40 / 229
探索
7-5
しおりを挟む
「しかし、一応、けじめはつけねばならんな。報告は執務室で聞こう。アン、少し姉君をお借りするよ」
「少しだけよ。姉さん、お茶とお菓子を用意して待っているわ。早く来てね」
笑顔を残して、少女のような女性は軽やかに去って行った。一人去っただけで、急激に空気が変わった。それを察してか、エバンスは旅装を改めると言って去り、残されたシュムは、冷ややかに国王を見やった。
「相変わらず仲がいいようで、そこだけは安心したよ。アズを泣かせたら赦さないっていうのは、死ぬまで有効だからな」
「心得ているさ。アンジーは、最愛の妻だ。何故泣かせるようなことがある。それよりも、そこの青年は?」
「ああ…友人だ。今回の件に協力してもらって、まだ礼もしてないから一緒に来てもらった。悪いけど、少しこれと話があるんだ。先にアズのところに行っておいて。これを見せれば、誰か案内してくれる」
幾分素っ気無く、カイに王家の紋章の刻み込まれたメダルを投げ渡す。王族しか持つことのないメダルのぞんざいな扱いに、国王は、わざと苦い顔をして見せた。
「おやおや。仮にも、王家のものだぞ。もっと丁寧に扱ってくれてもいいだろう」
「うるさいな。いいんだよ、紋章なんて。見て判ればいいんだから。じゃあ、後で」
最後はカイに向けて言い置いて、自分よりも頭二つか三つ分は高いだろう国王の服の裾を掴むと、問答無用で引っ張って行く。
「おい。さっき、威厳がどうこう言っていなかったか? 子どもに引っ張られる方が、威厳がないと思うぞ」
「…やっぱあんた、嫌いだ」
睨みつけながらも、シュムは手を放した。しかし足は止めず、先に立って歩いていく。周囲の者も、すぐ後ろを国王が笑顔で歩いていることもあってか、咎めることもしない。普通だったら不敬罪じゃないのかと、シュムは半ば呆れて半ば諦めていた。
執務室は、城の中心部にある。
華美を好まない国王夫妻の傾向か、国王の執務室にも関わらず、警備長などのものと大差ない。あるとすれば、一応は肖像画がかけられており、隣には護衛の者が控えているくらいだろうか。
「それで、今回は何をやったんだ?」
「人聞きの悪い。こっちは王サマと違って、厄介事を引き起こしたことはない。巻き込まれてるんだ」
椅子に座った国王を睨みつけて、シュムはわざとらしく溜息をついた。
「まあとりあえず、人間と向こうの奴とに喰われそうになったよ。詳しいことは、エヴァに話したからそっちから訊いて。ああ、お金返しとく」
背負っていたリュックを、執務机の上に置く。全て、国庫からの借り物だ。国王は、紙幣の詰まった袋をつまらなさそうに見た。
「今回の給料として、あげようか?」
「給料分はきっちりもらってる。そんなことをするから、家臣が泣くんだろう。しっかりしてろ、王サマ。そろそろ、アズのところに行くか?」
「ああ――そうだな。…シュム、辛くはないか?」
「あんたを思いっきり殴れば、少しはすっきりするかもね」
さらりと流すと、やはりシュムが先に立って、二人は執務室を後にした。
「少しだけよ。姉さん、お茶とお菓子を用意して待っているわ。早く来てね」
笑顔を残して、少女のような女性は軽やかに去って行った。一人去っただけで、急激に空気が変わった。それを察してか、エバンスは旅装を改めると言って去り、残されたシュムは、冷ややかに国王を見やった。
「相変わらず仲がいいようで、そこだけは安心したよ。アズを泣かせたら赦さないっていうのは、死ぬまで有効だからな」
「心得ているさ。アンジーは、最愛の妻だ。何故泣かせるようなことがある。それよりも、そこの青年は?」
「ああ…友人だ。今回の件に協力してもらって、まだ礼もしてないから一緒に来てもらった。悪いけど、少しこれと話があるんだ。先にアズのところに行っておいて。これを見せれば、誰か案内してくれる」
幾分素っ気無く、カイに王家の紋章の刻み込まれたメダルを投げ渡す。王族しか持つことのないメダルのぞんざいな扱いに、国王は、わざと苦い顔をして見せた。
「おやおや。仮にも、王家のものだぞ。もっと丁寧に扱ってくれてもいいだろう」
「うるさいな。いいんだよ、紋章なんて。見て判ればいいんだから。じゃあ、後で」
最後はカイに向けて言い置いて、自分よりも頭二つか三つ分は高いだろう国王の服の裾を掴むと、問答無用で引っ張って行く。
「おい。さっき、威厳がどうこう言っていなかったか? 子どもに引っ張られる方が、威厳がないと思うぞ」
「…やっぱあんた、嫌いだ」
睨みつけながらも、シュムは手を放した。しかし足は止めず、先に立って歩いていく。周囲の者も、すぐ後ろを国王が笑顔で歩いていることもあってか、咎めることもしない。普通だったら不敬罪じゃないのかと、シュムは半ば呆れて半ば諦めていた。
執務室は、城の中心部にある。
華美を好まない国王夫妻の傾向か、国王の執務室にも関わらず、警備長などのものと大差ない。あるとすれば、一応は肖像画がかけられており、隣には護衛の者が控えているくらいだろうか。
「それで、今回は何をやったんだ?」
「人聞きの悪い。こっちは王サマと違って、厄介事を引き起こしたことはない。巻き込まれてるんだ」
椅子に座った国王を睨みつけて、シュムはわざとらしく溜息をついた。
「まあとりあえず、人間と向こうの奴とに喰われそうになったよ。詳しいことは、エヴァに話したからそっちから訊いて。ああ、お金返しとく」
背負っていたリュックを、執務机の上に置く。全て、国庫からの借り物だ。国王は、紙幣の詰まった袋をつまらなさそうに見た。
「今回の給料として、あげようか?」
「給料分はきっちりもらってる。そんなことをするから、家臣が泣くんだろう。しっかりしてろ、王サマ。そろそろ、アズのところに行くか?」
「ああ――そうだな。…シュム、辛くはないか?」
「あんたを思いっきり殴れば、少しはすっきりするかもね」
さらりと流すと、やはりシュムが先に立って、二人は執務室を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる