帰国した王子の受難

ユウキ

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「次、スヴェルト。これでも貴方はその娘と婚姻を結ぶと言うのね?」
「は、はい。真実の愛を見つけたんですっ」


呆然としていた兄は、急に指名されて気を取り直したように姿勢を正し、あれだけのやりとりが目の前で繰り広げられたと言うのに、はっきりとマーガレットとの婚姻を口にする。


「……そう、寂しくなるわね。何も持たせられないけれど……せめて私の予算から貴方の最低限の礼装だけは用意してあげましょう」
「??王妃陛下、それは認めてくれると言う事ですか?」


疑問符を頭に浮かべた兄は、寂しげに微笑む己の母と、その発言に訝しい表情を向ける。


「ええ、子爵家への婿入り。そこまで言うなら認めて差し上げてよ?」
「何故私が婿入りとなるのですか?!」

「あら?目の前での事、聞いてなかったの?何も瑕疵のない、王家の取り決めた婚約者を糾弾して破棄して、王家から侯爵家に多大になるであろう慰謝料を払わせておいて、王家にその原因で、かつ爵位のたりていない娘を迎え入れさせて、妃として遇しろと…そのような頭のおかしな事、貴方本気で言うつもり?」


王妃は扇で顔を隠したまま、コロコロと可笑しそうに笑う。


「それはっ……」

「馬鹿も休み休みなさいっ!」
「ひっっ!」


王妃様の叱責に、小さな悲鳴を上げた兄は、マーガレットと同じように真っ青になって震えていた。


「次、ヴィンセント。貴方、未成年のくせに勝手に夜会へ出て、止めるどころか追従して、国外追放がどうとか……?」

「ははっ……王妃殿下、いえ、あれはっっ」
「国外追放の過酷さも分からないから、幼気な令嬢に簡単に言ってしまうような暴君になってしまったのね。残念だわ。貴方、その過酷さを身をもって知るべきだと思うの。そうね、エリアルトの代わりに行かせましょうか。追放ではないけれど、知る人のいない場所で一から学んできなさい」

「そんな!母上っ!」
「あら、貴方の弁明は聞かないわよ?ユリアンナ嬢の弁明も忠告も、何一つ聞かなかったのだから。ここで貴方の弁明を聞いたら不公平だと思わない?」
「ぐっ……!」


弟も肩を震わせて、俯き押し黙ってしまった。ブーメランが自分に返るとは思っていなかったのか、それでも国外へ令嬢を放り出すことに比べれば、優しすぎる処置ではあるが。
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