台風の目(仮)

来条恵夢

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霧囲

3-3

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 夢すら見ずに目覚めると、洞窟の外は変わらずに真っ白だった。
「あー…残念」
 せめて、ローブにくるまるだけでも風邪かぜすらひかずに済んでいることを喜ぶべきだろうか。案外素直にそんなことを考えながら、手早く荷物をまとめ、さてどうしたものかと首をかしげる。
「えーっと。…とりあえず、奥行ってみよう、かな?」
 昨日は、この洞窟にまだまだ奥があることだけ確認して入り口に居座っていた。大分歩いたところで分岐ぶんきがあることに気付いて、嫌気が差したせいだ。獰猛な生き物が眠っている間に出てきたりしなかったのは、そこそこ強運かもしれない。
 一応、何かあれば眠っていても気付くはずだが、今の爽快感からすると怪しかった。
「すんなり反対側の出口に到着、霧も抜けました、だったりしたらいいんだけどなー」
 当面最後の呟きを落とし、短く迷った末に、小さなランタンにひそやかな明かりをともして歩き出す。頼りないが、ないよりはましだ。視界確保のためでもあるが、多くの生き物は、いつもにない状態なら警戒してしばらくは手出しを控えるはずだ。
 シュムとしては、この洞窟に出口があるのならそこを目指し、ないなら戻るだけなので、住み着いている何かがいたとして、やりすごしてもらえるならありがたい。
 カイがいれば、小さ音も拾ってくれるだろうし、シュムよりもよほど気配には敏感だ。そんなことを考えてから、頼りすぎているなあと、胸の内でだけため息を落とす。実際に吐き出せば、長々と続いて、うっかりとランタンの火を消しかねない。
 これでも、同齢程度の同業者たちよりは経験があるとの自負があるのだが。随分と、気のいい友に甘えてしまっている。
 足元に気を配り、闇に眼をらしながらも、考え事に沈む。
 幼かった頃、外見と年齢にあまり喰い違いのなかった頃。シュムには、友達と呼べるような相手はいなかった。身内ですら、妹と曾祖母を除けば親しくはなかった。その反動なのか、力の使い方を覚えたシュムは、やたらと友達を増やそうとした。
 だが、それがただの利用でなかったと言い切れるだろうか、とも思う。
 何の報酬も与えず、友達だからと押し切って一方的に彼ら彼女らを利用してはいないだろうか。だとすれば、契約を盾に使役するよりも余程性質たちが悪い。
 そこまで考えて、シュムは、その場にうずくまりたくなった。頭を抱えて、思い切り落ち込みたい。
「――誰か、いる…?」
 白い霧の向こうが、ほのかに明るい。こぼれ落ちたつぶやきを放置して、シュムはを進めた。
 ぽかりと、開けた空間が広がっていた。
 不自然なほどに唐突に霧が途切れ、目にしたあかるさは、天井に空いた穴から降りそそぐ太陽の光だったと知る。
 そこに、女が居た。
 壁に背を預け、眠っているのか、顔はうつむいている。そのために顔をおおってしまっている髪はいささか傷んでいるが、野暮やぼったい魔導師のローブの上からでも、体つきや雰囲気で女だろうと判る。
「…だれ?」
 シュムが足音を立てたのか、気配にか、女はゆっくりと顔を上げた。温和な顔立ちをしている。三十前後くらいか、と、大雑把に年齢をはかった。
 魔導師なら違和感に気づくかな、と思いつつも、シュムは、外見の年齢にふさわしいだろう笑顔を取りつくろった。
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