台風の目(仮)

来条恵夢

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霧囲

1-3

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 最早ほとんど霧の影響のない視界の中で、顔をカイから村の方へと向けたシュムは改めて、大きく目を見開いて立ち尽くす旧友の顔を見た。
 懐かしさや嬉しさよりも、戸惑いが圧勝だ。
「久しぶり?」
「っ、シュム?! ホントに?! なんで!? 幻覚!?」
「今のところ幻になった覚えはないけど、記憶にないだけかも?」
「やだ、シュムだわ! この生意気そうな顔!」
「…無駄にテンション高いけど、覚えてる、カイ? ほら、同属喰らいの腕を片付けたときの、って、痛いよいいかげん、ミーシャ、痛いってっ」
 きゃあきゃあとはしゃぎながら顔をで回され頬を引っ張られ、しばらくはやりたいようにやらせていたが、しつこさに振り払う。それでも、ミーシャは笑っていた。
 陽気なのはいつものことだが、いささか度が過ぎる。何年か前に再会したときの方が離れていた時間は長かったはずだが、あの時はこれほどではなかった。
「…台風シュム」
 気付けば、何人もの人が姿を現していた。どれも、呆気に取られたようにシュムとカイを見つめている。
 そのうちの一人が、懐かしい通り名を呼んだ。これも、いつもよりもずっと間抜け面をさらしている。ミーシャが惚れ込んでいるはずの渋い顔はどこへやら。
「キドニー、いいかげんその呼び方やめてくれないかなあ。で…あたしたち何か変なことしてる?」
「…お前たち、どうやってここに? 霧は?」
「うん? そりゃあ真っ白だったけど、ごくごく普通に歩いてたどり着いたよ? …あー、何かいやなオチが見えた」
 視線だけで何らかの意思をやり取りする旧友と村人たちの様子に、シュムは、げっそりと呟いた。心境としては、定番の怪談を聞いているのに近い。来るぞ来るぞ、ああやっぱり来た、というそれだ。
 そんな内心を知ってか知らずか、抱きつくように身を寄せたミーシャは、ろくでもないことを耳元で甘くささやいた。
「わたしたちみんな、出られなくなっちゃったのよ。霧を抜けられないの」
「はっはっは、やっぱそんなところかー」
 力なく笑ったシュムは、ミーシャに半ば抱きしめられたまま何気なく視線を動かし、首を傾げた。視線の先では、カイが一人立ち尽くしている。
 まさかシュムが友人たちと話していることに気後きおくれすることはないだろうし、何かに警戒している風でもない。ただぼんやりと、寝惚ねぼけているかのように立っている。
「とりあえず、ウチに来るか。立ち話も何だろう。そっちの――人も」
 以前の出会いのこともあるだろうが、見掛けでも気配でもそれと判るだろう。キドニーの口調はカイを人とは区別したものだった。
 ミーシャが、はしゃぐようにシュムを引っ張る。じゃれつく子どものように遠慮がない。
「こっち、早く早く!」
「ちょっ、そんな急がなくたってっ、…カイ、カーイっ、行くよ、置いてっちゃうよ!」
 我に返ったように、カイがシュムを見た。
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