剣の腕が強すぎて可愛げがないと婚約破棄された私は冒険者稼業を始めます。~えっ?国が滅びそうだから助けに戻れ?今さら言われてももう遅いですよ~

十六夜りん

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一章 婚約破棄~王国の滅亡

6 交わらない道、剣と光の共闘

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リディは、私がこれまで出会ってきたどの貴族令嬢とも、またどの冒険者とも違っていた。

雪山を歩くとき、私は最も効率的なルートを選び、最短で目的地に到達することだけを考えていた。体力温存のための無駄のない動き、魔物との遭遇を避けるための地形の読み方。公爵家で叩き込まれた軍事的な思考回路が、そのまま冒険者のスキルとして機能している。

対するリディは、歩くたびに小さな花や、雪の中で凍えている小動物に心を配った。

「シンさん、この白い花、とても可憐ですね。凍えながらも、一生懸命咲いているんです」

「ただの雑草です。薬草としても価値はありません」

私が冷たく言い放っても、リディは少し寂しそうな顔をするだけで、私を責めることはなかった。彼女のそばにいると、まるで冷え切った私の心の周りに、暖炉の火が置かれたような、奇妙な感覚を覚えた。

彼女は、なぜ私がこれほどの剣の腕を持ちながら、辺境の街で冒険者をしているのか、一度も直接尋ねなかった。ただ、時折、私の持つ大剣を、畏敬の念を込めた目で見るだけだった。

「シンさんの剣は、本当に美しいですね。迷いがなくて、ただ、真っ直ぐ」

野営の夜、焚き火の前でリディが言った。

「真っ直ぐ? ただ敵を斬り裂くだけです」

「はい。でも、その斬り裂く一瞬に、何の迷いも躊躇もない。それは、守るべきものを明確に知っている人の剣です」

私はスープを飲む手を止めた。

守るべきもの。かつての私にとってそれは、公爵家の名誉、そして王国だった。だが今は違う。

「私には、守るものなどありません。あるのは、この剣で得られる自由と、報酬だけです」

「自由と報酬……ですか」

リディは少し俯き、静かに首を振った。

「いいえ、シンさん。貴女の剣は、とても悲しい音がします。まるで、大切な何かを失って、それを補うために振るわれているみたいです」

彼女の、何の悪意もない、ただ純粋な指摘が、私の胸を少しだけ刺した。私はそれ以上何も答えず、目を閉じて眠るふりをした。光の神殿の聖職者は、人の心を読むのが得意らしい。

山脈の中腹に差し掛かった頃、私たちは初めて、強力な魔物と遭遇した。

「グルルルルル……!」

それは、フロスト・オーガ。全身が白い毛皮で覆われ、体長は五メートルに迫る巨大な人型の魔物だ。その棍棒の一撃は、岩をも砕く。

オーガはこちらに気づくと、地響きを立てながら突進してきた。

「リディ、下がりなさい!」

私は即座に叫び、大剣を両手で構えた。

「はい! ホーリー・バリア!」

リディはすぐに杖を掲げ、私とオーガの間に光の膜のような障壁を展開した。オーガの棍棒がバリアに叩きつけられる。光のバリアは一瞬たわんだものの、オーガの攻撃を防ぎきった。

「素晴らしい防御だ!」

感嘆する間もなく、私はオーガの懐に飛び込んだ。オーガは体躯が大きいため、小回りが利かない。

(弱点は、首、あるいは足の付け根の腱)

公爵家で学んだ、魔物の生態に関する知識が瞬時に頭を巡る。

私はオーガの分厚い皮をものともせず、足の腱目掛けて大剣を振り抜いた。私の剣には、剣圧を込めることで威力を増幅させる独自の技術が組み込まれている。

ズンッ!

一撃でオーガの片足の腱が断ち切られ、巨体がバランスを崩す。オーガが痛みに吠える。

その隙を見逃さない。私は大剣を垂直に跳ね上げ、オーガの頭部を狙った。

「これで終わりだ!」

次の瞬間、私の剣がオーガの首筋に食い込む直前、リディが再び魔法を放った。

「シンさん! 止めを刺す前に、この光を!」

リディが放ったのは、光属性の攻撃魔法ではなく、浄化と強化の神聖魔法『ホーリー・チャージ』だった。

光の粒子が、私の大剣に降り注ぐ。私の剣は、純粋な光に包まれ、その威力を数倍に跳ね上げた。

「……っ!」

私は驚きながらも、その剣を一気に振り下ろした。

光を帯びた大剣は、オーガの分厚い首を一瞬で断ち切った。

ゴッ、と鈍い音を立ててオーガの巨体が雪上に倒れ伏す。

戦闘は、わずか数十秒で終わった。私の斬撃と、リディの正確なサポート。二人の連携は、初めて組んだとは思えないほど完璧だった。

「シンさん……今の攻撃、とてつもない威力でした! 私のホーリー・チャージと、貴女様の剣術の組み合わせは、まさに無敵ですね!」

リディは目を輝かせながら駆け寄ってきた。

「あなたがいなければ、これほど迅速にはいかなかった。リディ、あなたの魔法は強力だ」

私たちがオーガの討伐素材を回収していると、リディがふと、下の方を指差した。

「シンさん、あれを見てください」

視線の先には、山脈の険しい道を登ろうとして力尽きたらしい、馬車の残骸があった。馬は既に息絶え、荷物は散乱している。荷台には、王都で見たことのある高級品の商標がついていた。

「王都方面から来た商隊のようね。フロスト・オーガにやられたのでしょう」

私が冷静に判断する。

リディの表情が、一気に曇った。

「王都……。そういえば、シンさんとリーフェルでお会いする前、街の噂で聞きました。王都方面で、死霊の群れが暴れていると」

「ええ、そのようです」

「この商隊は、もしかしたら、王都から逃げようとして、この山脈を越えようとしたのかもしれません……」

リディは、胸の前で両手を組み、静かに祈りを捧げ始めた。彼女の優しさが、私の冷めた心にわずかな波紋を広げた。

「シンさん……。貴女の剣の強さが、もし、あの死霊の群れを止めることができるとしたら、貴女は……」

彼女は私を真っ直ぐに見つめた。

「あの国がどうなろうと、私には関係のないことです。私は古竜を倒し、報酬をもらいます。それだけです」

私は再び冷たく突き放した。

(たとえ、私の剣が国を救う唯一の希望だとしても。私は、私を否定した場所に戻る気はない。愚かさの代償は、国を滅ぼすという形で支払われるべきだ)

私たちが古竜の縄張りに向けて再び歩き出した時、リディは少し悲しげな顔をしていたが、何も言わなかった。ただ、私の背後で、彼女の杖の先端が、微かに光を放っているのだけがわかった。
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