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再び、重い溜息をつく。
「術師が必要なんだ。シュムほどとは言わなくても、セレン、お前を喚び出せる程度には力を持った奴がな」
大きな問題としては、二つある。
一つには、それなりの実力者となればおいそれとはおらず、当然この街を出なければならない。その上で、この場所すらも詳しく知らないまま探し出さなければならないのだ。どれだけの日数がかかるか見当もつかない。
もう一つは、二人が無契約の魔物ということだ。経験を積んだ魔導士ほど、魔物に対する目は厳しくなる。問答無用で攻撃を受けるということも大いに考えられた。
更に言えば、あまり考えたくもないことだが、ここを離れている間に魔法陣が発動した場合、最悪、一生こちらに残されることになる。
それらのことを察したセレンは、カイと同じように額を押さえた。
大海から小さな指輪を見つけ出すほどの困難さだ。可能性がないわけではないが、それよりも先に、シュムの方で何らかの決着がつく可能性の方が、ずっと高い。
「また、厄介なことをしてくれたぜ…」
「本当に。一体何者なのかしら、その男って…男?」
言ってから、セレンは考えもしなかったことに気付いた。顔を上げたカイと目が合って、同じ事に気付いたことを知る。
「人間じゃ、ないのか…?」
開かれたのは、あちらと繋ぐ扉。組成は似ていても、同じ世界を繋ぐものと異界を繋ぐものでは、根本的な性質が異なる。カイたちからすれば、その気配の違いは歴然としていた。
二人は、顔を見合わせた。
ハーネット家の四男に魔獣の肉をもたらした者が、自分たちの同類だったとする。おそらくは、四男が誰かの手を借りるか何らかの方法で、喚び出したのだろう。もしくは、向こうから接触してきたか。そうして、シュムがそれに気付いて向こうへの扉を開いたのだとすれば。
「――噂を、聞いたことがあるわ」
セレンが、いやに蒼褪めて、呟くように言った。
「変わり者の同類喰らいがいる、って。随分と人間に、興味を持っていたって…シュムに会う前のことだったから、あまり気にしていなかったけど…」
「ああ…。随分と、魔法陣にも詳しいってのが、いたな…」
もし、喰らう対象を人に向けたとすれば…そのまま、生き長らえているかもしれない。そして、不老者のことを知ったとすれば…。
お互いに蒼褪めた顔を見合わせていたが、期せずして同時に、首を振る。
「まさか、ね」
「ああ、考えすぎだ」
言葉に出して言うが、一度浮かび上がった不安は消えなかった。どこに証拠があるわけでもないのだが、いくらそんな偶然がと、思っても駄目だった。そしてシュムの名は、一部にではあっても確実に、あちらで知られている。大まかにではあるが、その性格や、性質も。
想像が、悪い方向に転がる。
そうして実のところ、そのあてずっぽうともいえる推論は、見事に的を射ていたのだった。しかし二人には、確認すらする手立てがない。
何とはなしに、二人は顔を俯かせた。
「そうよ。考えすぎよ、そんなこと。あるはずがないわ…」
「ああ…」
宿の床石が音を立て、開け放されたままだった戸口に人が立ったのは、そんなときだった。
「術師が必要なんだ。シュムほどとは言わなくても、セレン、お前を喚び出せる程度には力を持った奴がな」
大きな問題としては、二つある。
一つには、それなりの実力者となればおいそれとはおらず、当然この街を出なければならない。その上で、この場所すらも詳しく知らないまま探し出さなければならないのだ。どれだけの日数がかかるか見当もつかない。
もう一つは、二人が無契約の魔物ということだ。経験を積んだ魔導士ほど、魔物に対する目は厳しくなる。問答無用で攻撃を受けるということも大いに考えられた。
更に言えば、あまり考えたくもないことだが、ここを離れている間に魔法陣が発動した場合、最悪、一生こちらに残されることになる。
それらのことを察したセレンは、カイと同じように額を押さえた。
大海から小さな指輪を見つけ出すほどの困難さだ。可能性がないわけではないが、それよりも先に、シュムの方で何らかの決着がつく可能性の方が、ずっと高い。
「また、厄介なことをしてくれたぜ…」
「本当に。一体何者なのかしら、その男って…男?」
言ってから、セレンは考えもしなかったことに気付いた。顔を上げたカイと目が合って、同じ事に気付いたことを知る。
「人間じゃ、ないのか…?」
開かれたのは、あちらと繋ぐ扉。組成は似ていても、同じ世界を繋ぐものと異界を繋ぐものでは、根本的な性質が異なる。カイたちからすれば、その気配の違いは歴然としていた。
二人は、顔を見合わせた。
ハーネット家の四男に魔獣の肉をもたらした者が、自分たちの同類だったとする。おそらくは、四男が誰かの手を借りるか何らかの方法で、喚び出したのだろう。もしくは、向こうから接触してきたか。そうして、シュムがそれに気付いて向こうへの扉を開いたのだとすれば。
「――噂を、聞いたことがあるわ」
セレンが、いやに蒼褪めて、呟くように言った。
「変わり者の同類喰らいがいる、って。随分と人間に、興味を持っていたって…シュムに会う前のことだったから、あまり気にしていなかったけど…」
「ああ…。随分と、魔法陣にも詳しいってのが、いたな…」
もし、喰らう対象を人に向けたとすれば…そのまま、生き長らえているかもしれない。そして、不老者のことを知ったとすれば…。
お互いに蒼褪めた顔を見合わせていたが、期せずして同時に、首を振る。
「まさか、ね」
「ああ、考えすぎだ」
言葉に出して言うが、一度浮かび上がった不安は消えなかった。どこに証拠があるわけでもないのだが、いくらそんな偶然がと、思っても駄目だった。そしてシュムの名は、一部にではあっても確実に、あちらで知られている。大まかにではあるが、その性格や、性質も。
想像が、悪い方向に転がる。
そうして実のところ、そのあてずっぽうともいえる推論は、見事に的を射ていたのだった。しかし二人には、確認すらする手立てがない。
何とはなしに、二人は顔を俯かせた。
「そうよ。考えすぎよ、そんなこと。あるはずがないわ…」
「ああ…」
宿の床石が音を立て、開け放されたままだった戸口に人が立ったのは、そんなときだった。
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