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番外編
Happy Halloween!
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それは十月某日、いきなりかかってきた友里ちゃんからの電話が事の発端だった。
「今日晃太くんち行ってもいい? あ、マサも一緒なんだけど」
「いいけど……なんで?」
「へっへへー。秘密。あ、ちなみに、今日未来ちゃんいるよね?」
「うん、いるけど」
「ならいいんだ! じゃね!」
そこで電話が切れた。相変わらず強引だな、と苦笑いをした後、テレビを見ていた未来に「今日友里ちゃん来るって」と告げた。
「……友里ちゃん」
未来の表情が少しだけ明るくなる。友里ちゃんは俺の友達である吉田の彼女だ。そして、未来の友達でもある。
「吉田も来るみたいだけど」
「……ふぅん」
未来は明るかった表情をすぐにいつもの無表情に戻した。吉田への評価は相変わらずである。
「未来がいること前提だったみたいだけど……なんだろうね? 約束してたわけじゃないでしょ?」
俺の問いに、未来はこくりと頷いた。その瞬間、玄関のチャイムが高らかに鳴り響いた。
──早っ!
もしかしたら、俺が了承すること前提で、近場で待機してたのかもしれない。なんて二人だ……と思いながら俺は二人を出迎えた。
「やー! いきなりごめんね!」
「まぁいいんだけど……どうしたの?」
友里ちゃんはいつにも増して上機嫌だった。手には、何やら大きくて黄色いビニール袋をぶら下げている。その袋には見覚えがあるぞ。安売りの殿堂、ドン○ホーテの袋だ。
「みっくちゃーん!」
友里ちゃんは靴を脱ぐと真っ先に未来に抱きつきに行った。まぁそれはいつものことなので気にしない。問題は吉田たちが何しにきたのかである。
「で? 何しに来たの君ら」
「いやさ、もともと二人で買い物してたんだけど。俺は来る予定なかったんだけど友里が聞かなくて」
「だって絶対似合うもん!」
「あの……何の話?」
俺が疑問符を浮かべると、友里ちゃんは手元の袋をガサガサと探った。そして、「じゃーん!」と行って両手で掲げてきたのは──。
「……コスプレ?」
「魔女っ子なんだよぉ」
「……ごめん、全く話が読めない」
「もう! 晃太くん、今日は何月何日!?」
「えぇと……10月31日?」
「10月31日は?」
「……ハロウィン?」
「正解!」
ビシ! と人差し指をさされる。ハロウィン……コスプレ……。ここでなんとなくの話が読めてきて、俺は深々とため息をついた。
「……友里ちゃん、吉田の性癖になんで俺を巻き込むのさ……」
「!? 待て、何か誤解してるぞ! いや、してないかもしれないけど!」
「どうせコスプレで朝まで楽しむつもりだったんでしょ? だったら二人で勝手に楽しめばいいじゃんか……」
俺は頭を抱えてため息をついた。吉田は特に恥ずかしがる様子もなく、拳を握る。
「俺はそのつもりだったさ! でも、友里がだな!」
「うん、そだよ晃太くん。この魔女っ子コスは──」
そう言いながら、袋を開けて中の服を広げる友里ちゃん。ワンピースになってるそれを広げて、楽しげに未来の体に合わせた。
「未来ちゃんが着るんだよ?」
「「………………え?」」
当たり前のように言う友里ちゃんに、俺と未来の声が重なった。血の気が引いたような青い顔で首を振る未来。しかし友里ちゃんは「大丈夫大丈夫! 未来ちゃん可愛いし!」とまるで話を聞かない。
「ちょ、ちょちょちょ、待って!! 未来が着るの!? それを!?」
「うん、そうだよ? ほら、晃太くんだって似合うと思うよね?」
未来は体にワンピースを当てられたまま、付属のとんがった帽子を頭に載せられた。何をされたのか分かってない未来が、被されたものを確認しようとして自然と上目遣いになる。
──っ! かわ!
じゃなくて!
「ほら、やっぱりー!」
「ちが、その、今のはっ……」
「にやけてんぞ、ムッツリ」
「いやいやいや! 今のはずるい! ずるいから!」
不意をつかれてどんどん顔が赤くなる。これじゃ着てほしいみたいじゃないか。いや、着てほしいけど! いやでもこれは吉田みたいな変態的思考じゃなくてああもう!
「ね、未来ちゃん。晃太くんあんな調子だしきっと喜ぶよ。それにほら、私も着るし。一緒に彼氏喜ばそう!」
「……喜ぶ……」
未来はコスプレ衣装をじぃっと眺めた後、しばらく考えていた。そして、チラリと俺を見た。ばっちり目が合って、慌てて目を逸らす。
「……着る」
「本当? やったぁ!」
え!? 未来さん、今なんて!?
