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人形屋
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メデュナの献身的な看病のおかげで、一週間が過ぎた頃には自由に動き回れるようになっていた。もう世話をしてもらう理由はなくて、サラはいつ、出て行くと言い出そうかを思案していた。
「メデュナさん、あの……」
「ん?」
しかし、メデュナと対面するとなかなか言い出せなかった。長くいすぎたのかもしれない。ここは、思っていた以上に、居心地が良すぎた。辛い現実を忘れさせるほどに。
「……私……」
出て行きます、と、その一言が言えない。自分は拾われただけで、今度こそ、行くあてなどないのだ。
「そうだわ、サラ。私のお願い聞いてくれる?」
「え?」
「私がお買い物に行っている間、店番を頼まれてくれないかしら? なぁに、お客様なんて滅多に来ないから大丈夫よ!」
サラは了承していないというのに、メデュナは出かける準備を始めている。こういう、言い出したら一直線なところは、彼女の短所でもあり長所でもある。
「本当に助かるわ。今までは、店番があるから、お休みにたぁくさん買い物をしなくちゃいけなかったから、大変だったの」
メデュナは右脚が悪い。普段はそれを感じさせないくらいテキパキと動いているが、やはり、一人で大量の買い物をするのは大変なのだろう。その言葉はきっと嘘じゃない。
「できたら、これからもお手伝いしてくれると嬉しいんだけどな」
「あ──」
「じゃあ、行ってくるわね!」
サラの言葉も聞かず、メデュナは身軽な格好で出かけてしまった。扉が閉まりきったところで、へなへなと座り込む。
お見通しだった。ここにいる理由がなくなって、出て行こうとしていること。出て行ったら、死んでしまうほかなかったこと。きっと、メデュナには全部お見通しだったのだ。だからこそ、彼女はサラに『理由』を与えた。その優しさが、傷だらけの心には少々堪えた。
──あのひとは、とてもやさしい。
きっと、誰にも分け隔てなく。だから、サラに優しくしてくれるのも、彼女にとっては当たり前なのかもしれない。
──私には、優しくされる資格なんかない、のに。
人形のように扱われて、心も、きっと人形のように空っぽになってしまった。いや、もしかしたら、今まで出会ってきた人形たちのほうがよほど人間らしいかもしれない。
「……サラ、どぉしたの? 泣いてるの?」
メデュナの作った人形たちが、心配そうに呟いた。
* * *
何日か後、メデュナはまたサラに店番を頼んだ。買い物に出かけようとしているようで、上にストールを羽織ろうとしているメデュナを、サラは慌てて呼び止める。
「メデュナさんっ」
「ん?」
サラは拳をぎゅっと握りしめて、言おうと決めていたことを口にした。
「……私が、買い物に行きます」
「え?」
メデュナが目を丸くしてサラを見た。確かに唐突であったし、サラが自分から何かを言い出したのはこれが初めてだったから、驚くのは無理もないかもしれない。あの日、店番をしながら考えた。メデュナの優しさは、今のサラには受け止められない。受け止める資格などない。しかし、すでに出会ってからたくさんのものをもらってしまっている。だから、その分を返さなければいけないと思った。優しくされた分を返せば、こんな風に罪悪感を抱かなくて済む。そう思った。
店番、なんて形ばかりで、本当にただ座っているだけだった。時折人形たちと話をしながら、時が過ぎるのを待つだけ。メデュナはそれでも助かると言ったが、それではサラの気が済まなかった。メデュナは脚が悪いし、買い物に行くよりも店番をしてたほうが楽なはずだ。だから、今度店番を任された時には、自分が買い物に行こうと決めていたのだ。
「でも、悪いわ」
「いいんです。メデュナさん、脚が悪いから。大変だと思って……。だから、私が行くから、メデュナさんはここにいてください」
メデュナはしばらく考えてから、カウンターに戻って、紙とペンを手にしてサラサラとメモを書いた。それをそのままサラに手渡す。
「今日買ってほしいもののメモと、お店までの地図よ。行けそう?」
「……はい!」
任せてもらえた安堵で、思わず顔がほころんだ。買い物に使うバスケットと財布も渡され、メデュナが持っていたストールも肩にかけられた。顔を上げると、メデュナは優しく微笑んでいる。
「ありがとうね、サラ」
「……行ってきます」
どういたしまして、とは言えなかった。優しくされた分を返そうとしてるだけなのに、自分の罪悪感を晴らすためなのに、そんなことを言ってもらって、受け止めることはできなかった。
地図を片手に店を出る。いつの間にかサラ専用にしてくれていたメデュナのお下がりのサンダルはやっぱり大きくて、歩くたびにパカパカと音を立てた。一緒に渡された買い物メモに目を通して、サラは思わず目を点にする。夕飯の材料が羅列された、一番下。
『お釣りで好きなものを買ってヨシ!』
メデュナの自画像付きのメモだった。にっこり笑ったメデュナがVサインをしてそう言っている。
「……ふふ。メデュナさんったら、子供扱いして」
家にいた頃も、放浪をしてからも、『子供扱い』をされてこなかったからだろうか。メデュナのその扱いが純粋に嬉しくて、なんだかくすぐったくなった。
* * *
「メデュナさん、あの……」
「ん?」
しかし、メデュナと対面するとなかなか言い出せなかった。長くいすぎたのかもしれない。ここは、思っていた以上に、居心地が良すぎた。辛い現実を忘れさせるほどに。
「……私……」
出て行きます、と、その一言が言えない。自分は拾われただけで、今度こそ、行くあてなどないのだ。
「そうだわ、サラ。私のお願い聞いてくれる?」
「え?」
「私がお買い物に行っている間、店番を頼まれてくれないかしら? なぁに、お客様なんて滅多に来ないから大丈夫よ!」
サラは了承していないというのに、メデュナは出かける準備を始めている。こういう、言い出したら一直線なところは、彼女の短所でもあり長所でもある。
「本当に助かるわ。今までは、店番があるから、お休みにたぁくさん買い物をしなくちゃいけなかったから、大変だったの」
メデュナは右脚が悪い。普段はそれを感じさせないくらいテキパキと動いているが、やはり、一人で大量の買い物をするのは大変なのだろう。その言葉はきっと嘘じゃない。
「できたら、これからもお手伝いしてくれると嬉しいんだけどな」
「あ──」
「じゃあ、行ってくるわね!」
サラの言葉も聞かず、メデュナは身軽な格好で出かけてしまった。扉が閉まりきったところで、へなへなと座り込む。
お見通しだった。ここにいる理由がなくなって、出て行こうとしていること。出て行ったら、死んでしまうほかなかったこと。きっと、メデュナには全部お見通しだったのだ。だからこそ、彼女はサラに『理由』を与えた。その優しさが、傷だらけの心には少々堪えた。
──あのひとは、とてもやさしい。
きっと、誰にも分け隔てなく。だから、サラに優しくしてくれるのも、彼女にとっては当たり前なのかもしれない。
──私には、優しくされる資格なんかない、のに。
人形のように扱われて、心も、きっと人形のように空っぽになってしまった。いや、もしかしたら、今まで出会ってきた人形たちのほうがよほど人間らしいかもしれない。
「……サラ、どぉしたの? 泣いてるの?」
メデュナの作った人形たちが、心配そうに呟いた。
* * *
何日か後、メデュナはまたサラに店番を頼んだ。買い物に出かけようとしているようで、上にストールを羽織ろうとしているメデュナを、サラは慌てて呼び止める。
「メデュナさんっ」
「ん?」
サラは拳をぎゅっと握りしめて、言おうと決めていたことを口にした。
「……私が、買い物に行きます」
「え?」
メデュナが目を丸くしてサラを見た。確かに唐突であったし、サラが自分から何かを言い出したのはこれが初めてだったから、驚くのは無理もないかもしれない。あの日、店番をしながら考えた。メデュナの優しさは、今のサラには受け止められない。受け止める資格などない。しかし、すでに出会ってからたくさんのものをもらってしまっている。だから、その分を返さなければいけないと思った。優しくされた分を返せば、こんな風に罪悪感を抱かなくて済む。そう思った。
店番、なんて形ばかりで、本当にただ座っているだけだった。時折人形たちと話をしながら、時が過ぎるのを待つだけ。メデュナはそれでも助かると言ったが、それではサラの気が済まなかった。メデュナは脚が悪いし、買い物に行くよりも店番をしてたほうが楽なはずだ。だから、今度店番を任された時には、自分が買い物に行こうと決めていたのだ。
「でも、悪いわ」
「いいんです。メデュナさん、脚が悪いから。大変だと思って……。だから、私が行くから、メデュナさんはここにいてください」
メデュナはしばらく考えてから、カウンターに戻って、紙とペンを手にしてサラサラとメモを書いた。それをそのままサラに手渡す。
「今日買ってほしいもののメモと、お店までの地図よ。行けそう?」
「……はい!」
任せてもらえた安堵で、思わず顔がほころんだ。買い物に使うバスケットと財布も渡され、メデュナが持っていたストールも肩にかけられた。顔を上げると、メデュナは優しく微笑んでいる。
「ありがとうね、サラ」
「……行ってきます」
どういたしまして、とは言えなかった。優しくされた分を返そうとしてるだけなのに、自分の罪悪感を晴らすためなのに、そんなことを言ってもらって、受け止めることはできなかった。
地図を片手に店を出る。いつの間にかサラ専用にしてくれていたメデュナのお下がりのサンダルはやっぱり大きくて、歩くたびにパカパカと音を立てた。一緒に渡された買い物メモに目を通して、サラは思わず目を点にする。夕飯の材料が羅列された、一番下。
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メデュナの自画像付きのメモだった。にっこり笑ったメデュナがVサインをしてそう言っている。
「……ふふ。メデュナさんったら、子供扱いして」
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