13 / 27
マリオネット
01
しおりを挟む
異臭が、した。微かにだが風にのって、サラの鼻まで届いた。生ゴミと、何か他の悪臭が混ざったような、そんな臭いだった。
ごみ捨て場に捨てられた生ゴミであるなら、ここまで臭っては来ないだろう。では、一体なんだというのか。
サラは気になって、とりあえず臭いを辿ってみることにした。住宅街ではあるが、家同士の間隔は広い。サラが記憶をなくした場所から、どれほど遠くに来たのだろう。
──臭いが強くなってきた。
サラは少しだけ眉を潜めたが、そのまま歩みを進める。そこで、ピタリと足を止めた。目の前に、信じられない光景が広がっていた。
「……家、なのかしら……」
サラは鼻をつまみながら独り言を漏らした。そこにあったのは、まさにゴミの山だった。黒いゴミ袋が見上げるほど積まれていた。時折、袋に入っていないゴミも剥き出しのままその山に積まれている。家かどうか分からないのは、ゴミの山で外壁が見えないからだ。しかし、左右は家だということからして、やはり間違いは無さそうだった。
袋が破れている箇所が多々ある。生ゴミの臭い──というか、この悪臭の原因はここだ。
「……人は、住んでいるのかしら。……そもそも、住めるのかしら」
そっと、そのゴミ屋敷へと向かってみる。すると、サラの目の前を二人組の少年が走り抜けていった。びくりと肩を震わせ、その二人組を眺める。
「ガラクタじじいはめいわくじじいっ!」
「ガラクタじじいはへんたいじじいっ!」
「「ゴミをあつめるへんしつしゃー!」」
けたけたと、二人組の少年はその家に向かって石を投げた。唯一ゴミが少なかった──おそらく玄関である場所に石は吸い込まれ、パリンと乾いた音を立てた。ガラスが割れたのだ。元々割れてヒビが入っていた扉のガラスは、粉々になって散らばった。
「こら! あんたたち!」
不意に、後ろから聞こえた女性の声に、少年たちは肩を震わせた。
「ここには近寄るなって言ったでしょうが! 変な病気でも移ったらどうすんの!」
「でも、母ちゃん!」
「母ちゃんだって、臭くて迷惑だって言ってたじゃんか!」
サラは気づかれないように物陰に隠れ、どうやら親子だったらしいその三人の会話に耳を傾けた。
「あぁ迷惑さ! だからご近所さんで集まって何度も役所に相談してんだから! あんたたちは何もすんじゃないよ! こっちが不利になったらどうすんだい!」
「「いってぇ!」」
鈍い音が二回響く。母親のげんこつの音だ。そして母親は、二人の少年を引きずるようにして歩きだした。
「ねー母ちゃん、ガラクタじじいの家の裏手にね、気味悪い人形があるんだよ!」
「のっぺらぼうなんだよ!」
「人形ぅ? 何だい、それ」
「なんかね、木でできててね、紐がついてて、変な人形!」
「あんなの拾ってくるなんて、やっぱりガラクタじじいはおかしいよね!」
「そうさねぇ」
聞いて聞いて、と言わんばかりの子供たちの声に、母親は面倒そうに返事をした。その声がだんだん遠くなるのを確認した後、そっと動き出した。
──家の裏手に人形……!
思わぬ収穫だった。人形に関する情報が、途絶えていたところだったのだ。そうと分かれば、早速人形と話をしてみなければ。サラは早歩きで家の裏手に回ってみる。予想はしていたが、裏もすごいゴミの量である。
埃の被ったラジカセ。皮の剥げた鞄。タンスの引き出し。割れた鏡。どれもこれも使えないものばかりだ。山のように積まれたゴミは、今にも崩れそうだ。どこかに、少年たちが言っていた人形があるはずだ。
サラより小さな少年たちだった。見つけるのはそう難しくはないだろう。そう考えていたら案の定、人形はすぐに見つかった。少年たちに散々いたぶられた後なのだろうか。それは乱暴に仰向けの状態で、ゴミの山に積まれていた。ゴミの山にあるからなのか、その人形は汚れきっていた。
ふと、前に会った人形を思い出す。サラが救えなかった、人形の少女。
──もしかして、この人形も……?
