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一章 婚約破棄~王国の滅亡
10 リーフェル攻防戦、そして闇の王
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翌朝。リーフェルの街は、まるで巨大な墓石の下に置かれたように重苦しい空気に包まれていた。
王都からの騎士が持ち帰った報せは、瞬く間に街全体に広まった。人々は恐怖に怯え、逃げ惑う者、酒を飲んで絶望する者、そして私に縋りつく者と、様々な反応を示した。
だが、私は揺るがなかった。
「シン! 頼む、街の防衛を指揮してくれ! お前ほどの剣の腕を持つ者は、この街には他にいない!」
ギルドマスターが血相を変えて私のところにやってきた。
「防衛ですか。私は軍隊の指揮官ではありません」
私が冷静に言うと、リディが前に出た。
「シンさんは、剣士です。ですが、その剣こそが、この街の希望です。私たちで、防衛線を構築しましょう」
リディの言葉に、私は頷いた。王都の騎士団を指揮することは拒否するが、この街を守る冒険者として動くのは、私の選択した道だ。
私たちはすぐに、冒険者たちと街の自警団、そして戦闘能力のある住民を集めた。
「皆、よく聞け!」
私は城壁の上から、集まった人々を見下ろした。私の声は、大剣の切っ先のように鋭く、人々の心に突き刺さる。
「東から来るのは、死霊の王が率いるアンデッドの群れだ。逃げる者、絶望する者は勝手にすればいい。だが、この街で生き残りたいと願う者は、私と共に剣を取れ」
「私は、公爵令嬢シンシアではない。ただの冒険者『シン』だ。だが、私の剣は、古竜をも打ち倒した。その力は、この街の全てを守り抜くために使う」
私の言葉は、絶望に支配されていた人々の心に、かすかな炎を灯した。私の実力は、古竜討伐によって疑いようのないものになっていたからだ。
「リディ」
「はい、シンさん」
「あなたは、城壁の後方で最大限の神聖魔法の結界を張り、アンデッドの侵入を防ぎながら、負傷者の回復に当たってください。あなたこそが、この防衛戦の要だ」
「承知いたしました! 私の光が、この街を守ります!」
リディは強い決意の光を瞳に宿し、城壁の後方に移動した。
私は大剣を担ぎ、最も危険な、城壁の最前線に立った。
その日の夜。闇は、文字通り「壁」となってリーフェルに押し寄せた。
「来たぞ……!」
冒険者の一人の叫び声と共に、東の地平線から、おびただしい数のアンデッドが姿を現した。スケルトン、ゾンビ、そして腐敗した巨体を揺らすグール。その数は、私が死霊の森で見た比ではない。まさに闇の津波だ。
「戦闘開始! 剣士は前衛! 弓兵は斉射!」
私は冷静に号令を出す。
最初に城壁に到達したのは、ゾンビの群れだった。彼らは腐敗した腕を伸ばし、城壁に取りつこうとする。
「無駄だ!」
私は城壁から飛び降り、大剣を一閃した。
ヒュンッ!
私の剣は、風切り音と共に巨大な弧を描き、城壁に取り付こうとした十数体のゾンビを一瞬で両断した。
強すぎる剣。
これが、私が王家から疎まれ、追放された力だ。だが、今、この力こそが、無数の命を救っている。
私は一人で城壁の外に立ち、アンデッドの群れを食い止め続けた。私の大剣は、ただ斬り裂くだけではない。全身の魔力を込めた一撃は、剣圧を伴い、当たったアンデッドの体を内部から砕く。
その時、リディの神聖魔法が炸裂した。
「ホーリー・レイ!」
城壁の後方から放たれた光の奔流が、アンデッドの群れの中央を貫いた。神聖魔法は闇の魔物にとって最高の天敵だ。光に触れたアンデッドは瞬時に浄化され、塵となって消滅した。
私の剣と、リディの光。
その完璧な連携は、絶望的な戦況を、かろうじて拮抗へと持ち直させた。冒険者たちも、その驚異的な戦いぶりを見て勇気づけられ、必死に剣を振るい続けた。
しかし、戦況は、一人の登場によって再び絶望へと傾いた。
アンデッドの群れの中央が、まるで海が割れるように左右に開いた。
その裂け目から、純粋な闇の塊が、悠然と進み出てきた。
黒いローブを纏い、顔には禍々しい仮面。手には、全てを飲み込むような漆黒の魔杖。それが、王都を滅亡させた張本人、死霊の王(ネクロマンサー・キング)だ。
死霊の王は、こちらを向くと、ただ手をかざした。
ドクン、ドクン。
大地が脈打つような音が響き渡り、アンデッドの群れが、一斉に強化された。彼らの動きは速くなり、目には新たな、紅い光が灯る。
「皆、下がれ! 奴が本体だ!」
私が叫ぶ間もなく、死霊の王が魔杖を振り下ろした。
「ダーク・ノヴァ」
漆黒の魔力波が、城壁全体を襲った。
ズガァン!
リディが張った光の結界が、悲鳴のような音を立てて砕け散る。城壁は半壊し、その場にいた冒険者たちが吹き飛ばされた。
「リディ!」
私はリディの無事を確認しようと振り向いたが、それよりも早く、死霊の王が私に向かってきた。
「貴様か……我が軍を長きにわたり妨害し続けた、あの剣士は」
死霊の王の声は、何千もの亡霊が重なり合ったような、ぞっとする響きを持っていた。
「そして、その剣。まさか、愚かなアルフレッド王子の『可愛げのない』婚約者だったとはな」
奴は、私の素性を知っていた。王都の記憶を漁り、私を探し当てたのだろう。
私は言葉を返すことなく、大剣を握りしめた。私の剣は、私を否定した王族の記憶ではなく、今、目の前にあるこの街の命を守るために振るう。
「リディ! 全ての魔力を、私の剣に集中させろ! あいつが、全ての根源だ!」
「わ、わかりました! ホーリー・チャージ! 全てを捧げます!」
リディは、疲労困憊の体で、杖を私の大剣に向けた。
私の大剣は、今度こそ、純粋で強烈な光の剣となった。王家の儀式用の剣でも、公爵家の宝剣でもない。ただの、冒険者『シン』の剣だ。
死霊の王は、嘲笑した。
「無駄な足掻きを。光ごときで、闇の王を打ち破れると思うか。貴様は最後まで、おのれの剣の強さしか信じられなかった愚かな女だ!」
「私は、愚かではない!」
私は叫び、死霊の王目掛けて突進した。全身の魔力と、リディの神聖魔法の全てを込めた、文字通りの命を懸けた一撃。
「私の剣は、私が選んだ自由そのものだ! 貴様のような闇の王に、私の道を閉ざさせはしない!」
光を纏った大剣と、闇の王の魔杖が、リーフェルの夜空の下で激突した。
王都からの騎士が持ち帰った報せは、瞬く間に街全体に広まった。人々は恐怖に怯え、逃げ惑う者、酒を飲んで絶望する者、そして私に縋りつく者と、様々な反応を示した。
だが、私は揺るがなかった。
「シン! 頼む、街の防衛を指揮してくれ! お前ほどの剣の腕を持つ者は、この街には他にいない!」
ギルドマスターが血相を変えて私のところにやってきた。
「防衛ですか。私は軍隊の指揮官ではありません」
私が冷静に言うと、リディが前に出た。
「シンさんは、剣士です。ですが、その剣こそが、この街の希望です。私たちで、防衛線を構築しましょう」
リディの言葉に、私は頷いた。王都の騎士団を指揮することは拒否するが、この街を守る冒険者として動くのは、私の選択した道だ。
私たちはすぐに、冒険者たちと街の自警団、そして戦闘能力のある住民を集めた。
「皆、よく聞け!」
私は城壁の上から、集まった人々を見下ろした。私の声は、大剣の切っ先のように鋭く、人々の心に突き刺さる。
「東から来るのは、死霊の王が率いるアンデッドの群れだ。逃げる者、絶望する者は勝手にすればいい。だが、この街で生き残りたいと願う者は、私と共に剣を取れ」
「私は、公爵令嬢シンシアではない。ただの冒険者『シン』だ。だが、私の剣は、古竜をも打ち倒した。その力は、この街の全てを守り抜くために使う」
私の言葉は、絶望に支配されていた人々の心に、かすかな炎を灯した。私の実力は、古竜討伐によって疑いようのないものになっていたからだ。
「リディ」
「はい、シンさん」
「あなたは、城壁の後方で最大限の神聖魔法の結界を張り、アンデッドの侵入を防ぎながら、負傷者の回復に当たってください。あなたこそが、この防衛戦の要だ」
「承知いたしました! 私の光が、この街を守ります!」
リディは強い決意の光を瞳に宿し、城壁の後方に移動した。
私は大剣を担ぎ、最も危険な、城壁の最前線に立った。
その日の夜。闇は、文字通り「壁」となってリーフェルに押し寄せた。
「来たぞ……!」
冒険者の一人の叫び声と共に、東の地平線から、おびただしい数のアンデッドが姿を現した。スケルトン、ゾンビ、そして腐敗した巨体を揺らすグール。その数は、私が死霊の森で見た比ではない。まさに闇の津波だ。
「戦闘開始! 剣士は前衛! 弓兵は斉射!」
私は冷静に号令を出す。
最初に城壁に到達したのは、ゾンビの群れだった。彼らは腐敗した腕を伸ばし、城壁に取りつこうとする。
「無駄だ!」
私は城壁から飛び降り、大剣を一閃した。
ヒュンッ!
