雨舞い

来条恵夢

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昨日の未来

数日後

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 今日も忙しく、霧夜キリヤは働いていた。
 この数日というもの、わすかながら、いつもより患者が増えていた。その増えた分は負傷者が多く、人数に比べて、いささかせわしくなった。

「今まで来なかった顔が増えたなあ。気付いてたか、霧夜」
「はい。金城のところの構成員が流れてきていますね。何かあったんでしょうか」

 シーツやガーゼを取り替えている里香の代わりに器具を煮沸消毒しながら、霧夜はさらりと言ってのけた。嘘はついていないし、そういったことを表に出さないのは、慣れたことだ。

「ああ、金城のところか。あそこはたしか、医者で立派なのが一人いたはずだがなあ。どこかいっちまったか?」
「そうですね。とりあえず、千客万来でいいんじゃないですか?」
「うーん、どうせもうけなんて少ないんだ、もう少しのんびりした方がいいなあ」
「里香さん、次の方をお通ししてください」
「はーい」

 おい霧夜、里香、と寶は恨みがましく言うが、霧夜どころか里香も取り合わず、待たせていた患者を呼びに行く。むう、と老年医師は口を曲げて、霧夜を軽く睨みつけた。
 いつもは眠たげな目も、眼光が鋭くなると貫禄めいたものがある。しかし霧夜は、素知らぬ顔で消毒を終えた器具を片付ける。
 寶は不意に、にやりと笑った。

「霧夜」
「はい」
「お前も、しばらく助手をしているな。どのくらいになる?」
「大体二年ですが…それが?」

 にやり、と。

「今日の診察はお前にたのむ。厄介なのは、わしが見てやらんこともないがな」
「…先生?」
「なあに、向こうにいる。じゃあ、任せたぞ」

 宝は、腹痛を訴える患者を連れた里香と入れ替わりに出て行ってしまい、霧夜は短く溜息をついた。少し驚いたような里香に肩をすくめて見せると、腹をくくった。
 向かいに座った青年に、にこりと笑いかけた。

「どんな風に痛いか、具体的に教えてもらえますか?」

 穏やか――ではないかもしれないが、そこには、日常があった。
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