人形へと歩き出そうとする足が、一瞬止まる。
すると。
「生きてるよ」
「っ!?」
息が止まるかと思った。確かに、その人形から声がした。
「いや……人形に生きてるっていう表現は可笑しいかもしれないけど」
「あ……なたは」
「僕は、トウワタ。もっとも、これは二つ目の名前なんだけどね」
「二つ目?」
「ええと、その前に、僕の身体を起こしてもらってもいいかな? このままじゃなんだし」
「あっ……ごめんなさい」
サラは慌てて人形──トウワタに駆け寄った。サラより少し小さいくらいのその身体を、ゴミの山の上に座らせた。その時、トウワタの身体に繋がった糸と、その先についた二本の棒が、カラカラと音をたてる。
「あなた……マリオネット?」
「あぁ、うん、元はね。でも、ほら、僕今こんなだし」
「こんな?」
「君は矢継ぎ早に質問をするね。僕は君の名前も知らないのに」
「ご、ごめんなさい。私はサラ。あなたのお話を聞かせてほしいの」
ペコリと頭を下げると、トウワタは「構わないよー」と笑った。掴めない性格だ。
サラは、トウワタの目の前に座り込んだ。なるほど、さっきの少年たちが言った通りの外見である。人型に作られ、ただニスを塗られただけの木製の身体。そのニスさえも剥げてしまっている。
表情のない顔。マリオネットだ。顔よりも動きで芸を楽しませるためであろう。
間接が自由に動くようになっている。その間接ひとつひとつに糸が繋がっているが、唯一──。
「左手首、糸が切れてるでしょ。それが原因で捨てられちゃったんだよね。だから今はただの人形」
「捨てられた? でも、あなた、名前……」
「うん、だから、『二つ目』。トウワタって名前は、ヘリじいさんがくれた。一つ目は、忘れちゃった」
「ヘリじいさんって、この家の人?」
「そうだよ。ヘリコニア・カリバエア。僕は彼をヘリじいさんと呼ぶけど、みんなは彼を『ガラクタじいさん』と呼ぶね」
サラは、けたけたと笑う少年たちの声を思い出した。彼らもここの家主を『ガラクタじじい』と呼んでいた。どうして彼はゴミを集めるのだろう。異臭も酷いし、使えそうもないものばかりなのに。
「……あの、カリバエアさんは、どんな人なの?」
「見た通り、こんな家に住むカワリモノさ」
「何で、ゴミを集めるの?」
「さぁ? 寂しいんじゃないかな? 知らないけど」
「寂しい?」
「家族もいないみたいだし。老人が一人で住むには広い家だしねぇ」
「だから寂しさをゴミで埋めてるの?」
「さぁ、どうだろ? 彼の本意は僕には分からないね」
ふぅ、とトウワタはため息をついた。確かに、拾われてここにつまれたままの彼には、持ち主のことなど分かりようがないかもしれない。悪いことを聞いたかもしれない、と思ったが、彼はさほど気にしていないようだった。
「あなた、拾われたって言ったけど」
「うん、そうそう。まぁ、良かったかな。消えずにすんだし。マリオネットとして働かずにすむし」
「働くのが嫌だったの?」
「そりゃそうさ。ショーに出て芸をさせられるのも嫌だったし。だってねぇ、サラ。僕らマリオネットは、誰かの指示でしか動けない。抵抗することも出来ない。でもね、それが……、いつの間にか、それが普通になっていたんだよ。そんなの、おかしいじゃないか」
ドキリとした。いつかの会話を思い出す。
あれは、そうだ。着せ替え人形のイオナとの会話だ。
『でも──あたしには選ぶ権利も、決める権利もないの。あの子が着せたい服を着せられるだけ。あたしは、いつもいつも我慢しなきゃいけないの』
そして思い出したのは、女性に服を指定されていた自分の記憶。否、服ですら自分で決めることができずに、指示をされていた自分の記憶──。
それと同じだ。それが当たり前になっていて、抵抗することも叶わずに。
ズキンズキンと、頭が痛み出す。
「あーあ、自由になりたいよ」
ポツリ、とトウワタが漏らした。独り言かもしれなかったが、サラは、痛みをこらえながらそれに応える。
「……? だって、あなたは、カリバエアさんに拾われて、マリオネットの役目は……」
「そりゃあ、ヘリじいさんには感謝しているよ。お陰で消えずにすんだしね。でもさ、これって結局、僕を縛る相手が変わっただけで、あとは何も変わってないんだよね」
