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胎動
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青年の足取りは、危なっかしかった。ふらふらと揺れて、酔っ払いの千鳥足かのようだ。大きく逸れそうになると、意識を戻してからろくに表情を変えないエバンスが、そっと軌道修正する。
その反対の手には、たいまつが握られている。ちなみに、カイと青年の手には斧。
青年は、エバンスをじとりとみつめた。
「俺さー? あんなひどいもん飲まされにゃならんような酷いこと、した?」
「真夏だったら、もっと苦くなってましたよ。真冬までとは言わなくても、今の時期だった幸運に感謝してください」
「いや、苦味っていうかえぐ味が…」
同じ薬草でも季節で味が異なってくるのか、それとも違う薬草を使うのか。そのあたりは、後でシュムにでも訊けばわかるだろうか。
しかしなんとも呑気で、思わず、カイは笑ってしまった。気付かれて、二人から睨みつけられる。
「なんだよにーさん、ヒトゴトだと思って。後で、嬢ちゃんに言いつけてやる」
「場所を覚えているのは貴方だけなんですから、しっかりと見てください」
「あーはいはい」
カイとて、はっきりと覚えているわけではない。だが、きっとあの声が姿を見せる――というのも妙な言い方だが、何がしかの道案内をかって出てくれるだろうという、根拠のない確信があった。
しかし、それを口にするのも無責任のような気がして、とりあえず覚えている限りの道を、こうして進んでいる。まだ、エバンスにも覚えのあるところだろう。そろそろ、そうでもなくなるだろうが。
『あら。団体になっちゃって』
出た、と思った。やはり声だけだ。
だが不思議なことに、他の二人の反応はない。カイは一人、首をひねった。
「なあ。声、聞こえてないのか?」
「は?」
「いるんですか?」
エバンスの返答に、青年が、ああそうか、と手を打つ。あの恐ろしい液体のせいで、記憶力まで落ちているのだろうか。
声は、飄々と告げた。
『言ってなかったかしら? あなた、私の声が聞こえる稀有な存在なのよね』
「そういうことは早く言え」
『だって、要件だけ話せって言って、あなた、さっさと行っちゃったじゃない』
溜息をこぼしたカイは、同行者たちの視線に気付き、自分にだけ聞こえるらしい声のことを伝えた。
「僕たちの声は、聞こえるんですか?」
『ええ』
「聞こえるらしい」
まどろっこしい。
だがこれで、こちらの声が聞こえていなければ、更にややこしくなるところだった。カイはそう思って半ば安堵の息を吐いたが、自分が臨時の通訳になってしまったことにも気付き、今度は深々と、溜息をついた。
その反対の手には、たいまつが握られている。ちなみに、カイと青年の手には斧。
青年は、エバンスをじとりとみつめた。
「俺さー? あんなひどいもん飲まされにゃならんような酷いこと、した?」
「真夏だったら、もっと苦くなってましたよ。真冬までとは言わなくても、今の時期だった幸運に感謝してください」
「いや、苦味っていうかえぐ味が…」
同じ薬草でも季節で味が異なってくるのか、それとも違う薬草を使うのか。そのあたりは、後でシュムにでも訊けばわかるだろうか。
しかしなんとも呑気で、思わず、カイは笑ってしまった。気付かれて、二人から睨みつけられる。
「なんだよにーさん、ヒトゴトだと思って。後で、嬢ちゃんに言いつけてやる」
「場所を覚えているのは貴方だけなんですから、しっかりと見てください」
「あーはいはい」
カイとて、はっきりと覚えているわけではない。だが、きっとあの声が姿を見せる――というのも妙な言い方だが、何がしかの道案内をかって出てくれるだろうという、根拠のない確信があった。
しかし、それを口にするのも無責任のような気がして、とりあえず覚えている限りの道を、こうして進んでいる。まだ、エバンスにも覚えのあるところだろう。そろそろ、そうでもなくなるだろうが。
『あら。団体になっちゃって』
出た、と思った。やはり声だけだ。
だが不思議なことに、他の二人の反応はない。カイは一人、首をひねった。
「なあ。声、聞こえてないのか?」
「は?」
「いるんですか?」
エバンスの返答に、青年が、ああそうか、と手を打つ。あの恐ろしい液体のせいで、記憶力まで落ちているのだろうか。
声は、飄々と告げた。
『言ってなかったかしら? あなた、私の声が聞こえる稀有な存在なのよね』
「そういうことは早く言え」
『だって、要件だけ話せって言って、あなた、さっさと行っちゃったじゃない』
溜息をこぼしたカイは、同行者たちの視線に気付き、自分にだけ聞こえるらしい声のことを伝えた。
「僕たちの声は、聞こえるんですか?」
『ええ』
「聞こえるらしい」
まどろっこしい。
だがこれで、こちらの声が聞こえていなければ、更にややこしくなるところだった。カイはそう思って半ば安堵の息を吐いたが、自分が臨時の通訳になってしまったことにも気付き、今度は深々と、溜息をついた。
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