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霧囲
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「うわあ…本当に迷子だ」
カイが霧を抜けてシュムが閉じ込められたのか、シュムが抜けられてカイが取り残されるのか、もしかすると別々に彷徨っているだけなのか、村も森の外も見えない今の状態ではわからないが、はぐれてしまったのはほぼ確実だろう。
あれでしっかりしているのでカイがどうなるのかはあまり心配はしていないが、問題はシュム自身だ。
「木にぶつかったり根っこにつまずいたりってのやりそうだなあ…やだなあ、誰か見てたら笑い話にできるのに、一人でってただの間抜けじゃないか」
ぼやきを声にして、シュムは軽い溜息をついた。
来るときはそれを防ぐためにカイにつかまっていたが、こうなっては頼れるのは自分だけで、シュムは、魔術や殺気といったものならともかく、害意のなさそうなものに対する己の感覚など信用してはいない。
夜の森で、何度アクロバティックに顔面強打を逃れ、崖から転がり落ちそうになったか。しかも、信用していないのに強気に歩いてしまうところが難点だ。
ここでも、言葉だけはぼやきながらも、さっさと歩き出してしまっている。
また風でも起こせばいいのかもしれないが、すぐにかき消されるとわかっているとそれも面倒だ。そもそもシュムは、魔力は十分にあるようだが、あまり魔導が得意ではない。
まどろっこしい、というのがその最たるものだ。
ほとんど念じるだけでいい特殊な魔法陣を扱えるというところが大きいのだろうが、どうにも、紋章にこだわって詩めいた言葉を連ねるという行動が、一人芝居のようで好きになれない。そういう問題ではないというのは解っているつもりなのだが、体術のように明確なつながりが見えにくいところも好きではない。
さすがに、というべきか、召喚術に関しては色々と頭に叩き込んだが、その他は、比較的短い呪文程度で起こせる風や光といった、単純なものしか覚えていない。少し扱いの難しくなる火を起こすことすら放棄した。
「あたし、師匠の弟子って名乗っちゃ駄目だった気がしてきた…」
真っ白な闇の中に一人でいると、普段は考えないことまで考えるようだ。シュムは、今更すぎる事に考え至って、がくりと頭を垂れた。
シュムが自ら喧伝しているわけではないが、独り立ちしてギルドに加盟するために何気なく、というよりも師らに言われた通り素直にその名を出したために、一挙に知れ渡ってしまっている。そう考えれば師は納得済みだったとも思えるが、だからといって甘えたままでよかったのか。
「今度、もうちょっとちゃんと教わろうかな」
しばらくこの国を出るつもりなので次に会えるのがいつになるかはわからないが、魔力が全くなく既に鬼籍に入った体術の師は別に、魔導の師もシュムと似たような体質だから、他の人よりは生きていてくれるだろう。
さらっとろくでもないことを考えながら、シュムは、迷いなく歩き続け、首を傾げた。
「何か…根っ子とか木とか、どこ?」
森を抜ければ草原だったとかそういうことなのか、しかしまだ抜けるほどは歩いていないはずで。濃霧があるから、村に戻ってきたというわけでもなさそうで。
ああこれは、と、シュムは歩きながら溜息をついた。
「迷ったかなあ」
こぼれた吐息に霧が揺れ、薄れることもなくただ、視界を塞いでいる。
カイが霧を抜けてシュムが閉じ込められたのか、シュムが抜けられてカイが取り残されるのか、もしかすると別々に彷徨っているだけなのか、村も森の外も見えない今の状態ではわからないが、はぐれてしまったのはほぼ確実だろう。
あれでしっかりしているのでカイがどうなるのかはあまり心配はしていないが、問題はシュム自身だ。
「木にぶつかったり根っこにつまずいたりってのやりそうだなあ…やだなあ、誰か見てたら笑い話にできるのに、一人でってただの間抜けじゃないか」
ぼやきを声にして、シュムは軽い溜息をついた。
来るときはそれを防ぐためにカイにつかまっていたが、こうなっては頼れるのは自分だけで、シュムは、魔術や殺気といったものならともかく、害意のなさそうなものに対する己の感覚など信用してはいない。
夜の森で、何度アクロバティックに顔面強打を逃れ、崖から転がり落ちそうになったか。しかも、信用していないのに強気に歩いてしまうところが難点だ。
ここでも、言葉だけはぼやきながらも、さっさと歩き出してしまっている。
また風でも起こせばいいのかもしれないが、すぐにかき消されるとわかっているとそれも面倒だ。そもそもシュムは、魔力は十分にあるようだが、あまり魔導が得意ではない。
まどろっこしい、というのがその最たるものだ。
ほとんど念じるだけでいい特殊な魔法陣を扱えるというところが大きいのだろうが、どうにも、紋章にこだわって詩めいた言葉を連ねるという行動が、一人芝居のようで好きになれない。そういう問題ではないというのは解っているつもりなのだが、体術のように明確なつながりが見えにくいところも好きではない。
さすがに、というべきか、召喚術に関しては色々と頭に叩き込んだが、その他は、比較的短い呪文程度で起こせる風や光といった、単純なものしか覚えていない。少し扱いの難しくなる火を起こすことすら放棄した。
「あたし、師匠の弟子って名乗っちゃ駄目だった気がしてきた…」
真っ白な闇の中に一人でいると、普段は考えないことまで考えるようだ。シュムは、今更すぎる事に考え至って、がくりと頭を垂れた。
シュムが自ら喧伝しているわけではないが、独り立ちしてギルドに加盟するために何気なく、というよりも師らに言われた通り素直にその名を出したために、一挙に知れ渡ってしまっている。そう考えれば師は納得済みだったとも思えるが、だからといって甘えたままでよかったのか。
「今度、もうちょっとちゃんと教わろうかな」
しばらくこの国を出るつもりなので次に会えるのがいつになるかはわからないが、魔力が全くなく既に鬼籍に入った体術の師は別に、魔導の師もシュムと似たような体質だから、他の人よりは生きていてくれるだろう。
さらっとろくでもないことを考えながら、シュムは、迷いなく歩き続け、首を傾げた。
「何か…根っ子とか木とか、どこ?」
森を抜ければ草原だったとかそういうことなのか、しかしまだ抜けるほどは歩いていないはずで。濃霧があるから、村に戻ってきたというわけでもなさそうで。
ああこれは、と、シュムは歩きながら溜息をついた。
「迷ったかなあ」
こぼれた吐息に霧が揺れ、薄れることもなくただ、視界を塞いでいる。
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