「というわけで! 今からお着替えタイムだから男子は外で待機! 急いで急いでっ」
「そこで着替えてもいいぞ」
「出てけ変態!」
吉田の顔面目掛けて、ティッシュの箱が飛んできた。友里ちゃんコントロール抜群。これはおとなしく出てった方がよさそうだ。
「吉田、行くぞ」
「えー、生着替え……」
「俺も殴っていい?」
そうして、渋る吉田を引きずって、友里ちゃんたちが着替え終わるのを待つことになったのだった。
* * *
三十分後──いよいよお披露目するらしい。俺は期待と緊張で変な汗が止まらない。
未来の魔女っ子……っていやいやいや! 煩悩どっかいけ! これは違うからな!
「はーい、開けていいよ!」
その声を聞くとほぼ同時に、吉田が乱暴に扉を開けた。
「──……」
まず目に入ったのは、友里ちゃんだった。友里ちゃんは魔女っ子じゃなく、化け猫らしい。吉田の趣味なのか、肌の露出が多い。水着みたいなヘソだしだ。上下セパレートになってる毛皮素材の服(露出が多くてもはや服と呼んでいいのかわからないけど)に、黒い猫耳のカチューシャ。両手両足には猫の肉球のカバーをつけている。長い尻尾は針金が入っているらしく、ハート型に形作られていた。
そして。その後ろでもじもじしている、俺の彼女。シンプルでツヤ感のある黒いワンピースの丈は短い。スラリと伸びる脚にオーバーニーソックスが履かれていて、なんというかずるすぎる組み合わせだった。大きめなとんがり帽子を被って、魔法のステッキを手に持っている。
似合うなんてもんじゃない。普段不思議な雰囲気の彼女にその衣装は、あまりにハマりすぎた。
慣れてる(?)感じの友里ちゃんとは対照的に、恥ずかしげに俯く未来。それがまた、男心をくすぐってくる。……これは、ずるい。
「どう? どう? 似合う? なんか言ってよー」
何も言わずに眺めているだけだった俺らに、しびれを切らした友里ちゃんが声をかける。その声にハッと我に返った。完全に見惚れていた。
すると、俺の隣で同じく見惚れているようだった吉田が、急に動き出す。着ていたジャケットを乱雑に脱ぎ、これまた乱雑に友里ちゃんに着せた。確かに寒そうだったけど……と思ったけど、吉田はそのまま友里ちゃんをお姫様だっこした。
「ひゃ! ちょ、何っ……」
「うっせ! こんなもん脱がすに決まってんだろ! 今すぐ俺んち行くぞ!」
「マサ、そんなこと晃太くんたちの前で言わないでよ!」
「晃太! 電波! 邪魔したな! これから俺らはお楽しみだ! お前らも勝手に楽しめ!」
そう言い捨てながら、吉田は友里ちゃんを抱えて部屋から出て行ってしまった。バタン! と扉が閉まる音。静寂。……あの、そんな下ネタ爆弾投下されたまま行かれると困るんだけど!
「……えと、吉田、元気だね?」
って、何言ってんだ俺は! 違うだろ、そうじゃないだろ! 完全に吉田に釣られた。チラリと横目で未来を見る。可愛すぎて直視は無理。未来は魔法のステッキを両手で握りしめ、俺を見上げていた。……だから可愛すぎるってば!
「……っ!」
「……何?」
「……あの、スゴイ、カワイイデス……」
動揺のあまり片言になってしまう。なんか今の俺、アホすぎる。
「……晃太」
「ハイ!?」
「ええと……“トリックオアトリート”?」
「え? あ、そうか」
「“お菓子くれなきゃいたずらするぞ”って……そう言うんでしょう、ハロウィンって」
ハロウィンの趣旨はもともとそうだった。そのことをやっと思い出して、俺は慌てて台所に向かう。確か、飴かなんか買ってあった気がする。あ、あった。あっさり飴を見つけて、未来のもとに戻る。
「あったあった。はい、飴」
俺は袋を開けて、飴玉を未来の口の中に入れ込んだ。未来は目をパチクリさせて俺を見た。でも、いきなり飴を入れられたからか、何故か未来は不機嫌そうだ。
「……? どうしたの、未来」
「……なんでお菓子あるの……」
「へ?」
言葉の真意が分からず、間の抜けた返事をする。どういうことだろう。嫌いな味だったかな。確認せず口に入れたりしてまずかったかな……。
「あ、ごめん、他の味がよかった?」
「……そうじゃ、なくて──」
何かを言いたげに、そしてもどかしげに、未来はステッキを握りしめた。すると、意を決したようにキッと俺を見上げる。
「あ、それとも何かいたずらする予定だったの? なんて。はは。ちょっと見てみたかったかな、未来のいたず──」
俺の言葉は、最後まで発されることはなかった。ぐいっと胸ぐらを掴まれて、バランスを崩される。
あれ、甘い。……甘い?
