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真奈美編
研修助手のお姉さんとの思い出話 第三話
自分の部屋と構造は同じはずなのに、
玄関を入った瞬間から何もかもが違ってた。
なんなら、とてもいい匂いがする。
同じ人類が同じ部屋に住んでいるのに、
こうも違うものかと呆然としてしまう。
「どうしたの? 入っておいでよ」
「あっ……はい。お邪魔します。」
靴を脱いで部屋に入る。
この物件は1DKでダイニングキッチンと
居室が一つという間取りになっている。
ダイニングが比較的広い構造で、
そこにソファーや机などが置かれていた。
奥の部屋はおそらく寝室として使っているのだろうと、
自分の部屋と比較しながら想像してみていた。
「ソファーに座ってて。すぐに作るからさ。」
「わかりました。」
そう言われて座ってはみるものの、
とにかく落ち着かない。
キッチンで料理をする水野さんを
遠目に見ることぐらいしかやることがなかった。
しかし、見事な手際で料理がどんどん進んでいく。
この人は一体何者なんだ?
改めて疑問が湧いてきたのだが、
そういう他人を詮索するのは好きではないので、
とにかくぼーっと待ってみることにした。
そうしていると、あっという間に料理が出来上がる。
テーブルには生姜焼きと思われる料理と
サラダ、ご飯や味噌汁が並んでいく。
これが本当に美味しそうなのだ。
母親の手料理を食べたことがない人生だったので、
ある意味で他人が作る「手料理」というものが初めてということになる。
それがこのクオリティなのは絶対幸運であると言える。
「どうしたの?」
「いえ……手料理というものを食べたことがないので、ちょっとびっくりして。」
「あらら。まぁ、その気持ちちょっとわかっちゃうんだよね。
だから料理教室行くようになったんだからさ」
そう言って、またも少し寂しそうな表情をする水野さん。
「よし。そんな話はいいから、食べよう食べよう!」
「はい! では、いただきます!」
一口食べてみると……とんでもなく美味しい。
そこから食べ終わるまでのことは、あまり覚えていないぐらいだ。
そのぐらい衝撃的な美味しさだったことを覚えている。
水野さんは自分の分をゆっくり食べながら、
料理にがっつく自分を優しい眼差しで見つめてくれていた。
そうして、あっという間に完食する。
「ご馳走さまでした!!! こんなにおいしい料理、人生初です。」
「それは大げさだよ~! でも、お口に合ってよかった。」
「合うどころか……なんか……本当にありがとうございます。」
「どうしたの?」
「今日初めてお会いして、偶然が重なってとはいえ、
こうやって美味しいご飯食べさせてもらっちゃって……」
「いいのいいの。なんか研修中から放っておけないなぁって感じだったからさ。
なんかこう、危うい感じがすごくしてて。」
「そうですか? 本人はあまりそういう意識はないんですが。」
「そうかそうか。それならいいんだけど。」
そう言ってニコリと微笑む水野さんの笑顔に、
本当に吸い込まれそうになる。
しかし、ここでおかしなことを起こしたら、
このアパートにも住んでいられなくなる。
高校生の男子なりに、
性欲より理性が勝った瞬間だった。
「あんまり長居するとご迷惑でしょうから、早めに部屋に戻りますね。」
「いいよいいよ。ちょっとお茶飲んでいきなよ。紅茶入れるからさ。」
「いえいえ、そんな悪いです。」
「う~ん、じゃあ、私からのどうしてもお願いって言ってもダメ?」
またもなんとも寂しそうな表情をする水野さん。
絶対わざとだろうであろうことはすぐにわかったが、
そういう形で断れない状況を作られてしまっては、
無理に帰るということもしづらくなった。
致し方なくもう少し滞在することにした。
そうこうして水野さんが
キッチンで紅茶を用意してくれている間、
改めて部屋を見渡してみると、
やはり高価そうなものが部屋にたくさんある。
このソファーにしても相当座り心地が良い。
「どうぞ、ちょっと熱いからゆっくり飲んでね。」
「ありがとうございます。いただきます。」
なんだかとてもいい香りがする。
こういう紅茶も初めてだ。
「どうしたの?」
「いえ、すんごくいい匂いがするなぁと。」
「そうだね。実家から妙にいい紅茶送られてきたから、せっかくだからと。」
「ご実家からですか?」
「さっきから部屋見てて、大学生の一人暮らしにしては物が多いって思わなかった?」
「多いとは思いませんが、なんか色々なものがあるなぁと。」
「ふふふ。そうやって素直に言ってくれるところもいいよね。
実家がね、お医者さんなのよ。だから子供の頃から何不自由なく育ったし、
なんなら忙しい両親の代わりに、お手伝いさんがいろいろやってくれたりって、
いわゆるお嬢様ってやつかな?」
なるほど……急にいろいろと納得がいった。
「でね。高校生までは両親に言われるままに医大の附属高校まで行ったんだけど、
ふと『私っていったい何がしたかったんだろう?』って疑問を持っちゃってね。
子供の頃、どうしてもやりたくてねだったのに買ってもらえなかったテレビゲームって、
どういうものだったんだろう? って妙に興味が湧いちゃって。
そこからコンピューターのことをいっぱい勉強して、
両親と大喧嘩したうえで今の大学に入ったってわけ」
なぜこんな話をしてくれるのだろう?
と不思議に思いながらも、
水野さんの話を聞いていた。
「でさ、どうせなら家にいたくないって、わざと遠くの学校を選んで一人暮らしも始めたの。
もちろん喧嘩はしたけど、両親は心配でしょうがないみたいで、
言ってもないのにお金も物も送ってくるし……。
おかげで余裕ある生活ができてるから感謝しないといけないんだけど、
こう一人で生きていけるようになりたいなというのもあってさ」
そこまで話して一息ついた水野さんが、
こちらをじっと見てこう言いました。
「で、ほんとに似た匂いをあなたに感じた。だから声をかけてみたんだけど、どうかな?」
うーん……このお嬢様、観察眼が鋭いというか、
少し怖さすら感じる。
実は彼女が言っていることは半分当たっていて、
半分外れているのだ。
さすがにここまでの話をされては
自分のことも誤魔化しきれないなと、
しぶしぶ自分も口を開いていく。
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