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胎動
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どうしたって相容れないものというのが、この世にはある。ナメクジでもカエルでもカタツムリでも、湿地帯や野原を歩けばわんさかいるのだが、慣れないものは慣れなかった。
「仕方ないなー、じゃ、俺がなんとかするか。剣借りていい?」
「だっ、駄目っ、ぬるぬるがつく!」
「…了解」
動けないからと手をつなぐのではなくシュムに腕をつかませ、キールは深呼吸のように息を吸った。
「えーっと。あ、こいつでいいか」
呟きが聞こえ、土壁に掌を当てたようだった。そして、それはすぐに起こった。
壁を這い、のぞいていた木の根が、うねってカエルを絡め取る。ぬめりが強調されるような光景に咄嗟に目をつぶってしまったシュムは、そのまま体を硬直させていたが、しばらくしてからキールに肩を叩かれ、ようやく恐る恐るとまぶたを上げた。
そこには、垂れ下がった木の根と、消し炭に加わって転がった黒い小さな塊があった。
「えーと?」
「根っこを一気に成長させて、そのままカエルから養分を取らせた」
「…それって、人にも有効?」
「あー…ああ、多分ねー。危険人物認定?」
キールは、自分の立場をおそらくは正確に理解している。相手がエバンスや彼の兄でなければ、という但し書きつきではあるが。
それなのに取り繕わず、逃げるような素振りもないのは、諦めているからだろうか。大切にしていた母を亡くし、そこで放棄してしまったのだろうか。もしこれで逃走など企てていれば、シュムやエバンスよりもずっと役者が上ということになる。
「決めるのは、あたしじゃないよ。卑怯な言い方だけどね」
もしシュムがエバンスの立場にあれば――国の平和と国王一家の幸せを心底願い、そのために努力を惜しまない人物であれば、きっとキールの抹消を決めるだろう。彼の存在はあまりに危うく、カイたちの住む異世界とこちらとの均衡を崩す一手になりかねない。他国との関係も、情報が流れれば亀裂を入れると目に見える。
しかし、エバンスがそれと割り切って行動できるような男であれば、国王は彼を手元には置かなかっただろう。
そう考えたが、あくまで予測だ。下手な期待を持たせないように、シュムは話をそこで打ち切った。
「それより、この根どうするの? このまま垂らしておいて大丈夫? 水分が取れなくて枯れたり他の生き物襲ったりしない?」
「んー」
首を傾げ、キールは無造作に根に手を伸ばした。触れて、引っ張ってみる。
「襲うのは大丈夫そうだなー。枯れるのは、どうだろ。俺、植物には詳しくないからなー。とりあえず土に埋めるか」
そう言って、土壁を軽く掘って根を沿わせ、そこで頭を掻く。粘着性のない土では、根を壁に留まらせることは難しそうだった。
シュムは肩をすくめ、つかんでいた手を絡ませて、両手を空けた。それで印を結び、短い呪で水を呼び――術が発動しないことに気付いた。
「え?」
慌てて、召喚術に切り替えてみる。これは、印も魔法陣を描く必要もない。意識を集中させるだけで、勝手に生成される。だがそれも、反応がなかった。
「え――」
あるときは疎みながらも、十一で不老を発生してからというもの、身に添い続けた力がなくなっている。前にも似た状態に陥ったことはあるが、あの時は、予想がついていた。今は――予想外で元に戻るのかもわからない。もしかすると一生、このままかもしれない。
ただただ呆然と、シュムは立ち尽くした。
「仕方ないなー、じゃ、俺がなんとかするか。剣借りていい?」
「だっ、駄目っ、ぬるぬるがつく!」
「…了解」
動けないからと手をつなぐのではなくシュムに腕をつかませ、キールは深呼吸のように息を吸った。
「えーっと。あ、こいつでいいか」
呟きが聞こえ、土壁に掌を当てたようだった。そして、それはすぐに起こった。
壁を這い、のぞいていた木の根が、うねってカエルを絡め取る。ぬめりが強調されるような光景に咄嗟に目をつぶってしまったシュムは、そのまま体を硬直させていたが、しばらくしてからキールに肩を叩かれ、ようやく恐る恐るとまぶたを上げた。
そこには、垂れ下がった木の根と、消し炭に加わって転がった黒い小さな塊があった。
「えーと?」
「根っこを一気に成長させて、そのままカエルから養分を取らせた」
「…それって、人にも有効?」
「あー…ああ、多分ねー。危険人物認定?」
キールは、自分の立場をおそらくは正確に理解している。相手がエバンスや彼の兄でなければ、という但し書きつきではあるが。
それなのに取り繕わず、逃げるような素振りもないのは、諦めているからだろうか。大切にしていた母を亡くし、そこで放棄してしまったのだろうか。もしこれで逃走など企てていれば、シュムやエバンスよりもずっと役者が上ということになる。
「決めるのは、あたしじゃないよ。卑怯な言い方だけどね」
もしシュムがエバンスの立場にあれば――国の平和と国王一家の幸せを心底願い、そのために努力を惜しまない人物であれば、きっとキールの抹消を決めるだろう。彼の存在はあまりに危うく、カイたちの住む異世界とこちらとの均衡を崩す一手になりかねない。他国との関係も、情報が流れれば亀裂を入れると目に見える。
しかし、エバンスがそれと割り切って行動できるような男であれば、国王は彼を手元には置かなかっただろう。
そう考えたが、あくまで予測だ。下手な期待を持たせないように、シュムは話をそこで打ち切った。
「それより、この根どうするの? このまま垂らしておいて大丈夫? 水分が取れなくて枯れたり他の生き物襲ったりしない?」
「んー」
首を傾げ、キールは無造作に根に手を伸ばした。触れて、引っ張ってみる。
「襲うのは大丈夫そうだなー。枯れるのは、どうだろ。俺、植物には詳しくないからなー。とりあえず土に埋めるか」
そう言って、土壁を軽く掘って根を沿わせ、そこで頭を掻く。粘着性のない土では、根を壁に留まらせることは難しそうだった。
シュムは肩をすくめ、つかんでいた手を絡ませて、両手を空けた。それで印を結び、短い呪で水を呼び――術が発動しないことに気付いた。
「え?」
慌てて、召喚術に切り替えてみる。これは、印も魔法陣を描く必要もない。意識を集中させるだけで、勝手に生成される。だがそれも、反応がなかった。
「え――」
あるときは疎みながらも、十一で不老を発生してからというもの、身に添い続けた力がなくなっている。前にも似た状態に陥ったことはあるが、あの時は、予想がついていた。今は――予想外で元に戻るのかもわからない。もしかすると一生、このままかもしれない。
ただただ呆然と、シュムは立ち尽くした。
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