ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里

文字の大きさ
44 / 96
三津子編

もしもあのカウンターの前で。。。





本当に?! あったかもしれない、
ちょっと大人な出会いのお話。

俺は今年34歳になるなんの取り柄もない、
IT関連のそれなりの規模の会社に勤める会社員だ。

わざわざこんなことを言う事もないかもしれないが、
年齢=彼女がいない歴というのはちょっと気にしてはいる。

周りは続々と結婚していくのを見ていると、
ちょっと焦ったりするのも事実だ。

ここまでの人生でまるで
そういうチャンスがなかったわけではないが、
本当に色々なタイミングが悪く、
気がつけば今日に至るというところだ。

見た目もいたって普通、
収入だって同世代よりはちょっといいぐらい。
周りに女性がいないわけじゃない。
それでも今日こういう状況なわけだから、
人生というのは本当にわからないものだ。

そんな俺の唯一の趣味とも言えるのが、
有名繁華街のBARに通うことだ。

最初は会社の飲み会の二次会で
連れていかれたのが始まりだったのだが、
あるバーテンダーに出会ったことで、
すっかりBARの世界にのめり込んだというところだ。

そんな感じの俺は今日も定時で仕事を終えると、
電車に揺られていつものように最初のBARの扉を開ける。

そう、それはいつもと同じ時間になるはずだった。
しかし、全く予想もしないような
出会いへの扉が開いた瞬間でもあった。



雑居ビルの4階にあるそのBARの扉を今日も開く。
このお店も間もなく20年になるそうだ。
扉の重さはいつも日常からの脱出の儀式のように感じるものだ。


「いらっしゃいませ。お一人ですか?」


いつものようにオーナーが声をかけてくれる。
出会ったころは黒髪でオールバックで決めた、
精気溢れる感じだったのだが、
多くの時間が流れた今日に至っては白髪が混じる、
どこか温和な雰囲気すら感じさせる、
物腰の柔らかい表情に落ち着いた声で迎えてくれる。

オープンまもないこともあり
まだ誰もお客はいない。

こういうときにいつも座る席に案内される。
荷物を預けて、席に着く。

おしぼりを渡されて、手を拭いたところで、
ふぅ~っとため息をつく。

やっと日常から解放されたという安堵感がこの場所にはある。
そんな気持ちがいつも最初にため息をしてしまう原因かもしれない。

最初の一杯は特になにを言うまでもなく、
決まった一杯が目の前に提供される。

ウイスキーの水割り。

それが毎日の最初の一杯だ。

ここのオーナーはとてもウイスキーに造詣が深く、
ただの水割りにも色々なウイスキーを選んでくれる。
それを毎日楽しむのが日課になっているといってもいいだろう。

提供された水割りを口に運ぶ。
良い香りとよい甘みやコクをゆっくり楽しむ。

そんな様子を眺めてくれていて、
よいタイミングでいつもオーナーが話しかけてくれる。
特になんの話をするわけではないが、
バー界隈のことであったり、
世間話であったり。

そんないつも通りの時間を過ごしていたとき、
BARの扉が開く音がした。

他のお客様が入ってくるのを、
わざわざ見るなんて失礼なことはしないので、
誰か入ってきたなぐらいで
特に気に留めることはなかった。

お店のスタッフがそのお客様に話しかける声が聞こえる。
その問いかけに答える声はどうやら女性のようだ。

飲み会の後の二次会などの複数名であれば、
女性もBARにくるというのはよく見かけるが、
早い時間に一人でBARにくる女性というのは珍しいものだ。

思わずちらりと横目でその女性を見てしまったのだが、
かなり若い感じでチラ見でも相当な美人であることがわかる。

まぁ、自分には縁がない人種だなぁとすぐに目線を切る。

そんなことを考えていると、
オーナーがその女性に話しかける。
どうやらオーナーの知り合いのようだ。

自分の左側一つ席を空けたところにオーナーが席を案内した。
そして慣れた感じでカクテル名をオーナーに伝える声が聞こえる。

根本的にコミュ障な性分であり、
BARで他のお客様に話しかけることは基本的にないのだが、
バーテンダーさんに促されるときは、
社交辞令的なやりとりだけはするようにしている。

さすがに女性のお客様だし、
こちらに振られることは
ないだろうと油断していたところ、
オーナーから声をかけられた。


「こちら、ほら、高橋さんの娘さんだよ。」


その名前に聞き覚えがあった。

このBARの常連さんで、数少ない面識があって、
ちゃんと話ができる初老の紳士だ。


「えっ?! 高橋さんに娘さんがいたんですか?」

「はじめまして。高橋の娘の三津子と申します。父がいつもお世話になっております。」

「いえいえ、こちらこそいつも貴重なお話を伺っております。」


ここがBARであることを一瞬忘れそうになる状況ではあった。

どうやら、この方は高橋三津子さん。
年齢は22歳。今年大学を卒業する年とのこと。

なんと干支が同じということが判明して、
なんだか小さなショックを受けたのは内緒だ。

父親の高橋さんは本当にダンディで紳士な方で、
不思議といつもあちらから話しかけてくれる貴重な方だ。

その高橋さんの娘さんというだけあって、
とてもしっかりとした印象を受ける話し方をされること、
そして、お父様譲りなのかものすごく端正な顔立ちと、
薄暗いBARでもわかるぐらいのスタイルの良さで、
モデルでもしているのだろうか?という印象である。

12歳も下の女性となると、
普段だと新入社員とちょっと話すぐらいで、
プライベートでは絶対に出会うことがない。

そんな女性とちょっとだけでも
話をする機会を得たというのは、
この後なにがあるわけでも絶対にないのに、
ちょっとラッキーな気分にはなった。

とはいえ、基本オーナーさんがいることで
会話が成り立っているというところであり、
それ以上でもそれ以下でもないというところだ。

そうしていると、次々とお客様が来店してくる。

そうなってくるとオーナーも忙しく接客をすることになり、
席が離れていることもあり、
三津子さんともそれ以上話すことはなくなった。

こういうシチュエーションは
過去にも数回はあるので、
BARのカウンターで何を期待するという
気持ちは全くない人間なので、
カウンターが埋まってきたところで
スタッフにチェックをお願いする。

それを見たオーナーが
今日もありがとうねと声を掛けに来てくれた、
こういうところがさすがの接客というところだろう。

会計を済ませて、
預けてあった荷物を受け取って席を立つ。

出口に向かおうとすると、
三津子さんがこちらが席を立ったことに気が付いた。
もう帰られるんですか?と聞かれたので、
この後は別の店に行きますよと答えた。

へぇ~とちょっと不思議そうな顔をされたので、
お父様と同じようなものですよとだけ答えて、
それではと挨拶をして店を出た。

エレベーターで1階に降りて、
いつものように次のお店に電話をして席を確保する。

歩いて5分ぐらいのお店なので、
薄暗くなってきている繁華街をトボトボ歩く。

こうしていつもとはちょっと違う
出会いがあった夜がはじまった。

なお、この後、全く予想すらしなかった、
あんなことに巻き込まれるとは
その時は思いもしなかった。
感想 4

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。