私の剣は、風切り音と共に巨大な弧を描き、城壁に取り付こうとした十数体のゾンビを一瞬で両断した。
強すぎる剣。
これが、私が王家から疎まれ、追放された力だ。だが、今、この力こそが、無数の命を救っている。
私は一人で城壁の外に立ち、アンデッドの群れを食い止め続けた。私の大剣は、ただ斬り裂くだけではない。全身の魔力を込めた一撃は、剣圧を伴い、当たったアンデッドの体を内部から砕く。
その時、リディの神聖魔法が炸裂した。
「ホーリー・レイ!」
城壁の後方から放たれた光の奔流が、アンデッドの群れの中央を貫いた。神聖魔法は闇の魔物にとって最高の天敵だ。光に触れたアンデッドは瞬時に浄化され、塵となって消滅した。
私の剣と、リディの光。
その完璧な連携は、絶望的な戦況を、かろうじて拮抗へと持ち直させた。冒険者たちも、その驚異的な戦いぶりを見て勇気づけられ、必死に剣を振るい続けた。
しかし、戦況は、一人の登場によって再び絶望へと傾いた。
アンデッドの群れの中央が、まるで海が割れるように左右に開いた。
その裂け目から、純粋な闇の塊が、悠然と進み出てきた。
黒いローブを纏い、顔には禍々しい仮面。手には、全てを飲み込むような漆黒の魔杖。それが、王都を滅亡させた張本人、死霊の王(ネクロマンサー・キング)だ。
死霊の王は、こちらを向くと、ただ手をかざした。
ドクン、ドクン。
大地が脈打つような音が響き渡り、アンデッドの群れが、一斉に強化された。彼らの動きは速くなり、目には新たな、紅い光が灯る。
「皆、下がれ! 奴が本体だ!」
私が叫ぶ間もなく、死霊の王が魔杖を振り下ろした。
「ダーク・ノヴァ」
漆黒の魔力波が、城壁全体を襲った。
ズガァン!
リディが張った光の結界が、悲鳴のような音を立てて砕け散る。城壁は半壊し、その場にいた冒険者たちが吹き飛ばされた。
「リディ!」
私はリディの無事を確認しようと振り向いたが、それよりも早く、死霊の王が私に向かってきた。
「貴様か……我が軍を長きにわたり妨害し続けた、あの剣士は」
死霊の王の声は、何千もの亡霊が重なり合ったような、ぞっとする響きを持っていた。
「そして、その剣。まさか、愚かなアルフレッド王子の『可愛げのない』婚約者だったとはな」
奴は、私の素性を知っていた。王都の記憶を漁り、私を探し当てたのだろう。
私は言葉を返すことなく、大剣を握りしめた。私の剣は、私を否定した王族の記憶ではなく、今、目の前にあるこの街の命を守るために振るう。
「リディ! 全ての魔力を、私の剣に集中させろ! あいつが、全ての根源だ!」
「わ、わかりました! ホーリー・チャージ! 全てを捧げます!」
リディは、疲労困憊の体で、杖を私の大剣に向けた。
私の大剣は、今度こそ、純粋で強烈な光の剣となった。王家の儀式用の剣でも、公爵家の宝剣でもない。ただの、冒険者『シン』の剣だ。
死霊の王は、嘲笑した。
「無駄な足掻きを。光ごときで、闇の王を打ち破れると思うか。貴様は最後まで、おのれの剣の強さしか信じられなかった愚かな女だ!」
「私は、愚かではない!」
私は叫び、死霊の王目掛けて突進した。全身の魔力と、リディの神聖魔法の全てを込めた、文字通りの命を懸けた一撃。
「私の剣は、私が選んだ自由そのものだ! 貴様のような闇の王に、私の道を閉ざさせはしない!」
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