第十一隊の日々

来条恵夢

文字の大きさ
17 / 34
三章

昇進試験のこと 4

しおりを挟む
『ルカたち戻ってるか』
 避難訓練の放送の入る少し前、かかってきた電話に出たソウヤの耳に飛び込んできたリツの声は、やや強張っていた。
 ソウヤは、控えめながら興味津々といった様子で部屋の中を見ているマキに目をやり、半分背を向けた。
「ヒシカワは戻ってません。キラとスガは着替えに向かいました。残ってるのは、自分と客人だけです」
『客? 一般人か?』
「はい」
 舌打ちの音が聞こえた。
『妖異が逃げた。客を連れて外に出ろ。で、三隊と四隊が主にやってるから、手伝って避難誘導してくれ』
「了解」
 短いやり取りを終えると、待っていたかのように放送が入った。マキを見ると、怪訝けげんそうにみつめてくる。
「いつもは、事前告知がなかったかしら?」
「よく御存知で。…ま、疑問は後にしましょう。エスコートさせてください」
「あらありがとう」
 ダンスを申し込むように差し出した手を取り、マキはにっこりと微笑んだ。優雅な身のこなしに、旦那がいるなんて残念、と、心の中でだけ思っておく。
 社長夫人ともなれば露出は多く、謎の女を気取られたところでソウヤにわからないはずがない。しかし、そんなことは告げる必要のないことだ。
「歩きながらでいいから、質問に答えてもらえる?」
「答えられる範囲でなら、喜んで」
 くすり、とあでやかに笑う。眼福がんぷく、と思いながら笑い返す。
「妖異が人に寄生したら、あなたたちはどうするの? そのあたり、一般人には正確に伝わってこないのよね」
「うーん、それは広報部の領域ですね、申し訳ありません」
「それじゃあ、妖異と人を分離する方法はあるの?」
「ありますよ」
 程度によってだが。
 例えば腕に寄生していれば、そこを切り落とせばいい。つまり、悪性腫瘍と同じような対処しかできないことになる。部位によっては、分離は死を意味することになる。
 それらは告げずにおいたのだが、マキは心細そうに黙り込んでしまった。ややあって開かれた口からは、暗い声がこぼれ落ちる。
「断定するわりに、妖異がらみでの生存率は低いわね」
「そうですか。現場ではデータなんてろくに見ないので、ちょっとわかりかねます」
 一般人の誘導で、一階は混雑していた。人込みにつぶされないよう、ソウヤはマキのエスコートを続けた。
 黙り込んで大人しく従ったマキは、だが、外に出て誘導班に身柄を預けようとしたところで、ソウヤの腕を掴んだ。
 必死な目に遭う。
「寄生されたのが仲間でも――攻撃するの?」
 見つめ返す。似た質問を受けたことがあると気付くが、答える声に影響はなかった。
「それを恐れるようであれば、兵団ヘイダンではやっていけませんよ」  
「――そう。ありがとう、お仕事頑張って」
 無理に微笑んで、マキは離れていった。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

処理中です...