地球と地球儀の距離

来条恵夢

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なぜ 2004/4/17

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 雪の降る夜。 
 セルフェウスは、雪道を歩いていた。人通りの少ない、山のすそ野のようなところを歩いていると、手が見えた。 
 手。 

「…は?」
 
 煙草の煙をくゆらせながら、雪に埋もれた手を見て、どうしたものかと、少し考えた。 

「おい、生きてるか?」 

 とりあえず、爪先でつついてみる。 
 小さな雪山が揺れたような気がして、しゃがみ込む。 

「生きてるか?」 

 雪を積もらせて、倒れた人間。 
 拾うとすれば、厄介な荷物には違いないが―― 

「生きたいか?」 

 返事はない。手を握る。かすかにではあるが、握り返された。 
 もちろんセルフェウスは、それが意志ではなく反射の結果であるだろうことは知っている。しかし、だからこそ、まだ生きているということが判る。 
 生きているのなら、それが例え無意識でも、生きようとしているのなら、見捨てようとは思わない。 
 肩をすくめて、冷え切った手を引っ張り上げる。思っていたよりも軽かった。 




「ん……?」
 
 リリィアが目覚めたのは、質素ながらもあたたかい部屋だった。 
 見覚えは、一切無い。 

「飲むか?」 

 突然、目の前に出されたカップと、それを持つ男を見る。そり損ねたらしい無精ひげが、似合ってしまっている。 
 しばらく男とカップを見比べて迷っていたが、盛大に腹が空腹を訴え、苦笑されながらカップを手渡された。その前に、体を起こすのも手伝ってくれた。どうも、慣れているようだった。 

「…あなたは? 私、どうしてここに…」 
「とりあえず、もう少し休みが必要だな。話を聞くのもするのも、後だ。ゆっくり休め」 

 まるで子供にするように、軽く頭をなでる。幼い日の、危険の心配もしなかった頃のことを思い出す。すっと、眠りが訪なった。 

「厄介なもん、拾っちまったなあ」 

 本当にそう思っているのか怪しいような口調で、セルフェウスは呟いた。少女に気遣ってか、くわえている煙草には、火はついていなかった。 
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