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胎動
6-3
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「気配って、仲間の感じみたいなの?」
はじめに言葉を発したシュムに今度は視線が集まり、小さく首を傾げる。空になったスープ皿を、テーブルに置く。
「今更だけど、はじめまして。シュム・リーディストです。あなたはなんて呼べばいい?」
「これはご丁寧に。俺はキール・ドーター。できたらファーストネームでどうぞ」
「あれ、いいの? 名前、大丈夫?」
「これでの縛りはあんまりないから。リー導師も、そう呼んでくれていいぜ?」
懸念が一つあっさりと片付き、拍子抜けする。訊けばよかったのか。しかも、名を呼ばずにいたことを気付かれていた。
シュムの隣にも、意外そうなかおが並んでいた。彼にとっても予想外だったようだ。
「話を戻すけど、仲間を感じるときみたいに? カイは、そういった感じはしないって言ってたんだけど。あ、カイってこれね」
「物扱いかよ」
拗ねない拗ねない、と軽く流して、回答を期待するように彼を見る。
部屋の主はそんな二人の様子を意外そうに見ていたが、シュムの視線に気付いて首を捻った。
「似てるといえば似てるけど、そこまではっきりはしてない。って言っても俺、あんまりお仲間に会わないから、はっきりしないけど。でも嬢ちゃん」
「シュム」
「嬢ちゃん。あんた、今熱があるんだろ? あの人も、微熱が続いてずっと体のだるさを訴えてた。ちょっとごめんよ」
出し抜けに立ち上がり、シュムの額に触れる。熱をみる動作に似ているが、違うようだ。力――と呼べばいいのか、そういったものの流れがあるのがわかる。それが、契約終了時に報酬を支払うときの光景に似ていて、思わず駆け寄って手を叩き落そうとする。
それを、男が遮った。
「流れが逆だ。チビは、シュムに注いでる」
「…そんなことが?」
それではまるで、治癒の術ではないか。呆然と、二人の様子に見入った。
「俺にはできないけどな」
ごく自然に会話を交わしてから、そんなことははじめてだと気付く。ずっと、一方的に警戒していた。
一時的なものなのか、半年前に不意打ちで契約の獣と契約を交わして生活を共にしたりしていたからなのかと、己を危ぶむ。彼らと馴れ合うつもりはないというのに。
しばらくしてキールが手を離すと、シュムは、驚いたように目を瞠った。
「ありがとう?」
「いーって。別に俺、食事で賄えるし」
言って、危なげのない足取りで椅子に戻る。その際にまた、クッキーを拾い上げていった。心なしか、シュムのやつれがなくなったようにも見える。
「いいのか?」
「うん? 村にいるなら、聞いてない? 死んじゃったんだよ」
「そうか」
二人の会話の本当のところはわからないが、キールの母のことを言っているのだと察しはついた。母親に同じことをしていたと、そういうことになるのだろか。
枷だったという、兄の言葉が脳裏をよぎる。
「あたしの状態とキールのお母さんが同じ症状だってことなら、原因も同じ? お母さんは、いつから?」
「俺を生んだ後には、寝たり起きたりだったって聞いたけどな。おかげで身近すぎて、今嬢ちゃんに会うまで違いがあったことにも気づいてなかった。ちなみにあの人は、徐々に衰弱していった」
「キールがさっきみたいなことをして、それを延ばしてた?」
「えー…と」
「謙遜とか照れるのはなしでね。あたし、このまま衰弱死するのはごめんだから」
顔の下半分を手で覆って表情を隠そうとしたキールに、シュムがにっこりと笑いかける。済んだことはそれとして、常に前向きなのが彼女だ。無神経さも、故意に織り込んだものだろう。
はじめに言葉を発したシュムに今度は視線が集まり、小さく首を傾げる。空になったスープ皿を、テーブルに置く。
「今更だけど、はじめまして。シュム・リーディストです。あなたはなんて呼べばいい?」
「これはご丁寧に。俺はキール・ドーター。できたらファーストネームでどうぞ」
「あれ、いいの? 名前、大丈夫?」
「これでの縛りはあんまりないから。リー導師も、そう呼んでくれていいぜ?」
懸念が一つあっさりと片付き、拍子抜けする。訊けばよかったのか。しかも、名を呼ばずにいたことを気付かれていた。
シュムの隣にも、意外そうなかおが並んでいた。彼にとっても予想外だったようだ。
「話を戻すけど、仲間を感じるときみたいに? カイは、そういった感じはしないって言ってたんだけど。あ、カイってこれね」
「物扱いかよ」
拗ねない拗ねない、と軽く流して、回答を期待するように彼を見る。
部屋の主はそんな二人の様子を意外そうに見ていたが、シュムの視線に気付いて首を捻った。
「似てるといえば似てるけど、そこまではっきりはしてない。って言っても俺、あんまりお仲間に会わないから、はっきりしないけど。でも嬢ちゃん」
「シュム」
「嬢ちゃん。あんた、今熱があるんだろ? あの人も、微熱が続いてずっと体のだるさを訴えてた。ちょっとごめんよ」
出し抜けに立ち上がり、シュムの額に触れる。熱をみる動作に似ているが、違うようだ。力――と呼べばいいのか、そういったものの流れがあるのがわかる。それが、契約終了時に報酬を支払うときの光景に似ていて、思わず駆け寄って手を叩き落そうとする。
それを、男が遮った。
「流れが逆だ。チビは、シュムに注いでる」
「…そんなことが?」
それではまるで、治癒の術ではないか。呆然と、二人の様子に見入った。
「俺にはできないけどな」
ごく自然に会話を交わしてから、そんなことははじめてだと気付く。ずっと、一方的に警戒していた。
一時的なものなのか、半年前に不意打ちで契約の獣と契約を交わして生活を共にしたりしていたからなのかと、己を危ぶむ。彼らと馴れ合うつもりはないというのに。
しばらくしてキールが手を離すと、シュムは、驚いたように目を瞠った。
「ありがとう?」
「いーって。別に俺、食事で賄えるし」
言って、危なげのない足取りで椅子に戻る。その際にまた、クッキーを拾い上げていった。心なしか、シュムのやつれがなくなったようにも見える。
「いいのか?」
「うん? 村にいるなら、聞いてない? 死んじゃったんだよ」
「そうか」
二人の会話の本当のところはわからないが、キールの母のことを言っているのだと察しはついた。母親に同じことをしていたと、そういうことになるのだろか。
枷だったという、兄の言葉が脳裏をよぎる。
「あたしの状態とキールのお母さんが同じ症状だってことなら、原因も同じ? お母さんは、いつから?」
「俺を生んだ後には、寝たり起きたりだったって聞いたけどな。おかげで身近すぎて、今嬢ちゃんに会うまで違いがあったことにも気づいてなかった。ちなみにあの人は、徐々に衰弱していった」
「キールがさっきみたいなことをして、それを延ばしてた?」
「えー…と」
「謙遜とか照れるのはなしでね。あたし、このまま衰弱死するのはごめんだから」
顔の下半分を手で覆って表情を隠そうとしたキールに、シュムがにっこりと笑いかける。済んだことはそれとして、常に前向きなのが彼女だ。無神経さも、故意に織り込んだものだろう。
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