を顔の横に持っていき、また妖しく笑った。
「言ったでしょ……見えるって」
手……? ハッとして彼女を見た。さっき、目を閉じてた時か!
「あなたの未来も、私と同じだったわ……だから、間違いない」
「あ……あり得ないあり得ない! 俺は信じないから! 俺、急ぐから!」
彼女が怖くて、逃げ出したかった。“見える”ことが本当だとして──どこまで見られたんだ、さっきの一瞬で、俺は。
「……今日、いいことが起きるわ」
「え?」
「信じるかどうかは……あなたに任せるけど」
そう言って笑う彼女は、やっぱりどこか神秘的で──ゾクリとした。見とれてしまったことに少し後悔しながら、俺は逃げるようにその場から離れた。
* * *
「……ねむ」
独り言を呟くも、返事はない。大学入学のために上京してきてしばらく経つけど、たまにふと淋しくなる。やっぱりもうちょっと狭い部屋借りればよかったななんて思ったり。
朝は抜きでいいやと思いながら、水道水で顔を洗う。寝起きの俺にはそれはひどく冷たく感じて、眠気が吹き飛んだ。大学からデビューしたコンタクトを付けて、一息。次に、鏡を見て寝癖をチェックする。寝癖はないが、髪が伸びてきた。生え際も黒くなってきてるし、そろそろ美容院でカットとカラーリングしなきゃだ。
のそのそと私服に着替えて、何気なくテレビの電源を入れた。朝の占いコーナーをやっている。あいにく俺は占いを信じるほうではない。なんか、バカらしくない? 当たるか分からないもの信じて一喜一憂するの。
《第一位! 山羊座のあなた! 素敵な出会いがあるかも! ラッキーカラーは赤色──》
一位だ。俺は思わず鼻で笑う。素敵な出会い? ないない。
俺はテレビの電源を消して立ち上がった。そろそろ行かなくちゃいけない時間だ。
教科書は大学に起きっぱなしだから、空っぽの鞄を持って家を出る。忘れ物、なし。
今日は2限英語だ、めんどくさいな、なんて考えながら、大学に向かう。
そんな感じの俺、朝霧晃太は平凡な大学生だ。ちなみに、悲しきかな彼女なし。
大学までの並木道をぼけっと歩く。今日は快晴で、雲一つない。こんな日はどこかに遊びに行きたいけど、単位との相談だ。大学までは徒歩10分。割と近いアパートを取れた。
ふと、今日の占いを思い出す。毎日大学と家の往復なのに、出会いなんてあるわけが──。
「わっ!」
背中に、衝撃。何かがぶつかってきたらしい。思わず前につんのめったが、バランスをとって転けることは防いだ。
痛ぇ……。ついてない。やっぱり一位なんて嘘じゃないか。俺は背中をさすりながら後ろを振り向いた。
──あ、らら?
俺は目を疑った。俺にぶつかった衝撃でそこで尻餅をついていたのは、なんとも俺好みの黒髪艶々ストレートの女の子だった。髪フェチの俺としては、かなりの高ポイントだ。
“素敵な出会いがあるかも”
テレビで流れていた甲高い女の声が頭をよぎった。
いやいや、漫画じゃあるまいし。俺は首をブンブンと振って、とりあえず彼女をどうにかせねばと手を差し出す。
「ご、ごめんね。大丈夫?」
彼女はゆっくりと顔を上げる。彼女と目が合って、俺は固まった。
──美少女……!
なんとその少女、髪が綺麗なだけでなく、顔もすごく綺麗だったのだ。切れ長の目は、どこかミステリアスな印象を受ける。小さい鼻に、ぷっくり艶々な唇。顔も体も小さいその子は、まさに美少女だった。
“素敵な出会いが”
“素敵な出会いが”
“素敵な出会いが”
同じ部分が壊れたラジカセみたいに繰り返されて、止まらなくなった。……これはもしかするともしかするんじゃないのか!?
彼女は無言でじっと俺を見つめたあと、俺の手を取った。触れられて、思わずドキッとしてしまう。彼女は俺の助けをうけて立ち上がって──立ち上がった後も、俺の手を離さなかった。それどころか……なんと俺の手を強く握り返してきたではないか!
「え? あ、あの……?」
動揺を隠せず、俺は彼女を伺う。彼女はそっと目を閉じて、動かない。何だ。何が起こってるんだ!?
ゆっくり目を開けて、彼女は俺を見た。何だか神秘的な視線に、俺はドキドキしっぱなしだ。彼女は、そこでやっと、今日初めて言葉を発した。俺には、理解できない発言を。
「見つけた……私の、旦那さま……!」
彼女は、瞳をキラキラと輝かせて、俺の手を強く強く、握った──。
「……は!?」
聞こえた言葉に耳を疑う。
今……“旦那さま”って? これからいい関係になるならあれだけど、俺らはまだ初対面だぞ? そもそも、見つけたってどういうことだ?
混乱する俺をよそに、彼女はするりと俺の腕に自身の腕を絡ませた。
「……早速、婚姻届けを出しに行きましょう……」
「えっちょっ、はぁぁぁぁあ!? 待って待って婚姻届けって!?」
「……男女が籍を入れる際に役所に届けるものだけど」
「それは知ってるよ!? 知ってるけど! 何で初対面の俺と! 君が! 急に結婚なの!?」
混乱のあまり声を荒げる俺に、彼女はさらに混乱するようなことを言った。
「初対面じゃ、ないわ……」
「え?」
「私は、あなたを知ってるわ。何度も何度も、夢に見たもの……」
夢に、俺が!? 俺は訳が分からなくて、彼女を見つめた。彼女は妖しくも美しい笑みを浮かべて、言葉を続ける。
「私には、見えるの……未来が」
「未来が見える? え?」
「私は神に愛された子……神から特別な力を授けられて」
「……はぁ」
「あなたを、見たわ。夢で、私と幸せな家庭を築いてた」
駄目だ、この子危ない子だ! 何だっけこういう子……“電波系”!?
関わらないほうがいいと直感した俺は、彼女の腕を振り払って走りだした。
「多分、人違いです!」
「……間違いないわ。朝霧晃太」
「!?」
思わず、足を止めた。名乗っていない。分かるはずがないんだ。
俺は恐る恐る振り向いた。
「朝霧晃太。19歳。1月13日生まれの山羊座のO型。身長176センチ、体重68キロ」
「……なん、で」
全部、合ってた。だからこそ怖くなって、俺は顔を青くする。彼女は両手を顔の横に持っていき、また妖しく笑った。
「言ったでしょ……見えるって」
手……? ハッとして彼女を見た。さっき、目を閉じてた時か!
「あなたの未来も、私と同じだったわ……だから、間違いない」
「あ……あり得ないあり得ない! 俺は信じないから! 俺、急ぐから!」
彼女が怖くて、逃げ出したかった。“見える”ことが本当だとして──どこまで見られたんだ、さっきの一瞬で、俺は。
「……今日、いいことが起きるわ」
「え?」
「信じるかどうかは……あなたに任せるけど」
そう言って笑う彼女は、やっぱりどこか神秘的で──ゾクリとした。見とれてしまったことに少し後悔しながら、俺は逃げるようにその場から離れた。
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