台風の目(仮)

来条恵夢

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霧囲

2-5

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「すまないな」
「あんたのせいじゃないだろう」
 繰り返しの言葉に、少しばかり馬鹿らしくなる。しかし、言いたくなるのは、それはそれでわかる気もする。
 友好的なことはないだろうと思っていたが、こうもはっきりと、怯えではなく敵意を示されるとは思わなかった。怯え、恐怖されることは予想していたのだが。
 この二人にも、少しばかり予想外だったようだ。
 村人たちの事だ。とりあえず顔合わせと紹介を、と集められた村人たちは、どれも陰鬱に敵意を光らせていた。
「この状況だ、石が飛んでこなかっただけましかもしれないな」
「…すまない」
 だから、謝られるようなことではない。
 うんざりとしながら言葉を呑みこんで、カイは、案内された部屋を見回した。茶を振舞われかけたのは女の小屋で、こことは別だ。二人は別々の小屋で生活しているらしかった。結婚しているわけではなかったのかと、少し意外に思う。
 男の小屋は、素っ気無く、ベッドと机と椅子の組み合わせだけがぽつんと置かれていた。
「俺がここを使うとして、あんたはどうするんだ? あの女のところに行くのか?」
「いや、それはない」
「…。あんたが気にしないなら、俺は、そのへんにわらでもいてもらったらそれで十分だが」
「それは…そっちこそ大丈夫なのか、俺が寝込みを襲うとは思わないのか」
 大真面目に言われ、まばたきしか返せない。
 だがよくよく考えてみれば、役に立つかどうかもわからずそのうち敵対するかもしれないような得体の知れないやからなら、さっさと排除しておくのが得策ではある。ただそれは、相手がよほどの格下ならともかく、言ってしまっては駄目だろう。
 そしてカイには、それなりに強いだろうとは思うが、この男に遅れを取るということがいまいち想像しづらい。あの女の方が、まだ考えられる。これは、どちらかといえば攻撃法の相性の問題だ。
 人の作ったただの武器や素手で、あっさりと殺されてしまうほどに、カイはか弱くはない。
「あんたに俺が殺せるとは思えない。そういうことを言ってる時点で、その気はないんだろ」
「う。ま…まあ、な…。いやでも、そう言ってお前を油断させるつもりかもしれないだろう?!」
「…いや、だから」
 わざわざそれを口にする時点で、やはりこの男は随分なお人よしだ。大分考え方が読みやすくて、助かる。
「あんたが俺を怖がるなら別だが、俺にはあんたを恐れる必要がない」
「……お前、ちゃんと長生きしろよ…?」
「はあ?」
 何故かしみじみと呆れたように見つめられ、頓狂とんきょうな声が出る。
 どうしたものかと思う間もなく、扉が派手に開け放たれた。夕暮れの風が一緒に吹き込む。顔をのぞかせたのは、くだんの女魔導師だ。
「話聞いてきたわよ。ここ、私たちが来る前にも村自体はあったみたい」
 村人たちに、カイ――というよりもその種族に対する敵意の原因を聞き出して来たという女は、カイたちを見やって顔をしかめた。
「どうして立ったままなの?」
 別に立ち話をしようと決めたわけでもなく、ただなんとなく立ったままになってしまっていたカイと男は、困ったように目を見交わした。女は、ため息をつくと椅子を引き出しカイの前に置き、男をベッドに座らせると、そのまま自分も隣に腰を下ろす。
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