言葉が遮られたのは、俺の唇に柔らかいものが触れたから。柔らかくて、甘い。その甘さが、未来が舐めてる飴の味であることを理解するまでに時間がかかった。
って、あれ? ということは。俺、未来とキスし──?
ふわ、といい匂いがした。と同時に、未来の唇が離れる。
頭がついていかない。だって未来は初対面で結婚を迫ってきたくせに実は恥ずかしがり屋で、いつもは俺がキスすると怒るくらいで……? え?
そんな俺の表情を受け取ったのか、未来は俺の目を見ることなく顔を背けた。そして大きな帽子を深々と被り直す。
「……み、」
「いたずら!!」
照れてるのだろう。未来は帽子から手を離そうとしない。それどころか尚更深く被ってしまう。……あぁもう、可愛すぎるんだって。そうやって照れ隠ししても。
「……俺、お菓子あげたじゃんか」
「……いいの!」
だから……わざとやってるのかって思うよ。滅茶苦茶だ。それじゃハロウィン意味ないし。やられっぱなしも悔しいし、可愛すぎる魔女に、ちょっとした反撃。
「……未来。トリックオアトリート」
「え? え? お菓子、持ってな──」
未来が困惑して顔を上げた瞬間を狙って、キスをした。さっきと同じ、甘い味のキス。
だけどさっきのキスは奪うみたいにされたから、俺からはゆっくり優しくする。少し離して、またする。それを幾度か繰り返して、ようやく解放してあげた。
「……仕返し」
「ずる、い」
「未来もでしょ」
そう言って、いたずらっぽく笑って見せた。未来は少し不貞腐れたような顔で俺を睨んだ後、「……着替える!」と違う部屋に行ってしまったのだった。
あれ? これって、お菓子といたずらどっちだろう。そんなことを思ったけれど、どっちでもいいか、と考えるのをやめた。一人部屋に取り残された俺の唇に、甘い感触だけが残っていた。
「今日晃太くんち行ってもいい? あ、マサも一緒なんだけど」
「いいけど……なんで?」
「へっへへー。秘密。あ、ちなみに、今日未来ちゃんいるよね?」
「うん、いるけど」
「ならいいんだ! じゃね!」
そこで電話が切れた。相変わらず強引だな、と苦笑いをした後、テレビを見ていた未来に「今日友里ちゃん来るって」と告げた。
「……友里ちゃん」
未来の表情が少しだけ明るくなる。友里ちゃんは俺の友達である吉田の彼女だ。そして、未来の友達でもある。
「吉田も来るみたいだけど」
「……ふぅん」
未来は明るかった表情をすぐにいつもの無表情に戻した。吉田への評価は相変わらずである。
「未来がいること前提だったみたいだけど……なんだろうね? 約束してたわけじゃないでしょ?」
俺の問いに、未来はこくりと頷いた。その瞬間、玄関のチャイムが高らかに鳴り響いた。
──早っ!
もしかしたら、俺が了承すること前提で、近場で待機してたのかもしれない。なんて二人だ……と思いながら俺は二人を出迎えた。
「やー! いきなりごめんね!」
「まぁいいんだけど……どうしたの?」
友里ちゃんはいつにも増して上機嫌だった。手には、何やら大きくて黄色いビニール袋をぶら下げている。その袋には見覚えがあるぞ。安売りの殿堂、ドン○ホーテの袋だ。
「みっくちゃーん!」
友里ちゃんは靴を脱ぐと真っ先に未来に抱きつきに行った。まぁそれはいつものことなので気にしない。問題は吉田たちが何しにきたのかである。
「で? 何しに来たの君ら」
「いやさ、もともと二人で買い物してたんだけど。俺は来る予定なかったんだけど友里が聞かなくて」
「だって絶対似合うもん!」
「あの……何の話?」
俺が疑問符を浮かべると、友里ちゃんは手元の袋をガサガサと探った。そして、「じゃーん!」と行って両手で掲げてきたのは──。
「……コスプレ?」
「魔女っ子なんだよぉ」
「……ごめん、全く話が読めない」
「もう! 晃太くん、今日は何月何日!?」
「えぇと……10月31日?」
「10月31日は?」
「……ハロウィン?」
「正解!」
ビシ! と人差し指をさされる。ハロウィン……コスプレ……。ここでなんとなくの話が読めてきて、俺は深々とため息をついた。
「……友里ちゃん、吉田の性癖になんで俺を巻き込むのさ……」
「!? 待て、何か誤解してるぞ! いや、してないかもしれないけど!」
「どうせコスプレで朝まで楽しむつもりだったんでしょ? だったら二人で勝手に楽しめばいいじゃんか……」
俺は頭を抱えてため息をついた。吉田は特に恥ずかしがる様子もなく、拳を握る。
「俺はそのつもりだったさ! でも、友里がだな!」
「うん、そだよ晃太くん。この魔女っ子コスは──」
そう言いながら、袋を開けて中の服を広げる友里ちゃん。ワンピースになってるそれを広げて、楽しげに未来の体に合わせた。
「未来ちゃんが着るんだよ?」
「「………………え?」」
当たり前のように言う友里ちゃんに、俺と未来の声が重なった。血の気が引いたような青い顔で首を振る未来。しかし友里ちゃんは「大丈夫大丈夫! 未来ちゃん可愛いし!」とまるで話を聞かない。
「ちょ、ちょちょちょ、待って!! 未来が着るの!? それを!?」
「うん、そうだよ? ほら、晃太くんだって似合うと思うよね?」
未来は体にワンピースを当てられたまま、付属のとんがった帽子を頭に載せられた。何をされたのか分かってない未来が、被されたものを確認しようとして自然と上目遣いになる。
──っ! かわ!
じゃなくて!
「ほら、やっぱりー!」
「ちが、その、今のはっ……」
「にやけてんぞ、ムッツリ」
「いやいやいや! 今のはずるい! ずるいから!」
不意をつかれてどんどん顔が赤くなる。これじゃ着てほしいみたいじゃないか。いや、着てほしいけど! いやでもこれは吉田みたいな変態的思考じゃなくてああもう!
「ね、未来ちゃん。晃太くんあんな調子だしきっと喜ぶよ。それにほら、私も着るし。一緒に彼氏喜ばそう!」
「……喜ぶ……」
未来はコスプレ衣装をじぃっと眺めた後、しばらく考えていた。そして、チラリと俺を見た。ばっちり目が合って、慌てて目を逸らす。
「……着る」
「本当? やったぁ!」
え!? 未来さん、今なんて!?
「というわけで! 今からお着替えタイムだから男子は外で待機! 急いで急いでっ」
「そこで着替えてもいいぞ」
「出てけ変態!」
吉田の顔面目掛けて、ティッシュの箱が飛んできた。友里ちゃんコントロール抜群。これはおとなしく出てった方がよさそうだ。
「吉田、行くぞ」
「えー、生着替え……」
「俺も殴っていい?」
そうして、渋る吉田を引きずって、友里ちゃんたちが着替え終わるのを待つことになったのだった。
* * *
三十分後──いよいよお披露目するらしい。俺は期待と緊張で変な汗が止まらない。
未来の魔女っ子……っていやいやいや! 煩悩どっかいけ! これは違うからな!
「はーい、開けていいよ!」
その声を聞くとほぼ同時に、吉田が乱暴に扉を開けた。
「──……」
まず目に入ったのは、友里ちゃんだった。友里ちゃんは魔女っ子じゃなく、化け猫らしい。吉田の趣味なのか、肌の露出が多い。水着みたいなヘソだしだ。上下セパレートになってる毛皮素材の服(露出が多くてもはや服と呼んでいいのかわからないけど)に、黒い猫耳のカチューシャ。両手両足には猫の肉球のカバーをつけている。長い尻尾は針金が入っているらしく、ハート型に形作られていた。
そして。その後ろでもじもじしている、俺の彼女。シンプルでツヤ感のある黒いワンピースの丈は短い。スラリと伸びる脚にオーバーニーソックスが履かれていて、なんというかずるすぎる組み合わせだった。大きめなとんがり帽子を被って、魔法のステッキを手に持っている。
似合うなんてもんじゃない。普段不思議な雰囲気の彼女にその衣装は、あまりにハマりすぎた。
慣れてる(?)感じの友里ちゃんとは対照的に、恥ずかしげに俯く未来。それがまた、男心をくすぐってくる。……これは、ずるい。
「どう? どう? 似合う? なんか言ってよー」
何も言わずに眺めているだけだった俺らに、しびれを切らした友里ちゃんが声をかける。その声にハッと我に返った。完全に見惚れていた。
すると、俺の隣で同じく見惚れているようだった吉田が、急に動き出す。着ていたジャケットを乱雑に脱ぎ、これまた乱雑に友里ちゃんに着せた。確かに寒そうだったけど……と思ったけど、吉田はそのまま友里ちゃんをお姫様だっこした。
「ひゃ! ちょ、何っ……」
「うっせ! こんなもん脱がすに決まってんだろ! 今すぐ俺んち行くぞ!」
「マサ、そんなこと晃太くんたちの前で言わないでよ!」
「晃太! 電波! 邪魔したな! これから俺らはお楽しみだ! お前らも勝手に楽しめ!」
そう言い捨てながら、吉田は友里ちゃんを抱えて部屋から出て行ってしまった。バタン! と扉が閉まる音。静寂。……あの、そんな下ネタ爆弾投下されたまま行かれると困るんだけど!
「……えと、吉田、元気だね?」
って、何言ってんだ俺は! 違うだろ、そうじゃないだろ! 完全に吉田に釣られた。チラリと横目で未来を見る。可愛すぎて直視は無理。未来は魔法のステッキを両手で握りしめ、俺を見上げていた。……だから可愛すぎるってば!
「……っ!」
「……何?」
「……あの、スゴイ、カワイイデス……」
動揺のあまり片言になってしまう。なんか今の俺、アホすぎる。
「……晃太」
「ハイ!?」
「ええと……“トリックオアトリート”?」
「え? あ、そうか」
「“お菓子くれなきゃいたずらするぞ”って……そう言うんでしょう、ハロウィンって」
ハロウィンの趣旨はもともとそうだった。そのことをやっと思い出して、俺は慌てて台所に向かう。確か、飴かなんか買ってあった気がする。あ、あった。あっさり飴を見つけて、未来のもとに戻る。
「あったあった。はい、飴」
俺は袋を開けて、飴玉を未来の口の中に入れ込んだ。未来は目をパチクリさせて俺を見た。でも、いきなり飴を入れられたからか、何故か未来は不機嫌そうだ。
「……? どうしたの、未来」
「……なんでお菓子あるの……」
「へ?」
言葉の真意が分からず、間の抜けた返事をする。どういうことだろう。嫌いな味だったかな。確認せず口に入れたりしてまずかったかな……。
「あ、ごめん、他の味がよかった?」
「……そうじゃ、なくて──」
何かを言いたげに、そしてもどかしげに、未来はステッキを握りしめた。すると、意を決したようにキッと俺を見上げる。
「あ、それとも何かいたずらする予定だったの? なんて。はは。ちょっと見てみたかったかな、未来のいたず──」
俺の言葉は、最後まで発されることはなかった。ぐいっと胸ぐらを掴まれて、バランスを崩される。
あれ、甘い。……甘い?
言葉が遮られたのは、俺の唇に柔らかいものが触れたから。柔らかくて、甘い。その甘さが、未来が舐めてる飴の味であることを理解するまでに時間がかかった。
って、あれ? ということは。俺、未来とキスし──?
ふわ、といい匂いがした。と同時に、未来の唇が離れる。
頭がついていかない。だって未来は初対面で結婚を迫ってきたくせに実は恥ずかしがり屋で、いつもは俺がキスすると怒るくらいで……? え?
そんな俺の表情を受け取ったのか、未来は俺の目を見ることなく顔を背けた。そして大きな帽子を深々と被り直す。
「……み、」
「いたずら!!」
照れてるのだろう。未来は帽子から手を離そうとしない。それどころか尚更深く被ってしまう。……あぁもう、可愛すぎるんだって。そうやって照れ隠ししても。
「……俺、お菓子あげたじゃんか」
「……いいの!」
だから……わざとやってるのかって思うよ。滅茶苦茶だ。それじゃハロウィン意味ないし。やられっぱなしも悔しいし、可愛すぎる魔女に、ちょっとした反撃。
「……未来。トリックオアトリート」
「え? え? お菓子、持ってな──」
未来が困惑して顔を上げた瞬間を狙って、キスをした。さっきと同じ、甘い味のキス。
だけどさっきのキスは奪うみたいにされたから、俺からはゆっくり優しくする。少し離して、またする。それを幾度か繰り返して、ようやく解放してあげた。
「……仕返し」
「ずる、い」
「未来もでしょ」
そう言って、いたずらっぽく笑って見せた。未来は少し不貞腐れたような顔で俺を睨んだ後、「……着替える!」と違う部屋に行ってしまったのだった。
あれ? これって、お菓子といたずらどっちだろう。そんなことを思ったけれど、どっちでもいいか、と考えるのをやめた。一人部屋に取り残された俺の唇に、甘い感触だけが残っていた。
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