30 / 229
探索
5-5
しおりを挟む
依然として片膝をついたまま、シュムは顔を上げた。
「断る、って言ったらどうする?」
「手間が増えるな」
「あ、そ。ところで、ひとつ忠告をしてあげよう。悪役というのは、姿を見せずにいる方が、得体の知れない恐怖感を植え付けられるものだ。例えば、姿を隠して私の友人を追い掛け回したように」
「…よくわかったな」
ひくりと、片頬が歪む。それに対してシュムは、おやおや、と言って肩をすくめた。
「カマをかけただけだったけど、図星だったらしいな。それも、今の状況から察するに、目的は私か。彼女も貧乏くじを引いたな。しかし、何がわからないって、なんだってこんな変な事態になってるかってことだな」
「ふっ、知りたいか」
いや、興味ないけど。本心をあっさりと覆い隠して、シュムはゆっくりと頷いた。
「ああ。こんなことになったんだ。理由もなしじゃあ話にならない」
平然とそんなことを言うが、干渉してくるから対抗するだけで、本当は知りたいとも思わない。だが、ここで男が三流役者よろしく説明を始めてくれれば、体力回復の時間稼ぎにはなる。
男が、にやりと笑った。あの、爬虫類じみた笑顔だった。
「その話は後にしよう。君はどうも、何かたくらんでいそうだ。もっとも、そんな身体で、何が出来るとも思わないが」
「そ」
軽く受け流す。残念ではあるが、まあ仕方ないだろうとあっさりと諦める。
そうして、男を見て、にやりと笑い返した。
「では、もう一つ忠告。勝ちたいと思うなら、悪役にはならないこと。何故なら、悪役というのは常に倒される立場の者を言うからだ。悪役とは、勝利できなかった側、敗者を言う」
言葉遊びのような自分の言葉が消え去るのを待たずに、シュムは前に跳んだ。鋭く、足払いをかける。
いくらか予想していたのか、男はそれをわずかに動くだけで避け、逆にシュムの身体を捕らえようと手を伸ばす。
だがシュムは、絶妙の間合いでその手を跳ね除けると、壁を蹴って反転し、男に相対した。男はまだ、笑っていた。
「無駄だということが、わからないのかい?」
「とりあえず、何でも試してみるたちなんでね、悪役さん。例えば――」
右手で素早く印を結んで、目晦ましの光の術を発動させる。男は、咄嗟のことに視力を奪われた。その隙にシュムが、目を堅く閉じたまま後ろ手に扉を探り、こじ開ける。
扉があることまでは視認していだが、鍵がかかっていないかは賭だった。ほとんど幸運に乗った状態で、シュムは、部屋を出ることに成功した。
「断る、って言ったらどうする?」
「手間が増えるな」
「あ、そ。ところで、ひとつ忠告をしてあげよう。悪役というのは、姿を見せずにいる方が、得体の知れない恐怖感を植え付けられるものだ。例えば、姿を隠して私の友人を追い掛け回したように」
「…よくわかったな」
ひくりと、片頬が歪む。それに対してシュムは、おやおや、と言って肩をすくめた。
「カマをかけただけだったけど、図星だったらしいな。それも、今の状況から察するに、目的は私か。彼女も貧乏くじを引いたな。しかし、何がわからないって、なんだってこんな変な事態になってるかってことだな」
「ふっ、知りたいか」
いや、興味ないけど。本心をあっさりと覆い隠して、シュムはゆっくりと頷いた。
「ああ。こんなことになったんだ。理由もなしじゃあ話にならない」
平然とそんなことを言うが、干渉してくるから対抗するだけで、本当は知りたいとも思わない。だが、ここで男が三流役者よろしく説明を始めてくれれば、体力回復の時間稼ぎにはなる。
男が、にやりと笑った。あの、爬虫類じみた笑顔だった。
「その話は後にしよう。君はどうも、何かたくらんでいそうだ。もっとも、そんな身体で、何が出来るとも思わないが」
「そ」
軽く受け流す。残念ではあるが、まあ仕方ないだろうとあっさりと諦める。
そうして、男を見て、にやりと笑い返した。
「では、もう一つ忠告。勝ちたいと思うなら、悪役にはならないこと。何故なら、悪役というのは常に倒される立場の者を言うからだ。悪役とは、勝利できなかった側、敗者を言う」
言葉遊びのような自分の言葉が消え去るのを待たずに、シュムは前に跳んだ。鋭く、足払いをかける。
いくらか予想していたのか、男はそれをわずかに動くだけで避け、逆にシュムの身体を捕らえようと手を伸ばす。
だがシュムは、絶妙の間合いでその手を跳ね除けると、壁を蹴って反転し、男に相対した。男はまだ、笑っていた。
「無駄だということが、わからないのかい?」
「とりあえず、何でも試してみるたちなんでね、悪役さん。例えば――」
右手で素早く印を結んで、目晦ましの光の術を発動させる。男は、咄嗟のことに視力を奪われた。その隙にシュムが、目を堅く閉じたまま後ろ手に扉を探り、こじ開ける。
扉があることまでは視認していだが、鍵がかかっていないかは賭だった。ほとんど幸運に乗った状態で、シュムは、部屋を出ることに成功した。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる