剣の腕が強すぎて可愛げがないと婚約破棄された私は冒険者稼業を始めます。~えっ?国が滅びそうだから助けに戻れ?今さら言われてももう遅いですよ~

十六夜りん

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一章 婚約破棄~王国の滅亡

4 拒絶と新たな依頼

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「今さら言われても、もう遅いですよ」

私の言葉を聞いたギルドマスターは、口をあんぐりと開けたまま固まっていた。

「ま、待て、シン! お前、本気で言ってるのか? 王家からの勅命だぞ? 公爵家の地位回復と、王妃の座まで約束されてるんだ!」

彼は焦ったように私を説得しようとする。彼にとって、それは一生に一度あるかないかの名誉であり、辺境の冒険者にとっては夢のような話なのだろう。

私は彼の言葉を鼻で笑い飛ばした。

「名誉? 王妃の座? 殿下が私を婚約破棄した理由は何でしたか。『可愛げがない』。私が強すぎるから、男を立てられないから、です」

私は剣を鞘に納め、カチリ、と硬質な音を立てた。

「あの時、私の全てを否定した人間が、都合が悪くなったからといって、私に縋ってくる。こんな厚顔無恥な要求を、どうして私が受け入れる必要があるのでしょう」

「しかし、国が滅びれば、お前の領地も、故郷も……」

「故郷は、私を追放したあの時点で、もうありません。それに、国が滅びたところで、私の剣の腕はどこでも通用する」

私は報酬をまとめた袋を軽く叩いた。ずっしりとした魔石の重みが、私の自由の証だ。

「この返答を、そのまま王都に伝えてください。私は、この街の平和を守る冒険者『シン』です。国を滅亡の危機に追いやった愚かな王子の妻になる趣味は、生憎持ち合わせていません」

ギルドマスターは、私の強い意志と、一切の未練がない目に、ついに諦めを覚えたようだ。彼はため息をつき、王家の公文書を懐にしまい込んだ。

「分かったよ、シン。お前の言う通りに伝えるさ。だが、これで王家がお前を敵に回すかもしれないぞ」

「敵に回ればいい。私の剣は、その程度の輩に負けるほど鈍ってはいません」

ギルドマスターが王都へ伝令を出す準備を始めた翌日。リーフェルの街は再び活気を取り戻していた。私の継続的な死霊討伐のおかげで、リーフェル近郊は急速に安全を取り戻しつつあったのだ。

私は再び依頼掲示板の前に立っていた。

ランクAの依頼が、私を待っていた。

「古竜の牙の採取? ……随分と大掛かりな依頼ね」

古竜。それは伝説に近しい巨大な魔物であり、その牙は最高級の武具や魔導具の材料となる。依頼主は、大陸の東方にある大国、アルカディア王国の商会だった。

「シン! お前、それを受けるつもりか?」

掲示板を見ていた古参の冒険者が、驚いて声を上げた。

「古竜は最低でもランクS級の魔物だ。お前はBランクに上がったばかりだろう!」

「Bランクになったからこそ、挑戦する価値がある」

私は依頼書を掲示板から剥がし取った。

強すぎる剣の腕を「可愛げがない」と貶された私にとって、この大剣は、私がどこまで行けるか試すための試金石だ。王国の狭い枠組みの中で、王妃という檻の中で生きる必要はない。

私の強さは、私自身のためにある。

私はすぐにギルドのカウンターへ向かい、古竜討伐の依頼を受理した。ギルドマスターは私を心配そうに見つめていたが、私の眼差しを見て何も言わなかった。

私が古竜の生息地とされる雪山地帯へ向かうため、リーフェルの街を出発しようとした矢先。

街の門前で、私は一団の騎士に呼び止められた。

彼らは王都の騎士団の者だ。彼らが着ている鎧の紋章、そしてリーダー格の騎士の顔に、私は見覚えがあった。

「シンシア様! いや、シン殿!」

リーダーの騎士は、私の父である公爵の副官を務めていたことのある、忠実な男だった。彼は焦燥の色を浮かべた顔で馬から飛び降りた。

「シン殿! ギルドマスターから返答は聞きました。ですが、我々は殿下、いや、国王陛下(現国王は既に病で伏せっているため、実質は摂政であるアルフレッド王子)からの二度目の勅命を受け、参上しました!」

私は歩みを止めた。全く、懲りない人たちだ。

「二度目、ですか。私の返答は、既に伝えたはずですが」

「状況が、一刻を争うのです! 今朝、死霊の群れはついに王都の外壁を突破しました! このままでは、本当に国が滅びます!」

彼の顔には、恐怖と絶望が滲んでいた。

「お願いです、シン殿! 貴方様の力が必要です! 殿下は……殿下は、貴方様が戻らないのなら、人質としてイザベラ様を王都の広場に連れ出したと……!」

私はその言葉を聞き、わずかに目を細めた。

(イザベラを人質? 私を拒絶した『可愛げのある』新しい王妃候補を?)

アルフレッド王子の愚かさは、私の想像を遥かに超えていた。国を救うためなら、自分が選んだ女さえ平気で利用する。そして、その人質が、私を婚約破棄に追い込んだ女だという皮肉。

「それが、私に何の関係があるのです?」

私は淡々と尋ねた。

騎士は絶句した。そして、切羽詰まった声で懇願する。

「シン殿、貴方は公爵令嬢として、王家の人間として……」

「私は、ただの冒険者『シン』です。そして、そのイザベラという女性は、私から全てを奪った女。その女の命のために、私がなぜ危険を冒して、私を追放した国を救う必要があるのですか?」

私は踵を返した。古竜の待つ雪山は、私にとって、あの腐敗しきった王都よりも遥かに魅力的だった。

「私は古竜討伐の依頼を受けています。邪魔をしないでください」

そう言い残し、私は二度目の勅命を無視して、東の王都とは逆方向、雪山の方向へと歩き出した。私の背後で、騎士たちの悲痛な叫び声が響いた。

「戻ってください、シンシア様!」

彼らの声は、私にはもう届かない。私の心は、凍りついた雪山の冷気のように、一切の情を失っていた。
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