剣の腕が強すぎて可愛げがないと婚約破棄された私は冒険者稼業を始めます。~えっ?国が滅びそうだから助けに戻れ?今さら言われてももう遅いですよ~

十六夜りん

文字の大きさ
1 / 12
一章 婚約破棄~王国の滅亡

1 剣の腕が強すぎて可愛げがないと婚約破棄されました

しおりを挟む
「シンシア、君との婚約を破棄させてもらう」

その言葉を聞いた瞬間、私は純白のウェディングドレスに包まれたまま、大聖堂の祭壇の前で立ち尽くした。

今日は、公爵令嬢シンシア・フォン・エルンストである私と、第二王子アルフレッド殿下の結婚式の日だった。国王陛下と王妃殿下の前、大勢の貴族たちが見守る神聖な場所で、彼は誓いの言葉の代わりに、婚約破棄を宣言した。

騒めきが広がる中、私は表情一つ変えずに王子を見つめた。私の心は驚きよりも先に、彼がこれから何を言い出すのかという、冷めた好奇心に支配されていた。

「アルフレッド殿下。冗談は……」

私が冷静に状況を正そうと口を開くより早く、アルフレッドは私の腕を払い、一歩下がった。そして、彼は入口付近で控えていた一人の女性を招き入れた。

イザベラ。私の幼馴染であり、子爵家の三女。いつも影のように控えめな彼女が、不安そうな顔でアルフレッドの隣に立つ。

「シンシア、君の隣に立つべきは、私ではない。そして、私の妻となるべきは君ではない」

アルフレッドは私に向き直ると、その顔に冷淡さを浮かべた。

「シンシア。君の剣の腕は、もはや男よりも強すぎる。君が私の剣の師範を打ち破ったという話は、王国では武勇伝かもしれない。だが、それは未来の王妃として求められる『可愛げ』を完全に欠いている」

私は無感情に、彼の次の言葉を待った。あぁ、やはりそうきたか、と内心で頷く。

「可愛げ、ね」

「そうだ! 王妃には、夫を立て、国に安寧をもたらす柔和さと可憐さが必要なのだ。君は強すぎる。男を必要としない女など、私は妻には迎えられない」

彼は隣のイザベラを、まるで宝物のように愛おしそうに見つめた。

「それに比べ、イザベラは……彼女はか弱く、私がいなければ生きていけないと知っている。私に安らぎを与え、私の威厳を損なわない。これこそが王妃の器だ」

周囲の貴族たちのざわめきが、侮辱の言葉への動揺と、公爵家を追い詰める王子の横暴への驚きに変わっていくのがわかった。

しかし、私の心にあったのは、怒りでも、悲しみでも、絶望でもなかった。ただ、一人の人間に対する深い軽蔑と、心の底からの愛想の尽きた感情だけだった。

(この程度の理由で、私を捨てるというの? 命を懸けて国を守る公爵家を侮辱してまで?)

「なるほど。そうでしたか」

私は努めて静かに、しかし、はっきりと答えた。

「殿下が、その程度の方であったとは、大変遺憾に思います。わたくしが強すぎることが『可愛げがない』と仰るのなら、どうぞ、殿下の望むか弱き奥方をお迎えくださいませ」

私は左手の薬指に輝くはずだった結婚指輪をゆっくりと外した。その指輪を床に落とすと、大理石に当たってカチリと甲高い音が響いた。

「ですが、お忘れなきよう。剣の腕は、強すぎるからといって誰も傷つけません。ですが、愚かさは、国を滅ぼします」

私は彼らに二度と視線を向けることはなかった。純白のドレスの裾を翻し、大聖堂の出口へと向かった。一歩踏み出すごとに、肩の荷が下りていくような、清々しい解放感さえ覚えた。

その日、私の家である公爵家は王国の恥として王都を追われ、私は地位も、故郷も、全てを失った。

だが、私は失意には沈まなかった。

(もういい。あんな愚かな男のために、国の和平のために、剣を振るうなんて、もう二度とごめんだわ)

王都から遥かに離れた国境沿いの街。私は公爵令嬢の華美な服を脱ぎ捨て、動きやすい皮の鎧を身に着けた。背中には、私の全てである大剣を担ぐ。

私の強すぎる剣の腕。それは、彼らが私を拒絶した理由だ。だが、同時に、私が生きるための唯一の道だ。

「今日から、私はシンシア・フォン・エルンストではない」

私は荒くれ者たちが集う、冒険者ギルドの重い扉を押して入った。

「私の名はシン。ただの、腕の立つ冒険者だ」

これからは、自分のために、この剣を振るう。

(一方、その頃……)

シンシアが去った後、王国西部では異変が起こっていた。エルンスト公爵領を含む国境付近の古い墓所から、おびただしい数の死霊(アンデッド)が発生し始めたのだ。その数は日に日に増し、街を、村を、そして王都を脅かし始めていた。

アルフレッド王子が、彼の選んだ『可愛げのある』妻イザベラを傍らに置きながら、その対処に手を焼いているという。

国の滅亡の危機が、静かに、しかし確実に迫っていることなど、シンシアはまだ知らない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした

夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。 しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。 やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。 一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。 これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ
ファンタジー
「役立たず」の烙印を押され、パーティを追放されたアルフォンス。彼のスキルは戦闘に不向きな【土いじり】。失意の彼は都会を離れ、辺境の地で静かに農業を営むことを決意する。 しかし、彼が畑を耕すと、そこから不思議なダンジョンが生えてきた! ダンジョン内では、高級ポーションになる薬草や伝説の金属『オリハルコン』が野菜のように収穫できる。地味だと思われた【土いじり】は、実はこの『農園ダンジョン』を育てる唯一無二のチートスキルだったのだ。 噂を聞きつけ集まる仲間たち。エルフの美少女、ドワーフの天才鍛冶師……。気づけば彼の農園は豊かな村へ、そして難攻不落の要塞国家へと発展していく。 一方、彼を追放したパーティは没落の一途を辿り……。 これは、追放された男が最強の生産職として仲間と共に理想郷を築き上げる、農業スローライフ&建国ファンタジー!

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

金喰い虫ですって!? 婚約破棄&追放された用済み聖女は、実は妖精の愛し子でした ~田舎に帰って妖精さんたちと幸せに暮らします~

アトハ
ファンタジー
「貴様はもう用済みだ。『聖女』などという迷信に踊らされて大損だった。どこへでも行くが良い」  突然の宣告で、国外追放。国のため、必死で毎日祈りを捧げたのに、その仕打ちはあんまりでではありませんか!  魔法技術が進んだ今、妖精への祈りという不確かな力を行使する聖女は国にとっての『金喰い虫』とのことですが。 「これから大災厄が来るのにね~」 「ばかな国だね~。自ら聖女様を手放そうなんて~」  妖精の声が聞こえる私は、知っています。  この国には、間もなく前代未聞の災厄が訪れるということを。  もう国のことなんて知りません。  追放したのはそっちです!  故郷に戻ってゆっくりさせてもらいますからね! ※ 他の小説サイト様にも投稿しています

処理中です...