台風の目(仮)

来条恵夢

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淑女

2-2

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 幼年時から、あるいは生れ落ちたときから、人とは違うと気付いていた。かといって、魔物に受け入れられたわけでもない。どこで誰と笑って話していても、その違いはどこかに棘として引っかかっていた。自分にか、相手にか。そんな裏もなく遊ぶような会話は、もしかするとはじめてかもしれない。 
 ロナルドだって、情愛を示しているわけではない。それでも、何でもない会話が楽しかった。 
「じゃなくって、にーさんだよ。にーさんは、どこで覚えたのさ?」 
「…友人の付き合いで、なんとなく」 
「友人? 友達いるんだ? へえ、ますます変わってるなあ、にーさん」 
 ロナルドはむっつりと黙り込んでしまったが、ケリーは、知らずに微笑していた。 
 パーティーに付き合うだけで、二週間分。数日拘束されるにしても、この男やエミリアといればいいだけだ。楽な仕事だ。――ロナルドが止めなければもっと簡単だったのだが、まあそれは、会話が楽しいからそれで良しとしよう。 
「なあ」 
 いつの間にか立ち上がり、本棚とも呼べない本棚をながめやっていたロナルドが、ケリーの方を見もせずに声をかけた。 
「おかしいと思わないか」 
「何が?」 
「たかだか、パーティーだろう? 行かないなり一人で行くなりすればいいじゃないか」 
「女のプライドってやつじゃないの? ここらの人とろくに交流はないみたいだから、余計に見せ付けてやりたいと思ったとか?」 
「そんなことに、命をかけるか? あの嬢ちゃんは無知だったが、馬鹿じゃない、と思う。それでも、契約を結んだ。しかも、両方と。片方で十分だったはずだろう。その上、俺たちに騙されないとも限らないのに、だ。何故だ?」 
 そう言いながら、書を数冊、引き抜いてぱらぱらとめくる。何度も開いたのか、どれもぼろぼろだった。 
 そうして、窓側の机の上に置かれた書に手を伸ばす。 
「それに、兄はどこに行ったんだ? こんなものを置いて他に住むとも思えないが、ここで暮らしている感じもない」 
「うーん、ちょっと考えすぎじゃない?」 
「どうだろうな」 
 ロナルド自身、本気で何かあると疑っているという感じではない。ただ、疑問を並べてみただけだろう。 
 やがて、飽きたのか、視線を窓外へと転じた。遠くに見える高い建物が、ケリーらの行くパーティーが行われる城らしい。地方城主の一人娘の、生誕パーティーだということだった。 
「ケリー、ロナルド、一度着てみてくれない?」 
「はーい、っと」 
 顔をのぞかせたエミリアに、軽く応じて立ち上がった。
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