剣の腕が強すぎて可愛げがないと婚約破棄された私は冒険者稼業を始めます。~えっ?国が滅びそうだから助けに戻れ?今さら言われてももう遅いですよ~

十六夜りん

文字の大きさ
3 / 12
一章 婚約破棄~王国の滅亡

3 死霊の森、そして届いた報せ

しおりを挟む
東への道は、想像以上に険しかった。

「死霊の森」と呼ばれるようになったエリアは、かつては静かな森林地帯だったはずだ。しかし、一歩足を踏み入れると、生気が吸い取られたかのような陰鬱な空気に包まれる。木々は黒く朽ち、地面からは絶えず湿った腐臭が立ち上っていた。

ギルドからの情報は正確だった。夜闇が訪れると、文字通り大量の死霊(アンデッド)が現れた。

まず、動く骸骨スケルトンの群れ。彼らは骨の剣を携え、集団で襲いかかってくる。次に、朽ちた肉体をずるずると引きずるゾンビ。彼らは動きは鈍いものの、その腐敗した体は容易に剣を受け付けず、悪臭をまき散らした。

(これが、あの愚かな王子が対処に手を焼いているという脅威ね)

私は冷静に大剣を構えた。私の剣は、彼らが私を拒絶した理由であり、私の誇りだ。この剣を振るうことに、何の迷いもない。

スケルトンの群れが向かってくる。普通の冒険者なら、その数と異様な雰囲気に萎縮し、包囲される前に逃げ出すだろう。

しかし、私は逃げない。

「邪魔だ」

私は大剣を振り抜いた。回転と同時に放たれた剣圧が、目の前のスケルトン十数体を一瞬で粉砕する。ガシャン、と音を立てて骨の破片が飛び散った。

アルフレッド殿下は、私の剣の強さを「可愛げがない」と評した。だが、この圧倒的な力こそが、私を生き延びさせ、私の道を切り開く。彼らにとっての「可愛げ」とは、私が剣を振るうたびに彼らの自尊心を傷つける、力のなさを意味していたのだ。

私はゾンビの群れにも構わず突進した。ゾンビの腐肉に剣がめり込む感触は不快だが、躊躇はしない。剣圧を込めた一撃は、彼らの核である頭部を確実に破壊する。

討伐は、想像以上に一方的だった。私が公爵令嬢として受けてきた訓練は、辺境の一冒険者が太刀打ちできるレベルのものではない。私の動きには無駄がなく、一太刀で確実に敵を仕留めた。まるで、子供相手の剣術稽古のようだ。

この「死霊の森」での数日間の討伐で、私はランクDから一気にランクBへと昇格した。ギルド内での私の評判は、もはや「腕の立つ新人」ではなく「規格外の怪物」へと変わっていた。

私がこの地で次々と死霊の討伐を続けるうちに、リーフェルの街には活気が戻り始めた。危険が減ったことで、鉱山の採掘や交易の道が再開されたのだ。

ある晩、私はギルドの二階にある宿泊室で、報酬の計算をしていた。大量の魔石と証拠品が、私の目の前で輝いている。

すると、ノックの音がして、ギルドマスターが入ってきた。屈強な体躯を持つ男だが、私の前では少しばかり緊張しているように見える。

「シン、話がある」

彼はそう言うと、一枚の羊皮紙をテーブルの上に置いた。それは、王都の紋章が押された緊急の公文書だった。

「王都から、伝令が来た。内容は、お前に宛てたものだ」

「私に? 私のところに、王都からの伝令が来る理由なんてありませんよ。私はただの冒険者です」

私は皮肉を込めて言った。

ギルドマスターは困ったように頭を掻いた。

「いや、どうやらお前が公爵令嬢シンシアだと、王都側が突き止めたらしい。この街でのあまりに異常な討伐速度と、剣の流派を調べたらしいんだ」

「……それで?」

私の声は氷のように冷たかった。ようやく公爵家を追い出し、自由になったというのに、今さら何の用だ。

ギルドマスターは、羊皮紙を指差した。

「これを読んでくれ。私は、ただの伝達役だ」

私は警戒しながらも、その公文書を開いた。そこには、王家の紋章の下、アルフレッド王子の署名が記されていた。

内容は、私の予想を遥かに超える、図々しいものだった。

公爵令嬢シンシア・フォン・エルンストへ

緊急勅命を発する。

貴国は現在、未曾有の危機に瀕している。死霊の群れは王都の目前まで迫り、王国の軍隊だけでは、もはや防ぎきることが不可能となった。

貴公の「強すぎる剣の腕」こそが、今やこの国を救う唯一の希望である。

即刻、王都へ帰還し、王国の危機を救うために力を尽くせ。

かつての婚約破棄については、王家として深く陳謝する。

帰還すれば、公爵家の地位の回復と、未来の王妃としての立場を保障する。

アルフレッド・フォン・ヴィクトリアス 第二王子 兼 摂政

私は文書を読み終えると、ゆっくりと息を吐き出した。怒りではない。呆れだ。

アルフレッド殿下は、国が滅亡寸前になって、ようやく私の価値を認識したらしい。それも、「未来の王妃」の立場を餌にして、私を呼び戻そうなどと。

(愚かさ、は国を滅ぼすと言ったはずですよ、殿下)

私は公文書を静かに折りたたみ、ギルドマスターに返した。

「王都への返事は?」と尋ねる彼に、私は顔を上げ、冷たい笑みを浮かべた。

「返事はこうだ。ギルドマスター」

私は立ち上がり、窓の外の暗闇、すなわち王都がある東の方向を見た。

「『今さら言われても、もう遅いですよ』と、伝えてください」

そして、私は静かに大剣を抜き、窓に映る自分の姿を見つめた。私の瞳には、もう王家の光は宿っていなかった。

「私は今、最高の冒険者稼業を楽しんでいる。誰かのための剣ではなく、自分のための剣を振るう自由を、手放すつもりはない」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

その高慢な鼻っ柱、へし折って差し上げますわ

ファンタジー
男爵令嬢リリィ・オルタンシア。彼女はオルタンシア家の庶子であったが、充分な教育を受け、アークライト学院へと入学する。 しかし入学初日から第一王子を始めとした高位貴族に声をかけられる妙な事態に。 悩んだ末にリリィは一つの結論にたどり着き……。 ※複数のサイトに投稿しています。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...