あぁ──来る。痛みが、記憶が、襲ってくる。
「左手首の糸が切れて、僕は捨てられた。でも、一本の糸が切れたところで、僕を縛り付けて離さないこの糸は、決して切れてはくれないんだよ」
あまりの痛さに、頭を抱えてうずくまることしかできなかった。
* * *
ごみ捨て場に捨てられた生ゴミであるなら、ここまで臭っては来ないだろう。では、一体なんだというのか。
サラは気になって、とりあえず臭いを辿ってみることにした。住宅街ではあるが、家同士の間隔は広い。サラが記憶をなくした場所から、どれほど遠くに来たのだろう。
──臭いが強くなってきた。
サラは少しだけ眉を潜めたが、そのまま歩みを進める。そこで、ピタリと足を止めた。目の前に、信じられない光景が広がっていた。
「……家、なのかしら……」
サラは鼻をつまみながら独り言を漏らした。そこにあったのは、まさにゴミの山だった。黒いゴミ袋が見上げるほど積まれていた。時折、袋に入っていないゴミも剥き出しのままその山に積まれている。家かどうか分からないのは、ゴミの山で外壁が見えないからだ。しかし、左右は家だということからして、やはり間違いは無さそうだった。
袋が破れている箇所が多々ある。生ゴミの臭い──というか、この悪臭の原因はここだ。
「……人は、住んでいるのかしら。……そもそも、住めるのかしら」
そっと、そのゴミ屋敷へと向かってみる。すると、サラの目の前を二人組の少年が走り抜けていった。びくりと肩を震わせ、その二人組を眺める。
「ガラクタじじいはめいわくじじいっ!」
「ガラクタじじいはへんたいじじいっ!」
「「ゴミをあつめるへんしつしゃー!」」
けたけたと、二人組の少年はその家に向かって石を投げた。唯一ゴミが少なかった──おそらく玄関である場所に石は吸い込まれ、パリンと乾いた音を立てた。ガラスが割れたのだ。元々割れてヒビが入っていた扉のガラスは、粉々になって散らばった。
「こら! あんたたち!」
不意に、後ろから聞こえた女性の声に、少年たちは肩を震わせた。
「ここには近寄るなって言ったでしょうが! 変な病気でも移ったらどうすんの!」
「でも、母ちゃん!」
「母ちゃんだって、臭くて迷惑だって言ってたじゃんか!」
サラは気づかれないように物陰に隠れ、どうやら親子だったらしいその三人の会話に耳を傾けた。
「あぁ迷惑さ! だからご近所さんで集まって何度も役所に相談してんだから! あんたたちは何もすんじゃないよ! こっちが不利になったらどうすんだい!」
「「いってぇ!」」
鈍い音が二回響く。母親のげんこつの音だ。そして母親は、二人の少年を引きずるようにして歩きだした。
「ねー母ちゃん、ガラクタじじいの家の裏手にね、気味悪い人形があるんだよ!」
「のっぺらぼうなんだよ!」
「人形ぅ? 何だい、それ」
「なんかね、木でできててね、紐がついてて、変な人形!」
「あんなの拾ってくるなんて、やっぱりガラクタじじいはおかしいよね!」
「そうさねぇ」
聞いて聞いて、と言わんばかりの子供たちの声に、母親は面倒そうに返事をした。その声がだんだん遠くなるのを確認した後、そっと動き出した。
──家の裏手に人形……!
思わぬ収穫だった。人形に関する情報が、途絶えていたところだったのだ。そうと分かれば、早速人形と話をしてみなければ。サラは早歩きで家の裏手に回ってみる。予想はしていたが、裏もすごいゴミの量である。
埃の被ったラジカセ。皮の剥げた鞄。タンスの引き出し。割れた鏡。どれもこれも使えないものばかりだ。山のように積まれたゴミは、今にも崩れそうだ。どこかに、少年たちが言っていた人形があるはずだ。
サラより小さな少年たちだった。見つけるのはそう難しくはないだろう。そう考えていたら案の定、人形はすぐに見つかった。少年たちに散々いたぶられた後なのだろうか。それは乱暴に仰向けの状態で、ゴミの山に積まれていた。ゴミの山にあるからなのか、その人形は汚れきっていた。
ふと、前に会った人形を思い出す。サラが救えなかった、人形の少女。
──もしかして、この人形も……?
