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居残
3-5
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「村人は逃せたのか?」
「いいから、出ろ」
エバンスは、むすっとして、不本意極まりないというかおをしている。
しかし、ジャックから少し距離を置いて立つ氷の固まりが湯気を立てて溶けているのに気付くと、顔色が変わる。急いで、その側に駆け寄った。
「何を…」
正気かと、ジャックが口を開く前に呪文の詠唱が始まり、ここで結界を張る気なのだと気付く。それならと、いくらか厚い氷を、更に張り付ける。
それに気付いて、エバンスが目線で礼を言った。
ジャックは、エバンスが魔物を懼れているのを知っていた。だからこそ知ろうとしたのだろうし、自分に対して緊張もしていた。それなのに、恐れからではなく、扱いは人と変えない。妙なところで律儀だと思った。
不意に、エバンスは床を強く踏んだ。
「っ?!」
溶けたように所々消失していた床は、耐えきれず、それとエバンスの立っているあたりが落ちた。
「大丈夫か?」
自分まで落ちないように慎重に体重をかけて覗き込むと、エバンスは上手く着地したようだったが、少し首を傾げて、こちらを見上げている。目が合った。
「…上るのか?」
地面と床とを見比べる様子にそう訊くと、こくりと頷く。相変わらず、呪文は詠唱したままだ。落下中に一瞬途切れただけなのだから、物凄い。
小さな地下の保管庫にあたってしまったらしく、ちょっとした落とし穴にはまった状態だ。肩をすくめて、ジャックはそれの氷を再び強化すると、天辺を平らにしたそれと床に足をかけて、エバンスの腕を掴んで引き上げる。
近くではまた床を踏み抜く恐れがあったので、少し離れたあたりに投げる。着地は、上手くできたようだった。
そして、ジャックが氷に置いた足を戻している間に、穴の淵にきて、薄くなってきた氷の上に、掌をかざす。
「――何人たりとも、たち入るを許さず」
言葉を終えるのと同時に、見えない壁が、地下の壁に沿って造られる。
溜息をつくと、エバンスは膝を腹って立ち上がった。
「ありがとう、助かった」
正面からの礼にジャックは戸惑ったが、エバンスは、既に歩き出してしまっている。一瞬迷って、後を追う。
「あれでいいのか?」
「今は、あれしかできない。そのうちに、方法を探すかあの人にでも頼んで、どうにかする。それよりも、姿は、もう無理なのか?」
「姿?」
「元に戻っている。今から村人に会うから、変えるのが負担になるなら、森に入っていてくれ」
言われて、姿を変える分まで、術にあてていたのだと気付く。そのくらいの余力はあると言いかけたが、やめて、一旦エバンスとは別れることにした。
とりあえずは、この騒動はこれで終わりなのだろう。何故か安堵と、達成感のようなものがあった。
「いいから、出ろ」
エバンスは、むすっとして、不本意極まりないというかおをしている。
しかし、ジャックから少し距離を置いて立つ氷の固まりが湯気を立てて溶けているのに気付くと、顔色が変わる。急いで、その側に駆け寄った。
「何を…」
正気かと、ジャックが口を開く前に呪文の詠唱が始まり、ここで結界を張る気なのだと気付く。それならと、いくらか厚い氷を、更に張り付ける。
それに気付いて、エバンスが目線で礼を言った。
ジャックは、エバンスが魔物を懼れているのを知っていた。だからこそ知ろうとしたのだろうし、自分に対して緊張もしていた。それなのに、恐れからではなく、扱いは人と変えない。妙なところで律儀だと思った。
不意に、エバンスは床を強く踏んだ。
「っ?!」
溶けたように所々消失していた床は、耐えきれず、それとエバンスの立っているあたりが落ちた。
「大丈夫か?」
自分まで落ちないように慎重に体重をかけて覗き込むと、エバンスは上手く着地したようだったが、少し首を傾げて、こちらを見上げている。目が合った。
「…上るのか?」
地面と床とを見比べる様子にそう訊くと、こくりと頷く。相変わらず、呪文は詠唱したままだ。落下中に一瞬途切れただけなのだから、物凄い。
小さな地下の保管庫にあたってしまったらしく、ちょっとした落とし穴にはまった状態だ。肩をすくめて、ジャックはそれの氷を再び強化すると、天辺を平らにしたそれと床に足をかけて、エバンスの腕を掴んで引き上げる。
近くではまた床を踏み抜く恐れがあったので、少し離れたあたりに投げる。着地は、上手くできたようだった。
そして、ジャックが氷に置いた足を戻している間に、穴の淵にきて、薄くなってきた氷の上に、掌をかざす。
「――何人たりとも、たち入るを許さず」
言葉を終えるのと同時に、見えない壁が、地下の壁に沿って造られる。
溜息をつくと、エバンスは膝を腹って立ち上がった。
「ありがとう、助かった」
正面からの礼にジャックは戸惑ったが、エバンスは、既に歩き出してしまっている。一瞬迷って、後を追う。
「あれでいいのか?」
「今は、あれしかできない。そのうちに、方法を探すかあの人にでも頼んで、どうにかする。それよりも、姿は、もう無理なのか?」
「姿?」
「元に戻っている。今から村人に会うから、変えるのが負担になるなら、森に入っていてくれ」
言われて、姿を変える分まで、術にあてていたのだと気付く。そのくらいの余力はあると言いかけたが、やめて、一旦エバンスとは別れることにした。
とりあえずは、この騒動はこれで終わりなのだろう。何故か安堵と、達成感のようなものがあった。
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