台風の目(仮)

来条恵夢

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胎動

5-4

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 門番にロバートかキール、それかエバンスを呼んでくれるよう頼むと、二人立っていたうちの一人が確認に向かい、ロバートを連れてきた。驚いた様子だったが、カイが書庫を見せてもらいたいと告げると、とりあえず肯いて先導した。
「お嬢さん、どうかしたんですか」
「少し、熱があるみたいだ」
 それなら後でスープでも届けましょうかと言う。前を歩きながら振り向いて言う様子は、心底心配してくれているとわかり、シュムは申し訳なく思った。
 まとわりつくようなもやはまだ晴れていないが、頭は、いくらか回転を戻していた。自分が口にした言葉の飛躍ぶりに、今になって唖然とする。
 今度こそ一人で歩けると思ったが、シュム一人の体を抱えるくらいでカイの負担にならないことはわかっているので、大人しくしていることにした。微熱があるのは確実で、その一点だけでも、親ばかの親のような最近の状態では、下ろしてはくれないだろう。
「カイ」
「大人しくしてろ」
「書庫で何するの? 難しい本は読めないでしょ」
「魔導師に読ませる」 
 予定ではなく確定らしい発言に、いささか呆れる。エバンスも、遊びに来ているわけではない。そのことはわかっているはずだというのに、一体何を言っているのだろう。
「あたしが読めるよ」
 じっと、検分するような視線にさらされる。歩きながらで、よくつまずかないものだ。
 溜息に似た吐息と共に、視線は正面に戻された。
「人手は多い方がいいだろう」
「着きましたよ。熱があるなら、お嬢さんはどこかでお休みになったほうがいいんじゃないですか?」
「ああ。だが先に、ここの主と客を連れてきてくれないか」
「は?」
 癖になっている名前を言わない言い方のせいで、ロバートが首を傾げる。カイは、こういった屋敷では大概客の一人や二人は常在していることを知らないか失念しているらしい。ちなみに、もっと規模が大きくなれば、けたが一つは変わることになる。
「すみません、ご当主の弟君とエバンス・リーさんをお願いします」
「ああ。約束は出来ませんが、お知らせしてきますよ。とりあえずお嬢さんは、隅の長椅子ソファーにでも寝ていなさいな」
「ありがとう」
 言われて見ると、内側からふさいだ窓のところに、どっしりとした座り心地の良さそうな椅子ソファーがあった。気のいいロバートが書庫に明かりを灯し、戸を閉めて行くよりも先に、カイにそっと下ろされる。
 シュム一人ぐらい楽に寝そべれる大きさだが、気がひけて深く腰かける程度にした。 
 早くも探し物を開始しようとするのか、シュムから遠ざかろうとするカイの服の端を、咄嗟とっさにつかんで引き止める。勢いがつきすぎたのか、一瞬、首が絞まったようだった。
「……シュム」
「ごめん、悪意はなかったんだけど」
 笑って、手を離す。向き直ったカイは、なんだと言いたげに眉根を寄せた。
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