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美緒編
モデルの彼女とのお話 第二話
しおりを挟む打ち上げが終わって店を出て、2人で夜の街を歩いていく。
美緒が少し歩いたところで、タクシーを見つけて手をあげて止めた。
「さっ、乗った乗った」 「は、はい」
タクシーに押し込まれるように乗せられると、
彼女はある繁華街の名前をドライバーさんに告げた。すぐに車が発車する。
「そういえば、まったくお酒飲んでなかったけど、お酒ダメなの?」
「いえ、ああいうときは何があるかわからないので、
ソフトドリンクが基本なんです。一応飲めますが」
「そっかそっか。仕事熱心大変よろしい!」
そう言って、ちょっと顔を近づけてくる美緒から、
なんともいえない甘い匂いが漂ってきたのは鮮明に覚えている。
しばらくして目的地に到着する。
いつもの癖で支払いをしようとすると、
美緒がスッと手でそれを遮って
カードをドライバーさんに渡し、
支払いを済ませる。
「すみません。なんかいつもの癖で……」
「いいのいいの。ほんとすぐそういう動きできるのやっぱりすごいよ。
うちのマネージャーに見習わせたいくらい」
そう言って何か上機嫌な様子になる美緒。
「こっちだよ!」
と、ある雑居ビルを指さすのでそちらに向かい、
エレベーターで4階へと向かう。
繁華街に来ることは人生でほぼないので、
どうしていいか戸惑っていると、
4階に到着してエレベーターのドアが開く。
美緒が目の前にある重そうな
ドアを慣れた感じで開き、
「入って」と小声で言う。
言われるままに店内に入ると、
そこはなんともいい雰囲気のBARだった。
店内に入ると一人の男性が迎えてくれる。
「いらっしゃいませ。今日はお二人ですか?」
「ええ、カウンター空いてる?」
「大丈夫ですよ。では、こちらに」
出迎えてくれた店員さんとは
顔見知りのようだ。
案内されたカウンターの席に
慣れない感じで座ってみる。
「ふふふ。ほんとに初めてなんだね」
「お恥ずかしながら……あんまりお金もないので」
「そーか。じゃ、飲み物は私にお任せでいいかしら?」
「はい。大丈夫です。ただ、あんまり手持ちがなくて……」
「大丈夫。誘ったのは私だから」
そこで初めて美緒がニコリと微笑むのを見た気がした。
現場では結構厳しい顔をしていることが多く、
共演者ともにこやかに話をしているところは、
なくとも自分が現場に入っているときには
見たことがなかった。
場慣れしてないこともあり、
何をどうしていいかわからない状況だったので、
とりあえずあまりキョロキョロしない程度に店内を見てみると、
見たこともないお酒の瓶が多く並んでおり、
なんだかカッコイイなぁと素直に感じていた。
そして、店員さん……
どうやらバーテンダーと呼ぶと教えてもらったのだが、
バーテンダーさんの所作がとにかく美しかった。
カクテルというお酒を造る様々な動作に、
不思議と見入ってしまう。
そんな様子を見た美緒がこんなことを言う。
「こらこら、ここにいい女がいるのに何に見とれてるの?」
「あっ……いえ……こういうところ初めてなんですが
……バーテンダーさんの所作がすごいなぁと」
「あら? そういうの興味あるの?」
「特別そういうわけではないんですが…… こうスムーズというか、
綺麗な動きってつい見ちゃうんですよね」
「へぇ……あなたセンスあるわよ。
こういう場所に連れてきた男でそんなこという人初めてよ」
「そうんですか? いたって平凡な学生ですよ」
「ふふふ。やっぱり連れてきてよかったな」
またもニコリとほほ笑む美緒。
改めてではあるが、この人が人気モデルである理由が
心から納得できるほどの素敵な笑顔だ。
それを近くで見ることができたのは、
ラッキーということにしておこうと
なんだか自分を納得させていた。
そうしていると、
バーテンダーさんがカクテルを運んできてくれた。
カクテルについてバーテンダーが説明をしてくれるが、
ほとんど理解はできなかった。
「ふふふ。いいのよ。難しい話は抜きにして。 それじゃ、乾杯ね。
こういう場所ではグラスは当てちゃダメなの覚えておきなさい」
「えっ……そうなんですか?」
「このグラス高いのよ? 割れちゃったら大変でしょ?」
「なるほど……勉強になります」
「よろしい。じゃ、乾杯」
「乾杯。いただきます」
そう言って一口飲んでみると、
何とも言えない甘味と酸っぱさが口いっぱいに広がる。
そして、とてもいい匂いが鼻を通して感じられる。
「これ……滅茶苦茶美味しいです」
「よかった。でもね、すごいアルコール度数高いからゆっくり飲んでね」
「滅茶苦茶飲みやすいので、危ないですね」
「女の子酔わせるときにカクテル使っちゃだめだよ?」
「覚えておきます」
こんな話を始まりに、
美緒がいろいろな話をしてくれた。
モデルという仕事をしてずいぶん経っており、
年齢的に今後どうしようかと悩んでいること。
今日の現場も試行錯誤しながらやっているが、う
まくできているか正直自信がないことなど。
いつも自信満々で現場の中心にいるような
イメージしかなかったので、
かなり意外な話ばかりだった。
それにしてもこの人はとにかく話上手だ。
こちらが少しでもわからないような
雰囲気になるとすぐにフォローしてくれる。
例の都市伝説は誰かの妬みだったのだろうか?
と目の前のカクテルを飲みながら
ふと考えていたところで、
美緒がこんなことを言いだした。
「そうだ。あなたも聞いてるでしょ? 私の都市伝説」
「えっ……あっ……それは……」
「いいのよ。まぁ、いろいろあったのは事実だしね。
ん~、その話をここでするのもどうかだしなぁ……
ねぇ、この後私の家に来ない? この近くだからさ」
「えっ?! それはさすがにまずいのでは?」
「都市伝説の話、聞きたくない?」
「……聞いてみたくはありますが……」
「よし、じゃ、行こうか。マスター! お会計お願い!」
こうして、とんでもない夜がはじまっていくのだった。
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