158 / 229
入替
2-1
しおりを挟む
何故こんなことになったのかがわからない。こんなこと――街の住人総出、とまでは言わないまでも大人数に、追い回される破目になっているのか。
「シュム」
「へーき…じゃ、ない、けど、まあ…なんとか」
物凄い形相で追い掛け回されているがどうにも殺すつもりはないようで、ひたすら逃げ回っていれば疲れもする。追い掛け回す方は交代もできるが、こちらはそうはいかない。子どもの体ではあるがしっかりと鍛えているシュムでも、さすがに息が切れている。
カイは、汗ばみながらも微笑するシュムにもどかしくなった。
あのくらいの人数なら、殺すことを懼れなければどうにでもできる。街からの脱出を阻む囲みも、獣や近隣との諍いの際に村を守るための防壁だと知らなければ、人々のその後の生活を無視してまえば、簡単に打ち破れる。
だがカイは、シュムがまずそんな方法を選ぶはずのないことを知っている。
にっ、とシュムは笑った。
「さて打開策として、誰か一人捕まえようか。できたら口が軽そうな人」
「…目的訊くのか」
「うん。囮と聞き出すのと、どっちがいい?」
やることは決定してしまっているようだが、役どころを訊いて来るだけましになったと言えるだろうか。カイは、溜息を押し潰して右手を上げた。
「囮」
「待ち合わせは、んー、あそこの屋根の上は?」
「わかった」
シュムの指差した、街の外れにあるくせに一番大きな、赤い屋根を確認して、カイは身を隠していた隙間から素早く外に出た。そのまま走り抜け、うろついていた住人たちの注意をわざとひきつける。慌てたように集まってくる住人たちの先頭を走りながら、しばらく時間を潰せばいいだろう。
だが思っていた以上に、住人は多かった。当初より増え、今や、本当に総出ではないだろうか。
やがて袋小路に追い込まれ、塀に背をつける。しまったどじを踏んだ、と思っても遅い。人並み外れてはいるが、住人たちの頭を跳び越えて人垣か塀を突破しようか、とも思案する。
「そこまで!」
カイの服をつかんだいくつかの手が、少女の声に一瞬ゆるむ。ざわめきとともに、人々の視線は塀の上に移っていった。
「屋敷に行けって言うんでしょ、行くよ、乱暴する必要なんてない」
「…嬢ちゃんはともかく、そいつ、誘拐犯だろ」
「シュム」
「へーき…じゃ、ない、けど、まあ…なんとか」
物凄い形相で追い掛け回されているがどうにも殺すつもりはないようで、ひたすら逃げ回っていれば疲れもする。追い掛け回す方は交代もできるが、こちらはそうはいかない。子どもの体ではあるがしっかりと鍛えているシュムでも、さすがに息が切れている。
カイは、汗ばみながらも微笑するシュムにもどかしくなった。
あのくらいの人数なら、殺すことを懼れなければどうにでもできる。街からの脱出を阻む囲みも、獣や近隣との諍いの際に村を守るための防壁だと知らなければ、人々のその後の生活を無視してまえば、簡単に打ち破れる。
だがカイは、シュムがまずそんな方法を選ぶはずのないことを知っている。
にっ、とシュムは笑った。
「さて打開策として、誰か一人捕まえようか。できたら口が軽そうな人」
「…目的訊くのか」
「うん。囮と聞き出すのと、どっちがいい?」
やることは決定してしまっているようだが、役どころを訊いて来るだけましになったと言えるだろうか。カイは、溜息を押し潰して右手を上げた。
「囮」
「待ち合わせは、んー、あそこの屋根の上は?」
「わかった」
シュムの指差した、街の外れにあるくせに一番大きな、赤い屋根を確認して、カイは身を隠していた隙間から素早く外に出た。そのまま走り抜け、うろついていた住人たちの注意をわざとひきつける。慌てたように集まってくる住人たちの先頭を走りながら、しばらく時間を潰せばいいだろう。
だが思っていた以上に、住人は多かった。当初より増え、今や、本当に総出ではないだろうか。
やがて袋小路に追い込まれ、塀に背をつける。しまったどじを踏んだ、と思っても遅い。人並み外れてはいるが、住人たちの頭を跳び越えて人垣か塀を突破しようか、とも思案する。
「そこまで!」
カイの服をつかんだいくつかの手が、少女の声に一瞬ゆるむ。ざわめきとともに、人々の視線は塀の上に移っていった。
「屋敷に行けって言うんでしょ、行くよ、乱暴する必要なんてない」
「…嬢ちゃんはともかく、そいつ、誘拐犯だろ」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる