地球と地球儀の距離

来条恵夢

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教室 2003/5/13

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 泣きたくなったら、どこに行くか。

 答えはそれぞれだろうが、美波ミナミの場合それは、自分の部屋だった。誰もいないよく知った部屋で、布団にでも突っ伏したい。
 しかし今は学校で、とてもではないがそんなことは不可能だった。家までは自転車で四十分ほど。どこでもドアでも借りてこない限り、無理だ。
 それならばと、美波は空き教室に駆け込んだ。二年生の教室の一番端、一組だ。二年生は修学旅行中で、きれいに空だった。
 教室の片隅で、薄汚れたカーテンを掴んで、美波は大粒の涙を流したのだった。

 昼寝をするとしたら、どこに行くか。

 とりあえずは布団のあるところ、あるいは木陰や日の当たる窓辺。そんな誰もが思い浮かべそうな場所も良かったが、ケイならば人のいないところ、というのを第一条件に挙げる。
 寝顔というのはどうしようもなく無防備で、誰かに見られるなどということはできるだけ避けたかった。よって、計は授業中にも居眠りをすることはなかった。
 手近な、誰もいない二年生の教室に忍び込むと、計はおもむろにイスに腰掛け、目をつぶったのだった。


 そろそろ日も沈もうかという時刻で、外は薄暗くなっていた。電気もつけていない教室は、すっかり暗い。

「…帰ろ」

 れぼったい目を押さえて、美波は立ちあがった。カーテンはしわしわでぬれているし、自分もきっと酷い顔をしているだろうが、気分は大分ましになっていた。
 部活でもめて、これは悔し涙だ。だからこそ余計に、誰にも見せたくなかった。
 せめて顔を洗ってからにしようと、美波は教室の戸に手をかけた。これから、部室に荷物を取りに行かなければならない。ついでに、ジャージから制服に着替えたいところだ。
 まだ部員も残っているだろうが、かといって全員が帰るまで待つ気にもなれない。

「ふぁ――ぁ」

 ぴたりと、足が止まる。
 美波は、引きつった表情で振り返った。窓の薄ぼんやりとした光の中に、両手を伸ばす人影があった。
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