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A Hacker's Daily Life

序章

「さて、今日も始めるとするか。」



薄暗い部屋の中で一人の男がそうつぶやく。


ある日、1通のメールが届いた。

その送り主によると世界的な裏社会に繋がる
ある組織が開発したプログラムの
テスターになってほしいとのこと。

このプログラムはすでにインターネット上で、
ランダムに被験者を選出し、
実証実験が重ねられることで、
基本的な技術が確立し、
様々な応用が試されている中で、
今回話が流れてきたようだ。

引きこもり生活をしながら、
ハッカーのような技術を身に着けて、
あまり大きな声では言えないような
仕事をしながらなんとか生きている。

そんな俺が体験した不思議な体験を話してみる。


最初の依頼メールから何回かやり取りをした。
もちろんタダでこんなリスキーな
依頼を受けるわけにはいかない。

しっかりとした報酬額を提示してくれたこと、
前金で半分をくれるというので、
とりあえず取りかかることにしたのだが、
色々聞いてみるとこの組織は
男性を女性に変えたり、
逆に女性を男性に変えたりと、
人間のDNA構造を薬や特殊なプログラムによって
変化させる技術を秘密裏に開発してきたそうだ。

こんな話を聞いた時点で
すでに相手の術中というわけだが、
まぁ、そんな生活には
もう慣れたのでなんということはない。

担当者曰く、
時代の流れで少子化が進む先進国に向けて、
その決定的な解決策として
この技術を売り込んでいく魂胆のようだ。
なお、他にもいろいろな背景があるそうだが、
今日はその話をするわけではない。

だいたいの条件が合意できたのと、
秘密保持契約も終わったので、
先方から今回テストするプログラムが送られてきた。

プログラムの種類としては、
インターネットブラウザ用のプラグインで、
通常では考えられない機能が実装されているらしい。
一緒に送られてきたドキュメントを読み込み、
今回の作業環境を整えていく。
さほど時間もかからず初期セットアップが完了した。

つづいて作業内容を確認してみると、
本当にそんなことができるのか？
という不思議な内容が記載されている。

この特別な機能が追加されたブラウザ上で、
一定時間コミュニケーションを継続させるだけで、
相手の生体データを取得できてしまうらしい。
さらに時間をかけると相手の思考を乗っ取ることも、
相手の姿を変えることも可能とはどういうことだ？
これが本当なら今回の依頼者が
裏社会の組織というのも頷ける。
ヘタをすれば国家転覆クラスのことが
可能になりそうなことは、
引きこもりの立場であっても理解できる。

そんなことを考えつつも、
オペレーションマニュアルを読み進めていくと、
今回すべき作業がやっと明確になってきた。

今回の作業はオンラインチャットと呼ばれる、
有料サービスで配信をしている女性の生体データを収集することや、
その女性を使って更に生体データを収集することのようだ。

収集した生体データは自分に反映させて確認したり、
人形に反映させることもできるらしい。

なんというか本当にこんなプログラムが実在するのか？
という点についてまだまだ疑問は拭えないが、
すでに報酬の半分は受け取っているのでやるしかない。


しかし、特定の相手と長時間コミュニケーションをとるためには、
お金を払いさえすればインターネット越しに
好きなだけコミュニケーションをとることができるこういうサービスは、
たしかに今回のテストとの親和性が高いのはすぐに理解できた。

なお、今回の案件を依頼してきた組織から
複数のサービスの多くのポイントが提供されているので、
そのあたりも万全というわけだ。

こうして、ある組織から依頼されたテスト作業を開始すべく、
あるチャットサービスにアクセスしてみるのだった。