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5話
しおりを挟む朝から容赦なく照りつける夏の日差しの中、和香は海沿いの街にいた。
保を部屋に招き入れる前の一人暮らしの時は、週末といえば午後まで部屋でダラダラと過ごして、少し涼しくなった夕方に買い物に出かけるような生活だったが今は違う。
やたら元気な保に連れられて、朝から海にきているのだ。
それもなにをしてるかって、ただの釣り。都会の海沿いの公園で普通に釣りをしている。
「ここって桜木町だよね?」
和香は軽くあたりを見渡した。
あたりには保と和香と同じように釣りをしている人たちがポツポツといて、その背後にみえるのは少し離れた場所にあるランドマーク。
「そうですね」
「こんな場所で釣り?」
「それが、けっこう釣れるんだなぁ」
そういうと保は海に釣り糸を投げ込んだ。
「お父さん!早く!早くきて!」
近くでは釣りを楽しんでいた子供が大物を釣り上げたのか、大きな声で叫んでいる声が聞こえる。
和香は近くのベンチに座りながら空を見上げた。のどかだ……。
まさか桜木町にこんなのどかな時間が流れている場所があるなんて。
家で適当に握ったおにぎりと水筒に入れたお茶。おしゃれなカフェでも豪華なランチもない悲しくなるぐらい慎ましい週末なのに、なぜかホッとするのはどうしてだろう。
先ほどの大物を釣り上げた親子はニコニコとしながら魚から針を外している。
お父さんもお母さんも嬉しそうに笑っていて、少し誇らしげな顔になんだか胸の奥が暖かくなるのを感じた。
なんてこともない週末なのに。
子供を3人も育てている祥子もこうした休日を過ごしてるのだろうか。
和香がぼんやりとしていると、保が振り返って声を上げた。
「ばかさん!みてくださいよ!こっちにも大物来ましたよ!」
「誰がバカだ!大物って?」
和香は駆け寄って、保の釣竿の先に目をやった。
黒い魚の影がぐるぐると釣り糸を引っ張りながら旋回している。
「これ結構、大きいんじゃない?」
「シーバスかな…クロダイかなぁ……」
保は嬉しそうに顔をニヤつかせた。
リールに引っ張られ魚が海面から姿を見せる。
「アジ!」
「なんだ…アジか……」
「まぁこれが現実ってことで。たまにクロダイも釣れますけど」
そういうと保は手際良く魚から釣り針を外す。
「たくさん獲れたら今日はアジで南蛮漬けにでもしますかね」
「私、魚捌けないから自分で作ってよね」
「魚ぐらい余裕余裕」
保はニコニコとしながら再び釣り糸を海に放り込んだ。
日が落ち始めた頃、バケツいっぱいのアジを抱えて、遊び疲れた様子の観光客に混じって駅へと向かう。
「いやぁ…けっこう釣れましたね。小さいけどクロダイも釣れたし。クロダイは刺身かな」
保が嬉しそうに話しながら歩いていると、その横を小さな丸い物体がスッと現れて通り過ぎていく。
「なに?いまの」
和香は保の話なんかよりもそちらの物体が気になって目で追った。
丸い物体は、前を歩く外国人観光客の頭の上に止まると、後をついていくように宙に浮いている。
「あれってドローン?」
「あー…。あれ。たぶんそうですね。あぁやってついて歩くやついいなぁ俺もほしい」
保がドローンを見つめながらつぶやいた。
「あれって普通に買えるの?ていうか、飛ばせるの?」
「あれぐらいなら普通に買えるし飛ばせると思いますよ。もっと大きいのになると免許が必要ですけど」
「免許……。ドローンを飛ばす免許なんてあるんだ」
和香は目をぱちくりとさせて、その外国人観光客の頭の上を飛ぶドローンを見つめた。
「ドローンかぁ」
「どうしたの?」
保が振り返る。
「いや…。そういえば近くにドローンスクールがあったなぁと思って」
「ドローンスクール?ドローンなんてスクールで勉強してどうすんの?」
保は軽く首を捻った。
「わからないけどスクールがあるってことは何かになるかも」
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