人形へと歩き出そうとする足が、一瞬止まる。
すると。
「生きてるよ」
「っ!?」
息が止まるかと思った。確かに、その人形から声がした。
「いや……人形に生きてるっていう表現は可笑しいかもしれないけど」
「あ……なたは」
「僕は、トウワタ。もっとも、これは二つ目の名前なんだけどね」
「二つ目?」
「ええと、その前に、僕の身体を起こしてもらってもいいかな? このままじゃなんだし」
「あっ……ごめんなさい」
サラは慌てて人形──トウワタに駆け寄った。サラより少し小さいくらいのその身体を、ゴミの山の上に座らせた。その時、トウワタの身体に繋がった糸と、その先についた二本の棒が、カラカラと音をたてる。
「あなた……マリオネット?」
「あぁ、うん、元はね。でも、ほら、僕今こんなだし」
「こんな?」
「君は矢継ぎ早に質問をするね。僕は君の名前も知らないのに」
「ご、ごめんなさい。私はサラ。あなたのお話を聞かせてほしいの」
ペコリと頭を下げると、トウワタは「構わないよー」と笑った。掴めない性格だ。
サラは、トウワタの目の前に座り込んだ。なるほど、さっきの少年たちが言った通りの外見である。人型に作られ、ただニスを塗られただけの木製の身体。そのニスさえも剥げてしまっている。
表情のない顔。マリオネットだ。顔よりも動きで芸を楽しませるためであろう。
間接が自由に動くようになっている。その間接ひとつひとつに糸が繋がっているが、唯一──。
「左手首、糸が切れてるでしょ。それが原因で捨てられちゃったんだよね。だから今はただの人形」
「捨てられた? でも、あなた、名前……」
「うん、だから、『二つ目』。トウワタって名前は、ヘリじいさんがくれた。一つ目は、忘れちゃった」
「ヘリじいさんって、この家の人?」
「そうだよ。ヘリコニア・カリバエア。僕は彼をヘリじいさんと呼ぶけど、みんなは彼を『ガラクタじいさん』と呼ぶね」
サラは、けたけたと笑う少年たちの声を思い出した。彼らもここの家主を『ガラクタじじい』と呼んでいた。どうして彼はゴミを集めるのだろう。異臭も酷いし、使えそうもないものばかりなのに。
「……あの、カリバエアさんは、どんな人なの?」
「見た通り、こんな家に住むカワリモノさ」
「何で、ゴミを集めるの?」
「さぁ? 寂しいんじゃないかな? 知らないけど」
「寂しい?」
「家族もいないみたいだし。老人が一人で住むには広い家だしねぇ」
「だから寂しさをゴミで埋めてるの?」
「さぁ、どうだろ? 彼の本意は僕には分からないね」
ふぅ、とトウワタはため息をついた。確かに、拾われてここにつまれたままの彼には、持ち主のことなど分かりようがないかもしれない。悪いことを聞いたかもしれない、と思ったが、彼はさほど気にしていないようだった。
「あなた、拾われたって言ったけど」
「うん、そうそう。まぁ、良かったかな。消えずにすんだし。マリオネットとして働かずにすむし」
「働くのが嫌だったの?」
「そりゃそうさ。ショーに出て芸をさせられるのも嫌だったし。だってねぇ、サラ。僕らマリオネットは、誰かの指示でしか動けない。抵抗することも出来ない。でもね、それが……、いつの間にか、それが普通になっていたんだよ。そんなの、おかしいじゃないか」
ドキリとした。いつかの会話を思い出す。
あれは、そうだ。着せ替え人形のイオナとの会話だ。
『でも──あたしには選ぶ権利も、決める権利もないの。あの子が着せたい服を着せられるだけ。あたしは、いつもいつも我慢しなきゃいけないの』
そして思い出したのは、女性に服を指定されていた自分の記憶。否、服ですら自分で決めることができずに、指示をされていた自分の記憶──。
それと同じだ。それが当たり前になっていて、抵抗することも叶わずに。
ズキンズキンと、頭が痛み出す。
「あーあ、自由になりたいよ」
ポツリ、とトウワタが漏らした。独り言かもしれなかったが、サラは、痛みをこらえながらそれに応える。
「……? だって、あなたは、カリバエアさんに拾われて、マリオネットの役目は……」
「そりゃあ、ヘリじいさんには感謝しているよ。お陰で消えずにすんだしね。でもさ、これって結局、僕を縛る相手が変わっただけで、あとは何も変わってないんだよね」
あぁ──来る。痛みが、記憶が、襲ってくる。
「左手首の糸が切れて、僕は捨てられた。でも、一本の糸が切れたところで、僕を縛り付けて離さないこの糸は、決して切れてはくれないんだよ」
あまりの痛さに、頭を抱えてうずくまることしかできなかった。
* * *
0
あなたにおすすめの小説
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
私たちの離婚幸福論
桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる