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Let the double date!
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「ダブルデートがしたい」
それは、俺と未来とが仲直り(?)してしばらく──ようやく未来のぎこちなさがなくなってきた頃に友里ちゃんから発された一言だった。
「そりゃまた急だな」
ペットボトルのスポーツドリンクを飲みながら、吉田は言った。全くの同感だ。
放課後、特にすることもなく俺と吉田と友里ちゃんは大学にあるカフェで会話を楽しんでいた。それまでは「うちの学科の先生が厳しい」だとか「そういや俺の友達が……」なんてとりとめのない話をしていた。“ダブルデート”なんて単語が出てくる要素なんて一つもなかったはずだ。
「急にじゃないよ! ずっと考えてたんだよね」
すると友里ちゃんは、くりくりとした目をキラキラとさせて俺を見た。
「一回ダブルデートってしてみたかったの! 晃太くんに彼女ができたらいいのにってずっと思ってたんだ」
「ごめんね。ずっと彼女いなくて」
俺は苦笑しながら頬を掻いた。あえて少し棘のある言い方をする。お人好しのせめてもの抵抗だ。
「ああっ、違う! 嫌味で言ったわけじゃなくて」
「分かってるよ。わざと」
そう言うと友里ちゃんはホッとしたように顔の筋肉を緩ませると、話の続きを始める。
「そして今! 晃太くんには未来ちゃんという可愛い可愛い彼女がいるわけで!」
「友里のが可愛いけどな」
「マサは黙ってて。だからさ、どう? ダブルデート! 車はマサが出すし!」
「俺かよ!」
「未来ちゃんそういうの嫌かな?」
ずいっと迫られて、俺は何とも言えなくなってしまう。吉田たちと俺らがダブルデート──何とも想像し難い。というか、はしゃぐ未来が想像出来ない。
「デートって言ってもなぁ……。そもそも俺ら、付き合い始めてからデートらしいデートってしてないかも」
付き合う前に一度買い物はしたけど。もしかしたら、それ以来じゃないだろうか。毎日一緒にいるから、改まって出掛けようって流れにならないのかもしれない。未来も出不精っぽいし。
「そうなの!? なら尚更! 行こーよー!」
友里ちゃんは少し興奮気味に机を叩いた。ガタリ、と吉田のペットボトルが倒れる。それさえも友里ちゃんは御構い無しだ。俺は少し考えた後、「わかった」と言った。
「帰ったら未来に聞いてみる。何て言うか分からないけど」
未来の思考は未だに読めない。未来は俺の考えることはお見通しなのに、と少し恨めしくなった。そんなことを考える俺のことなど気にしていない様子で、友里ちゃんは「じゃあよろしくね!」と笑顔を浮かべたのだった。
* * *
帰ってからしばらく、言うタイミングを逃しに逃して、結局夕飯のあとに思い出した振りをして未来に言った。
「あー……そういえば、なんだけど。友里ちゃん、わかるよね?」
「……ハリネズミの、彼女」
未来はコクリと頷いた。吉田の印象は相変わらずらしい。そうか、吉田がいるなら尚更嫌だと言うかもしれない。
「そう、その友里ちゃんがね、ダブルデートしないかって言ってきたんだ」
「……ダブル、デート?」
解せない、と言った顔で首を傾げる。ダブルデートの意味が分からないわけではないだろう。未来は、何故そんなことを持ちかけられたのかが解せないのだ。
「たぶん行き先は遊園地とかになると思うんだけど。未来が嫌なら大丈夫とは言ってたし──」
俺は思わず言葉を止めた。未来は俺と反対側の空間──何もない空間をじぃっと見つめている。時折コクリ、コクリと頷きながら。デジャヴ? この光景、前にも見たぞ。いらっしゃるのか、今、そこに。
「……お行きなさいと。そう仰ったわ」
「……そう」
この間といい、アクティブな神様だなー、なんてバチが当たりそうなことを考える。未来の都合のいいようにお告げをするのかと思いきや、そうでもないらしい。未来は少し納得のいかないような顔で考え込んでいる。
しかし、神様がそう言っているなら好都合だ。ダブルなのはともかく、デートなんだ。俺だって、未来のいろんな顔が見たい。まだまだ知らない未来の顔がたくさんあるのだ。ていうか──遊園地に行ってはしゃぐ未来、見てみたいじゃんか!
「行けって言うなら、行くべきなんじゃない? ほら、俺らってデートらしいデートしてないし」
「……一度したじゃない、買い物」
「あれは付き合う前だったでしょ。だったら尚更行こうって、友里ちゃんも乗り気だったし」
うーん、と少し唸ったあと、未来は首を縦に振った。やった! 小さくガッツポーズ。楽しみだなぁ、楽しみだなぁ。そわそわして思わずニヤついてしまう。
「遊園地なんていつぶりだろう? 高校……いや、中学以来かな?」
確か、部活の友達と何人かで行ったんだっけな? ヤローだけで行って、カップルの多さに切なくなった気がする。それより前に、家族でも行ったかな? 懐かしい。でも、今回は“デート”という名目だ。あの時とは違う。
「未来は? いつぶりくらい?」
浮かれきってそう尋ねると、未来はキョトンとした顔をした。
「……行ったことない、遊園地」
「あ……」
そこで、自分の愚かさを恥じた。浮かれすぎだ。未来はお父さんと不仲だったのだ。行ったことがないというのも、無理はないのに……俺は何ていうことを。
「ごっ、ごめん、未来!」
「どうして? 気にしてない」
慌てて謝ると、未来はまた不思議そうな顔を浮かべた。
「楽しいところなんでしょう? 晃太、今楽しそう。晃太が楽しいなら、きっと私も楽しい」
「……未来」
「違う?」
じぃっと俺を見据えながら、未来は首を傾げた。未来さん、その可愛さはいろいろと反則……っ!
俺が楽しいなら、未来も楽しい。そんなの、俺だって一緒だ。未来が楽しんでくれるなら、それだけでいい。
「違く、ない……」
俺は未来の頭にポン、と手のひらを置く。そのまま頭をさらりと撫でて頬に手を当てた。いまだに触るとドキドキする。
「楽しもうね、未来!」
「……ん」
少しだけ嬉しそうに返事をした未来があまりに可愛くて──たまらなくなって奪うようにキスをしたら、思い切り殴られた。
* * *
それは、俺と未来とが仲直り(?)してしばらく──ようやく未来のぎこちなさがなくなってきた頃に友里ちゃんから発された一言だった。
「そりゃまた急だな」
ペットボトルのスポーツドリンクを飲みながら、吉田は言った。全くの同感だ。
放課後、特にすることもなく俺と吉田と友里ちゃんは大学にあるカフェで会話を楽しんでいた。それまでは「うちの学科の先生が厳しい」だとか「そういや俺の友達が……」なんてとりとめのない話をしていた。“ダブルデート”なんて単語が出てくる要素なんて一つもなかったはずだ。
「急にじゃないよ! ずっと考えてたんだよね」
すると友里ちゃんは、くりくりとした目をキラキラとさせて俺を見た。
「一回ダブルデートってしてみたかったの! 晃太くんに彼女ができたらいいのにってずっと思ってたんだ」
「ごめんね。ずっと彼女いなくて」
俺は苦笑しながら頬を掻いた。あえて少し棘のある言い方をする。お人好しのせめてもの抵抗だ。
「ああっ、違う! 嫌味で言ったわけじゃなくて」
「分かってるよ。わざと」
そう言うと友里ちゃんはホッとしたように顔の筋肉を緩ませると、話の続きを始める。
「そして今! 晃太くんには未来ちゃんという可愛い可愛い彼女がいるわけで!」
「友里のが可愛いけどな」
「マサは黙ってて。だからさ、どう? ダブルデート! 車はマサが出すし!」
「俺かよ!」
「未来ちゃんそういうの嫌かな?」
ずいっと迫られて、俺は何とも言えなくなってしまう。吉田たちと俺らがダブルデート──何とも想像し難い。というか、はしゃぐ未来が想像出来ない。
「デートって言ってもなぁ……。そもそも俺ら、付き合い始めてからデートらしいデートってしてないかも」
付き合う前に一度買い物はしたけど。もしかしたら、それ以来じゃないだろうか。毎日一緒にいるから、改まって出掛けようって流れにならないのかもしれない。未来も出不精っぽいし。
「そうなの!? なら尚更! 行こーよー!」
友里ちゃんは少し興奮気味に机を叩いた。ガタリ、と吉田のペットボトルが倒れる。それさえも友里ちゃんは御構い無しだ。俺は少し考えた後、「わかった」と言った。
「帰ったら未来に聞いてみる。何て言うか分からないけど」
未来の思考は未だに読めない。未来は俺の考えることはお見通しなのに、と少し恨めしくなった。そんなことを考える俺のことなど気にしていない様子で、友里ちゃんは「じゃあよろしくね!」と笑顔を浮かべたのだった。
* * *
帰ってからしばらく、言うタイミングを逃しに逃して、結局夕飯のあとに思い出した振りをして未来に言った。
「あー……そういえば、なんだけど。友里ちゃん、わかるよね?」
「……ハリネズミの、彼女」
未来はコクリと頷いた。吉田の印象は相変わらずらしい。そうか、吉田がいるなら尚更嫌だと言うかもしれない。
「そう、その友里ちゃんがね、ダブルデートしないかって言ってきたんだ」
「……ダブル、デート?」
解せない、と言った顔で首を傾げる。ダブルデートの意味が分からないわけではないだろう。未来は、何故そんなことを持ちかけられたのかが解せないのだ。
「たぶん行き先は遊園地とかになると思うんだけど。未来が嫌なら大丈夫とは言ってたし──」
俺は思わず言葉を止めた。未来は俺と反対側の空間──何もない空間をじぃっと見つめている。時折コクリ、コクリと頷きながら。デジャヴ? この光景、前にも見たぞ。いらっしゃるのか、今、そこに。
「……お行きなさいと。そう仰ったわ」
「……そう」
この間といい、アクティブな神様だなー、なんてバチが当たりそうなことを考える。未来の都合のいいようにお告げをするのかと思いきや、そうでもないらしい。未来は少し納得のいかないような顔で考え込んでいる。
しかし、神様がそう言っているなら好都合だ。ダブルなのはともかく、デートなんだ。俺だって、未来のいろんな顔が見たい。まだまだ知らない未来の顔がたくさんあるのだ。ていうか──遊園地に行ってはしゃぐ未来、見てみたいじゃんか!
「行けって言うなら、行くべきなんじゃない? ほら、俺らってデートらしいデートしてないし」
「……一度したじゃない、買い物」
「あれは付き合う前だったでしょ。だったら尚更行こうって、友里ちゃんも乗り気だったし」
うーん、と少し唸ったあと、未来は首を縦に振った。やった! 小さくガッツポーズ。楽しみだなぁ、楽しみだなぁ。そわそわして思わずニヤついてしまう。
「遊園地なんていつぶりだろう? 高校……いや、中学以来かな?」
確か、部活の友達と何人かで行ったんだっけな? ヤローだけで行って、カップルの多さに切なくなった気がする。それより前に、家族でも行ったかな? 懐かしい。でも、今回は“デート”という名目だ。あの時とは違う。
「未来は? いつぶりくらい?」
浮かれきってそう尋ねると、未来はキョトンとした顔をした。
「……行ったことない、遊園地」
「あ……」
そこで、自分の愚かさを恥じた。浮かれすぎだ。未来はお父さんと不仲だったのだ。行ったことがないというのも、無理はないのに……俺は何ていうことを。
「ごっ、ごめん、未来!」
「どうして? 気にしてない」
慌てて謝ると、未来はまた不思議そうな顔を浮かべた。
「楽しいところなんでしょう? 晃太、今楽しそう。晃太が楽しいなら、きっと私も楽しい」
「……未来」
「違う?」
じぃっと俺を見据えながら、未来は首を傾げた。未来さん、その可愛さはいろいろと反則……っ!
俺が楽しいなら、未来も楽しい。そんなの、俺だって一緒だ。未来が楽しんでくれるなら、それだけでいい。
「違く、ない……」
俺は未来の頭にポン、と手のひらを置く。そのまま頭をさらりと撫でて頬に手を当てた。いまだに触るとドキドキする。
「楽しもうね、未来!」
「……ん」
少しだけ嬉しそうに返事をした未来があまりに可愛くて──たまらなくなって奪うようにキスをしたら、思い切り殴られた。
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